遺産の内、不動産については、その利用に何らかのハードルがあって相続したくない又は手放したいと思っているというケースも少なくありません。そんなときに採れる手段について、相続土地国庫帰属制度の紹介も含めて、弁護士が解説いたします。

1 不動産は要らないというケースが増えている

1 不動産は要らないというケースが増えている

「遺産(相続財産)の中に不動産があるけれど、本音では要らないと思っている」というケースが、最近では増えつつあるように感じています。

例えば、

●老朽化した木造の実家。少なくともリフォームしないともう住めない。
●遠隔地に住んでいる親族の自宅。手入れに行くのも難しい。
●祖父母が耕していた農地。自分は別の仕事をしており農業をやる予定がない。
●親が買った山林。値上がりすると聞いていたみたいだけど、買い手は付かないままのようだ。

…など、様々な事情があり得ます。

預貯金・現金を相続した場合は、手元に回収したそのときから自分の財産として費消していくことが容易です。

しかし不動産の場合は、賃貸物件などでもない限り、現地へ行って自分で活用するか、売却して換金するなどしなければ、「あるだけ」「もっているだけ」の財産ともなりかねません。ひと手間ふた手間かかってしまうことがある財産、それが不動産です。

2 遺産の中の不動産、不要な場合の対処法は?

2 遺産の中の不動産、不要な場合の対処法は?

遺産の中に不動産があるけれども、自分はその不動産を相続しても困る、あるいは相続したくないといったような場合には、どうすれば良いのでしょうか。

相続が既に発生している場面(被相続人がお亡くなりになった状況)では、①相続放棄をする、②他の相続人に取得してもらう、③売却をする、といった方法が考えられます。

それぞれメリットもありますが、デメリットもあります。

例えば①相続放棄の場合には、民法で決められた期間内(原則、被相続人が亡くなってから3ヶ月以内です。)に管轄の家庭裁判所で手続をする必要があります。

相続放棄ができれば、遺産である不動産を相続することはありません。

一方、相続放棄は「この遺産だけ相続放棄する」というように、放棄の範囲を選んですることができません。預貯金や不動産のようなプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めた全ての相続財産について、相続をする又は相続をしないの2択になってしまいます。

したがって、不動産も含めた全ての遺産について不要(または相続することを諦めても良い)という場合には、相続放棄をすることが最も確実な方法ということになりますが、預貯金などの遺産の一部は相続したいという場合には採用できない方法ということになります。

②他の相続人に取得してもらうという方法は、遺産分割協議の際に遺産の分け方を話し合いで工夫するということになりますが、他の相続人もその不動産が不要と思っている場合には、不動産の押し付け合いになり、結局話し合いがまとまらないということにもなりかねません。

そうなってしまうと、遺産全体について分割が進まなくなってしまいます。

上記②で話し合いがまとまらない場合や、そもそも他の相続人がいないという場合には、相続人の全員で協力するか、一部の人が引き受ける形で、遺産である不動産を売却して手放すということが現実的な選択肢になってきます。

しかしこれは、実際には、一度不動産を取得(相続)してその上で売却するということになりますから、買い手が見つからなければ、ずっと手放せないままとなってしまいます。

なお、遺産である不動産が「建物」だけである場合には、相続人らで協力して解体してしまうというのも一案ということになります。その場合には、建物の管理の負担からは逃れることができますが、解体にかかる費用は負担する必要が出てきます。

このように、どの選択肢も一長一短であり、その事情に合わせてより良い選択肢を選択していくしかないということになります。

3 もうひとつの選択肢「相続土地国庫帰属制度」

3 もうひとつの選択肢「相続土地国庫帰属制度」

不要な不動産を相続したものの、売却等も叶わず管理が負担であるといった場合に、令和5年4月から、採り得る選択肢がひとつ増えました。

それが、「相続土地国庫帰属制度」です。

この制度は、簡単に言えば、相続財産(遺産)中に不要な「土地」があった場合に、その土地を国庫に帰属させることができるというものです。

つまり国が所有権を引き取ってくれるわけですね。

これだけを聞くと便利そうな制度ですが、実際には様々な条件があり、なかなか一筋縄ではいかない制度となっています。

以下、詳しく見ていきます。

⑴制度利用ができる人は?

⑴制度利用ができる人は?

相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や遺贈によって土地を取得した「相続人」になります。

相続人に限られているので、遺贈を受けた第三者(法定相続人以外)の方は制度の利用対象者に含まれません。

法定相続人が複数の子であるケースなど、複数人が共同で土地を所有することになった場合には、共有者全員で制度を利用することになります。

⑵制度利用ができる不動産は?

⑵制度利用ができる不動産は?

