労災に遭遇して負傷した場合、治療をしてもそれ以上改善せず、後遺障害として症状が残ってしまうことがあります。このコラムでは、その中でも後遺障害3級を取り上げ、具体的な症状や請求できる費目などについて詳しく解説します。
1 労災における後遺障害とは?
労災においては、後遺障害が問題となることが少なくありません。
後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。
通常、これ以上治療しても症状が改善しないと医師に判断してもらい、「症状固定日」を決めてもらいます。
後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。
これらが認定されると、それぞれに応じた給付が労災からなされることになります。
2 後遺障害3級の認定基準
(1)後遺障害3級の症状
後遺障害3級には、以下の症状があります。
ご覧いただければわかるとおり、視力障害、言語障害や手指の損傷など、日常生活に大きな支障を生じる可能性のある症状が多いです。
号 | 症状 |
1 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
2 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの |
3 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
4 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5 | 両手の手指の全部を失ったもの |
(2)認定の要件
後遺障害3級は、障害の程度が相当程度高く、仕事や日常生活に大きな影響を及ぼすことが多いでしょう。
ア 視力障害について
後遺障害3級1号に認定される症状は、「1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になつたもの」です。
以下の定義のいずれかに該当すれば、失明と判断されることになります。
- 眼球を亡失(摘出)した
- 光の明暗が完全にわからない
- 光の明暗が辛うじてわかる
- 暗室で光が点滅するとき明暗がわかる
- 目の前で手を上下左右に動かされたときに動きの方向がわかる
このように、片方の目を失明し、もう片方の目は眼鏡・コンタクトによる矯正視力でも0.06以下になった場合、後遺障害3級1号に認定されるのです。
なお、片方の目を失明し、もう一方の目の矯正視力が0.02以下になった場合や、両目ともに視力が0.02以下になった場合は後遺障害2級認定を受ける可能性があります。
イ 咀嚼機能・言語機能の障害について
後遺障害3級2号に認定される症状は、「咀嚼又は言語の機能を廃したもの」です。
なお、「咀嚼機能を廃する」「言語機能を廃する」の定義は以下のとおりです。
・咀嚼機能を廃する
スープ状の流動食以外は食べられない
・言語機能を廃する
以下の4種の子音のうち、3種以上の発音が不能
口唇音(ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ)
歯舌音(な行、た行、だ行、ら行、さ行、しゅ、し、ざ行、じゅ)
口蓋音(か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
喉頭音(は行)
咀嚼機能と言語機能のいずれかを失った場合、後遺障害3級に認定される可能性があります。なお、両方の機能を失った場合は、後遺障害1級に認定される可能性があります。
ウ 神経・精神の障害について
後遺障害3級3号に認定される症状は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」です。
脳や神経に重い障害が残り、生命維持に欠かせない身の回りの処理はできるものの、働くことはできない場合、後遺障害3級3号に認定されることになります。
後遺障害3級3号に認められうる後遺症としては、高次脳機能障害、脳挫傷や脊髄損傷による身体性機能障害があげられます。それぞれの認定基準を見ていきましょう。
高次脳機能障害の場合
交通事故で高次脳機能障害を負った場合、次の4つの能力のいずれか1つ以上の能力がすべて失われているか、2つ以上の能力の大部分が失われていれば、後遺障害3級3号に認定されます。
意思疎通能力
例:職場で他の人と意思疎通ができない
問題解決能力
例:作業を与えられても手順どおりに進めることが全くできない
作業負荷に対する持続力・持久力
例:作業への集中が続かず、すぐに投げ出してしまう
社会行動能力
例:大した理由もなく突然感情を爆発させる
高次脳機能障害で認定されうる後遺障害等級は症状に応じて異なります。
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるためのポイントや等級ごとの慰謝料相場、裁判で争われた事例などは、関連記事も参考にしてください。
脳挫傷・脊髄損傷による身体性機能障害の場合
交通事故で脳挫傷や脊髄損傷を負い、身体性機能障害が残存した場合、中程度の麻痺が残れば後遺障害3級3号に認定されます。
中程度の麻痺の定義は以下のとおりです。
- 障害のある腕や足の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある
- 障害のある片腕では500グラム程度のものを持ち上げられない
- 障害のある片腕では文字を書けない
- 障害のある片足があるため杖や硬性装具なしに階段を登れない
- 障害のある片足があるため杖や硬性装具なしでは歩くのが難しい
エ 胸腹部臓器の機能障害について
後遺障害3級4号に認定される症状は、「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」です。
