労災に遭遇して負傷した場合、治療をしてもそれ以上改善せず、後遺障害として症状が残ってしまうことがあります。
このコラムでは、その中でも後遺障害10級を取り上げ、具体的な症状や請求できる費目などについて詳しく解説します。
1 労災における後遺障害とは?
労災においては、後遺障害が問題となることが少なくありません。
後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。
通常、これ以上治療しても症状が改善しないと医師に判断してもらい、「症状固定日」を決めてもらいます。
後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。
これらが認定されると、それぞれに応じた給付が労災からなされることになります。
2 後遺障害10級の認定基準
(1)後遺障害10級の症状
後遺障害10級には、以下の症状があります。
ご覧いただければわかるとおり、視力障害や聴力障害など、日常生活にかかわってくる症状が多いです。
号 | 症状 |
1 | 一眼の視力が0.1以下になったもの |
2 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
3 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの |
4 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
5 | 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
6 | 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの |
7 | 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの |
8 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
9 | 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの |
10 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
11 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
(2)認定の要件
後遺障害10級は、障害の程度が相当程度高く、仕事や日常生活に少なからぬ影響を及ぼすことが多いでしょう。
ア 視力障害について
視力の低下等の眼に関する症状については、後遺障害といえるかどうかの判断が難しいこともありますので、ご自身の症状を医師に正確に伝えていただき、実際の症状をできるだけ正確に反映した後遺障害診断書を作成してもらうことが重要になります。
視力障害については、万国式試視力表を用いた検査(一部分が切れた環を使用し、環の切れた場所を回答させる検査)により検査した視力を基に判断されます。
「複視の症状を残すもの」といえるためには、複視の自覚があり、特定の検査により複視があることが認定されたものである必要があります。
イ 聴力障害について
聴力障害(5号・6号)については、自覚的検査及び他覚的検査により、聴力を検査し判断されます。
ウ 口の障害について
「咀嚼機能に障害を残す」とは、固形の食べ物のうち、たくあん、らっきょう、ピーナッツなど一定の固さのものは咀嚼がまったくできないか、十分にできない状態をいいます。
「言語機能に障害を残す」とは、以下の4種の子音のうち、1種以上の発音ができない状態をいいます。
口唇音(ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ)
歯舌音(な行、た行、だ行、ら行、さ行、しゅ、し、ざ行、じゅ)
口蓋音(か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
喉頭音(は行)
「14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」とは、歯を失ったり著しく欠損したりした場合に入歯やブリッジなどの人工物で補う処置のことをいいます。また、治療のために歯冠部を4分の3以上削ることになり欠損した場合も、歯科補綴に含まれます。
つまり、14本以上の歯に対して、入れ歯やブリッジといった処置が行われた場合、後遺障害10級4号が認定されることになるでしょう。
エ 上肢・下肢の障害について
上肢・下肢の障害については、画像診断や測定により、症状を診断してもらうことになります。
3 労災から受けられる給付
(1)労災から受けられる給付
後遺障害10級は、認定されるハードルが高い代わりに、認定されると、労災から各種の給付を受けることができます。
後遺障害が認定された場合、障害補償給付を労災から受けることができます。
障害等級が1級から7級に該当するときは、「障害補償年金」として年金が、障害等級が8級から14級に該当するときは、「障害補償一時金」として一時金が支給されます。
(2)障害補償一時金
10級の場合、障害補償一時金が支給されることになり、その金額は給付基礎日額の302日分とされています。
給付基礎日額とは、労働基準法が定める平均賃金に相当する額をいいます。
原則として、労災発生前3か月間に労働者に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った金額とされています。
(3)障害特別支給金
これ以外に、10級の場合、「障害特別支給金」として39万円、「障害特別一時金」として
算定基礎日額の302日分が支給されます。
算定基礎日額とは、算定基礎年額を365で割った金額をいいます。
算定基礎年額とは、労災発生前1年間に支給された特別給与(賞与等の3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額をいいます。
4 労災以外で請求できるもの
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。
後遺障害の等級により金額が異なり、10級の場合、弁護士基準(いわゆる「赤本基準」)では、550万円を請求することができます。
(2)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。
後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。
10級の労働能力喪失率は、27%です。
(3)それぞれの請求先
これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や労災に相手方がいれば相手方に請求する必要があります。
5 後遺障害認定を受けるためのポイント
(1)通院を継続的に行う
適切な後遺障害認定を受けるためには、継続的にある程度の期間通院することが重要です。通院が少なかったり、通院期間が空いてしまったりすると、治療の必要性がない、または、症状の程度が軽いと判断されてしまう可能性があります。
そのため、適切な後遺障害認定を受けるためには、通院は継続的かつある程度の期間(3か月~半年程度)行っていただく必要があります。
その際は、医師による診断がポイントになります。
接骨院や整骨院の治療は、後遺障害認定においてはあまり重視されませんので、病院でお医者さんの診断を受けるようにしましょう。
なお、相手の保険会社は、3か月~半年程度で治療費の支払いをやめる(打切り)と言ってくることが多いです。
ただ、適切な後遺障害認定には、継続的かつある程度の期間の通院が必要ですので、相手保険会社が打切りを主張してきた場合には、打切りの撤回を交渉し、場合によっては健康保険などで通院することも検討するべきです。
(2) 後遺障害等級認定に必要な検査を受ける
適切な後遺障害認定を受けるには、認定にあたって必須となる検査を漏らすことなく受ける必要があります。
例えば、10級1号「1眼の視力が0.1以下になったもの」に認定されるためには、視力検査が必須です。
単に、後遺障害診断書に視力が低下していることだけを記載があっても、具体的にどの程度視力が低下しているのか明らかにしなければ、認定されることはありません。
したがって、後遺障害申請をするにあたっては、認定される可能性のある後遺障害等級を踏まえて、実際に認定されるには、どのような検査を実施しなければならないかを検討し、適切な検査を受ける必要があります。
(3)過不足のない後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害等級は、後遺障害診断書に記載されていることが審査の対象となります。
したがって、後遺障害の認定にあたっては、後遺障害診断書の記載内容がとても重要となります。
自覚症状のみならず他覚症状(所見)も十分に記載されていることが重要です。
例えば、可動域制限があったとしても、可動域検査の結果が記載されていない場合には、可動域制限はないものとして審査されてしまいます。
後遺障害の申請にあたっては、お医者さんとよくお話をし、自分の症状が漏れることなく後遺障害診断書に記載されているかをしっかりと確認することが大切です。
6 弁護士に相談・依頼するメリット
後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。