制度利用の対象となるものは、まず、不動産の中でも「土地」に限られます。

「建物」は含まれません。

おそらく「土地」と違い「建物」は劣化するものであり、また、解体して無くしてしまえば所有権そのものを消滅させることができるのに対して、「土地」は壊して無くすことができないという性質の違いによるものと思われます。

そして、「土地」の中でも、一定の土地については、制度利用ができない場合があります。

具体的には、

●建物が建っている土地
●抵当権などの担保権や、賃借権などの使用収益権が設定されている土地
●墓地や通路など、他人の利用が予定されている土地
●土地同士の境界や所有権についての争いがある土地
●崖があり、擁壁工事などが必要な土地
●土地の上に放置車両や産業廃棄物が放置されている土地

等の場合には、制度利用ができない場合があります。

(※実際には、法務局が実地調査を行い、却下もしくは不承認に当たるか判断されることになります。)

詳細や具体例については法務省の下記HPが詳しく解説しています。

参照:法務省HP「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」

したがって、老朽化した実家や遠方の空き家になっている親族の自宅については、建物を取り壊さない限り制度の利用ができません。

また、崖地、定期的な伐採が必要な森林や竹林、放置車両や放置ごみがある土地など、相続人が「不要だ、面倒だ、困る」と思うような土地については、なかなか制度利用ができないということになっています。

そういった意味で、「不要な土地を手放せる魔法の制度」とはなっておらず、使いにくいという声もあるところではあります。とはいえ、国が管理・処分する原資は次に述べる負担金のほかは、税金が充てられることになりますので、致し方無いところではないでしょうか。

ちなみに、土地の地目が「田」「畑」になっている農地や、「山林」などの場合でも、それだけで制度の対象から外れることはありません。

農地や山林は買い手が見つからないことも多く、そのような場合に相続土地国庫帰属制度によって土地を引き取ってもらえるということには大きな意味があるものと思われます。

ただし、例えば山林で隣地との境界が曖昧であるとか、農地で土地改良法の関係で土地所有者に賦課金の支払義務があるとか、制度の対象外となる事情がある場合があります。

制度の対象となるかどうかは、上記法務省HPで情報を確認するほか、制度の手続を担当する法務局での相談も行っているとのことなので、事前に確認し検討すると良いと思われます。

⑶費用はどれくらいかかる?

⑶費用はどれくらいかかる?

まず、制度利用の申請の際に、審査手数料として1筆につき1万4000円が必要です。

次に、制度の利用が可能ということになれば、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した、10年分の土地管理費相当額の「負担金」を納付する必要があります。

負担金の基準は1筆につき20万円とされているようです(土地の種類や立地によっては、面積に応じて算定されることもあります。)。

計21万4000円、高いでしょうか、安いでしょうか。

決して安い金額ではないと思われますが、管理にかかる手間やコストを考えれば気にならない金額かもしれません。

また、二束三文な金額で売却をするということと比べた場合にも、売買に至るまでの手間や経費。コストを考えれば、さほど変わりはないかもしれません。

いずれにしても、相続土地国庫帰属制度を利用する場合には、国に土地を売るというのではなく、「国にお金を払って土地を引き取ってもらう」制度だという風に理解するほうが良いと思われます。

制度については、こちらのコラムでも詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

4 不動産対策は生前の準備も有用

なお、まだ被相続人(不動産の所有者)が存命である場合には、いわゆる「終活」のひとつとして、不動産の帰趨について予め対策しておいてもらうことも有用です。

自宅については、そもそも亡くなるときまで居住していたり、家財道具や思い出の品などがあったりして、生前に処分することは難しいかもしれません。

しかし自宅以外の不動産で、使用していないものがあるのであれば、売却等の処分を考えても良いと思われます。

また自宅については、誰が自宅を取得するか、自宅の片付けにいくらかかるか等を生前に家族で話し合い、遺言書を書くということも考えられます。ある相続人に自宅を相続させた上で、片付けを行うための費用分を多めに相続させる旨の遺言があれば、相続人間の不公平感が解消したり、相続人自身の負担が軽減されることにも繋がります。

どのような対策が適しているかは、それぞれのご事情やご意向にもよるところが大きいので、ぜひ弁護士までご相談ください。

5 まとめ

5 まとめ

以上見てきた通り、不動産の相続というのは歓迎されることも歓迎されないこともありますが、不動産を不要だと思った場合に採ることのできる手段はあまり多くはありません。

また、令和5年4月から相続土地国庫帰属制度がスタートしています。不動産の内「土地」が不要な場合には利用が考えられる制度ですが、利用できる条件・要件があり、無条件で国が土地を引き取ってくれる制度ではありません。他方、買い手が付かないような土地でも、条件を満たせば引き取ってくれるため、場合によってはとても有用な制度になっています。

いずれの方法が採用可能なのか、または最適なのかという点は、難しい判断にもなりますので、ぜひ弊所の相続専門チームへご相談下さい。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜

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