業務で腕を切断してしまった場合、労災で後遺障害はおりるか?いくら支払われる?慰謝料は?

工場等での事故で、腕を切断した労災被害にあった場合、労災での後遺障害が認められます。ケガの程度によって、認められる後遺障害の等級も異なります。本記事では、想定される後遺障害等級や慰謝料など、具体的に請求できる費目について詳しく解説します。

労災における後遺障害とは?

労災における後遺障害とは?

労災においては、後遺障害が問題となることが少なくありません。

後遺障害とはなんでしょうか。

後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。

通常、これ以上治療しても症状が改善しないと判断されることを、「症状固定」と言います。医師が診断書にそれを書いて決めます。

腕の切断の場合は、手術によりくっついた場合は、その後リハビリを重ね、一段落したときが症状固定になるでしょう。しかし、もうくっつかないという場合は、事故から数ヶ月後に症状固定という判断をされる方もいます。

後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。

これらが認定されると、それぞれに応じた給付がなされることになります。

腕の切断の場合に認められる可能性のある後遺障害等級

腕の切断の場合に認められる可能性のある後遺障害等級

表にまとめました。

例えば、両上肢をひじ関節以上で失った場合は、1級という認定がされます。

一つの手の手関節以上で失った場合は、5級が認定されます。

このように、ケガの状態によって、認定される等級が異なります。

では、等級が違った場合は、何に影響するのでしょうか。

後遺障害等級障害内容給付基礎日額に基づく年金障害特別支給金
第1級の6両上肢をひじ関節以上で失ったもの313日分342万円
第2級の3両上肢を手関節以上で失ったもの277日分320万円
第4級の41上肢をひじ関節以上で失ったもの213日分264万円
第5級の21上肢を手関節以上で失ったもの184日分225万円

後遺障害等級第1級から第7級に該当するときは、障害補償等年金、障害特別年金、障害特別支給金の支給が受けられます。

障害(補償)等給付としての支給は、傷害の程度により大きく2つにわけることができます。

・障害等級第1級から第7級に該当:障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金
・障害等第8級から第14級に該当:障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金

労災年金(障害補償年金・傷病補償年金・遺族補償年金)は、支給要件に該当することとなった月の翌月分から支給され、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の偶数月に、それぞれの前2か月分が支払われることになっています。

では、いつまでもらえるのでしょうか。

これは、被災者が、生きている限り支払われます。

なお、障害特別支給金は、1度だけ支給を受けることができます。

労災保険の種類について

労災保険の種類について

労災保険では、他にどういった給付を受けることができるのでしょうか。その種類を表にまとめました。もちろん、後遺障害だけでなく、症状固定までの治療費も支給されます。

①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度

②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの

③傷病(補償)等年金

→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの

④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの

⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する

⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの

⑦介護(補償)等給付
→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの

⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの

このうち、後遺障害が残ってしまった場合に関連する給付は④の障害(補償)等給付となります。

労災で腕切断の場合の慰謝料は?弁護士に依頼する必要があります

労災で腕切断の場合の慰謝料は?弁護士に依頼する必要があります

実は、労災からもらえる給付以外で、会社に請求できる可能性のあるものがあります。

まずは、後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できるかもしれません。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。

後遺障害の等級により金額が異なります。表をご覧ください。

障害等級慰謝料額
第1級2800万円
第2級2370万円
第3級1990万円
第4級1670万円
第5級1400万円
第6級1180万円
第7級1000万円
第8級830万円
第9級690万円
第10級550万円
第11級420万円
第12級290万円
第13級180万円
第14級110万円

1級ですと2800万円、5級ですと1400万円が目安です。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。

後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。

ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する賠償金を先に受け取る場合に控除する指数をいいます。

「基礎収入」は、事故前年の収入が基準となります。

「労働能力喪失率」は、4級の後遺障害の場合には、92%となります。

「労働能力喪失期間」は、原則として、症状固定時の年齢から67歳までの期間となります。例えば、就労可能年数があと20年存在する場合、ライプニッツ係数は14.8775となります。

「基礎収入」が500万円、「労働能力喪失率」が92%、「労働能力喪失期間」が20年の場合、逸失利益は、

500万円×92%×14.8775=6843万6500円

となります。

会社に請求出来る条件はなにか

会社に請求出来る条件はなにか

無条件に会社に請求出来るわけではありません。

会社には、「安全配慮義務(労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務)」があります。

例えば、屋外での現場作業のケースでは、熱中症を予防するために十分な休憩や水分・塩分の補給をさせるといった対策を取らない、体調不良の疑いがあるのに涼しい場所で休ませない等の場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

工場作業でしたら、機械の使い方を安全教育として、きちんと教えなければならない。それを怠って、労働者が機械で腕を切断してしまったら、会社の安全配慮義務違反ということがいえる可能性があります。

また、事故の態様によっては、「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、現場の環境・設備に危険があった場合などに認められる責任)」が認められるケースもあります。

これらを根拠として、勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。

これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や、労災に相手方(第三者)がいれば相手方に請求する必要があります。

会社に請求できることを知らない方はかなり多いので、本記事を読んで頂いた方は知識として覚えておいてください。

弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士に相談・依頼するメリット

上記の通り、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。

これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。

ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

本記事のまとめ

本記事のまとめ

ここまで、後遺障害の等級によって受け取ることのできるお金の種類、その計算方法、金額等について解説いたしました。

労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社に対する請求も問題となります。

労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

弁護士のプロフィールはこちら