労災に遭遇して負傷した場合、治療をしてもそれ以上改善せず、後遺障害として症状が残ってしまうことがあります。このコラムでは、その中でも後遺障害11級を取り上げ、具体的な症状や請求できる費目などについて詳しく解説します。
11級に認定されると、労災保険から、被災者の算定基礎日額×223日分の一時金が給付されます。
1 労災における後遺障害とは?
労災においては、後遺障害が問題となることが少なくありません。
後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。
通常、これ以上治療しても症状が改善しないと医師に判断してもらい、「症状固定日」を決めてもらいます。
後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。
これらが認定されると、それぞれに応じた給付がなされることになります。
2 後遺障害11級の認定基準
(1)後遺障害11級の症状
後遺障害11級には、下記の症状があります。
労働能力喪失率でいえば、20%(つまり5分の1が失われる)です。
1 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
2 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
3 | 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
3の2 | 十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの |
3の3 | 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
4 | 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
5 | せき柱に変形を残すもの |
6 | 一手の示指、中指又は環指を失ったもの |
7 | 削除 |
8 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの |
9 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
(2)認定のポイント
後遺障害11級は、労働能力喪失率20%であり、仕事や日常生活に影響を与えることが想定されております。
比較的、この等級の中で認定されるケースが多いのは、せき柱に変形を残す障害です。重機による事故や転落事故、フォークリフトなどの衝突事故などで強い衝撃を受け、その結果、せき椎圧迫骨折や脱臼などを残し、エックス線写真等により確認できる場合や、せき椎固定術が行われた場合、3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けた場合などがこれに当たります。
食品製造の機械に手を巻き込まれ、手指を中手骨または基節骨で切断した場合、近位指節間関節(PIP)※親指は指節間関節(IP)において、基節骨と中節骨とを離断した場合などがこれに当たります。
ご自身の症状を医師に正確に伝えていただき、実際の症状をできるだけ正確に反映した後遺障害診断書を作成してもらうことが重要になります。
3 労災から受けられる給付
(1)労災から受けられる給付
後遺障害11級が認定されると、労災から各種の給付を受けることができます。
後遺障害が認定された場合、障害補償給付を労災から受けることができます。
障害等級が1級から7級に該当するときは、「障害補償年金」として年金が、障害等級が8級から14級に該当するときは、「障害補償一時金」として一時金が支給されます。
(2)障害補償一時金
11級の場合、障害補償一時金が支給されることになり、その金額は給付基礎日額の223日分とされています。
給付基礎日額とは、労働基準法が定める平均賃金に相当する額をいいます。
原則として、労災発生前3か月間に労働者に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った金額とされています。
(3)障害特別支給金
これ以外に、11級の場合、「障害特別支給金」として29万円が支給されます。
算定基礎日額とは、算定基礎年額を365で割った金額をいいます。
算定基礎年額とは、労災発生前1年間に支給された特別給与(賞与等の3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額をいいます。
なお、特別支給金は、前述の一時金とは異なり、いわゆる損益相殺(会社に損害賠償請求するような場合に、既払金として損害額から控除されること)の対象ではありません。
4 労災以外で請求できるもの
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。
後遺障害の等級により金額が異なり、11級の場合、弁護士基準(いわゆる「赤本基準」)では、420万円を請求することができます。
(2)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。
後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。
ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する賠償金を先に受け取る場合に控除する指数をいいます。
11級の労働能力喪失率は、20%です。
例えば、年収500万円の正社員で症状固定時に40歳であれば、単純計算、500万円×20%×18.327=1832万7000円になります。
(3)それぞれの請求先
これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や労災に相手方がいれば相手方に請求する必要があります。
5 弁護士に相談・依頼するメリット
後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。