内臓に重い障害が残り、生命維持に欠かせない身の回りの処理はできるものの、働くことはできない場合、後遺障害3級4号に認定されることになるでしょう。
後遺障害3級4号に認定されうるのは、基本的に呼吸器の障害です。次のいずれかにあてはまり、かつ常時介護・随時介護を必要としないことが条件になります。
- 動脈血酸素分圧が50Torr以下
- 動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下で、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下)にない
- スパイロメトリーの結果が%1秒量が35以下または%肺活量が40以下で、呼吸困難のため連続して100メートル以上歩けない
オ 手指の損傷について
後遺障害3級5号に認定される症状は、「両手の手指の全部を失つたもの」です。
「手指を失う」の定義は以下のとおりになります。
- 手指を中手骨または基節骨で切り離した
- 近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)において基節骨と中手骨を切り離した。
3 労災から受けられる給付
(1)労災から受けられる給付
後遺障害3級は、認定されるハードルが高い代わりに、認定されると、労災から各種の給付を受けることができます。
後遺障害が認定された場合、障害補償給付を労災から受けることができます。
障害等級が1級から7級に該当するときは、「障害補償年金」として年金が、障害等級が8級から14級に該当するときは、「障害補償一時金」として一時金が支給されます。
(2)障害補償年金
3級の場合、障害補償年金が支給されることになり、その金額は給付基礎日額の245日分とされています。
給付基礎日額とは、労働基準法が定める平均賃金に相当する額をいいます。
原則として、労災発生前3か月間に労働者に支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った金額とされています。
その名のとおり、給付基礎日額を基礎に算定された金額が年金として支給されることになります。
(3)障害特別支給金・障害特別年金
これ以外に、3級の場合、「障害特別支給金」として300万円、「障害特別年金」として
算定基礎日額の245日分が支給されます。
算定基礎日額とは、算定基礎年額を365で割った金額をいいます。
算定基礎年額とは、労災発生前1年間に支給された特別給与(賞与等の3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額をいいます。
4 労災以外に請求できるもの
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。
後遺障害の等級により金額が異なり、3級の場合、弁護士基準(いわゆる「赤本基準」)では、1990万円を請求することができます。
(2)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。
後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。
3級の労働能力喪失率は、100%です。
(3)それぞれの請求先
これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や労災に相手方がいれば相手方に請求する必要があります。
5 後遺障害認定を受けるためのポイント
(1)通院を継続的に行う
適切な後遺障害認定を受けるためには、継続的にある程度の期間通院することが重要です。通院が少なかったり、通院期間が空いてしまったりすると、治療の必要性がない、または、症状の程度が軽いと判断されてしまう可能性があります。
そのため、適切な後遺障害認定を受けるためには、通院は継続的かつある程度の期間(3か月~半年程度)行っていただく必要があります。
その際は、医師による診断がポイントになります。
接骨院や整骨院の治療は、後遺障害認定においてはあまり重視されませんので、病院でお医者さんの診断を受けるようにしましょう。
なお、相手の保険会社は、3か月~半年程度で治療費の支払いをやめる(打切り)と言ってくることが多いです。
ただ、適切な後遺障害認定には、継続的かつある程度の期間の通院が必要ですので、相手保険会社が打切りを主張してきた場合には、打切りの撤回を交渉し、場合によっては健康保険などで通院することも検討するべきです。
(2) 後遺障害等級認定に必要な検査を受ける
適切な後遺障害認定を受けるには、認定にあたって必須となる検査を漏らすことなく受ける必要があります。
したがって、後遺障害申請をするにあたっては、認定される可能性のある後遺障害等級を踏まえて、実際に認定されるには、どのような検査を実施しなければならないかを検討し、適切な検査を受ける必要があります。
(3)過不足のない後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害等級は、後遺障害診断書に記載されていることが審査の対象となります。
したがって、後遺障害の認定にあたっては、後遺障害診断書の記載内容がとても重要となります。
自覚症状のみならず他覚症状(所見)も十分に記載されていることが重要です。
後遺障害の申請にあたっては、お医者さんとよくお話をし、自分の症状が漏れることなく後遺障害診断書に記載されているかをしっかりと確認することが大切です。
6 弁護士に相談・依頼するメリット
後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。