一人っ子の相続は良いことずくめ?一人っ子の相続の手続き、そのメリットとデメリット

一人っ子の相続は他の兄弟姉妹との遺産分割協議が不要であることからメリットが大きいと思えますが、その反面、税制面等でのデメリットもあります。本稿では、一人っ子の相続の手続きと、そのメリット・デメリットについて、弁護士が分かりやすく解説します。

一人っ子の相続は良いことずくめ?

一人っ子の相続は良いことずくめ?

「自分は一人っ子だから、将来の相続の時も、相続争いとは無縁だな」

このように考えている一人っ子の方も多いと思います。

確かに、一人っ子の場合、同じ順位で相続人となる兄弟姉妹がいませんから、遺産の取り分をめぐって兄弟姉妹と骨肉の争いになる―――という事態にはならないでしょう。

また、両親ともに死亡している場合は相続人が自分一人しかいませんから、預貯金の解約・払い戻しや不動産の名義変更などの手続きも、自分のペースで進めることができます。

しかし、実は、一人っ子の相続は良いことずくめではありません。

そこには、相続人が一人しかいないゆえのデメリットもあるのです。

以下では、一人っ子の相続手続きの流れや、そのメリット・デメリットについて解説していきます。

一人っ子の相続手続きの流れ

一人っ子の相続手続きの流れ

一人っ子の相続手続きと兄弟姉妹がいる場合の相続手続きを比べた時、実は、それほど大きな違いはありません。

大きな違いとしては、兄弟姉妹がいる場合は(あるいは兄弟姉妹がいることが発覚した場合は)、遺言書のない限り、遺産分割協議を行う必要がありますが、一人っ子の場合はその必要がない、ということです。

一人っ子の場合も、基本的には、次の手順で相続手続きを進めます。

①遺言書の有無を確認する

最初に、遺言書の有無を必ず確認して下さい。

たとえ子供は自分一人だったとしても、両親が自分以外の第三者(生前お世話になった親戚や友人・知人など)に財産を遺贈する旨の遺言書を残しているかもしれません。

また、遺言書でもって子供を認知することも可能なので、そもそも相続人の構成が変わる可能性もあるのです。

遺言書には次の3つの種類があり、それぞれ有無を確認できる場所が異なりますので、注意して下さい。

■自筆証書遺言:自宅や法務局(全国どこの法務局でも確認可能)

■公正証書遺言:自宅や公証役場(全国どこの公証役場でも確認可能)

■秘密証書遺言:自宅や公証役場(全国どこの公証役場でも確認可能)

②相続人を調査する

たとえ一人っ子の場合であっても、相続人調査は必要です。

自分の知らなかった異母兄弟・異父兄弟や認知した婚外子が存在することが発覚する場合もあるからです。

被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本・除籍謄本を取り寄せ、相続人が本当に自分一人だけなのか、確認して下さい。

③相続財産を調査する

預貯金や株式、不動産などプラスの財産だけでなく、住宅ローンや未払いになっている医療費などマイナスの財産も洗い出します。

大体のものは自宅を探索すれば手掛かりを発見できると思いますが、取引のあった銀行の貸金庫やネットバンキングなど見落とし易いので注意が必要です。

④預貯金の解約・払い戻しや不動産の名義変更をする

相続財産を洗い出した後は、預貯金の解約・払い戻しや不動産の名義変更など具体的な相続手続きを行います。

相続人が自分一人だけの場合、遺産分割協議書がなくても手続きができますが、戸籍謄本など揃えなければならない必要書類がありますので、詳しくは各金融機関や法務局に問い合わせて下さい。

一人っ子の相続のメリット・デメリット

一人っ子の相続のメリット・デメリット

一人っ子の相続のメリット

一人っ子の相続における一番大きなメリットは、遺産の取り分や分割方法をめぐって他の兄弟姉妹とトラブルになることがない、ということです。

兄弟姉妹がいる場合で、被相続人が遺言書を書いていなかった時は、相続人間で遺産分割協議を行う必要がありますが、特別受益や寄与分の問題も絡んだりして、話し合いがなかなかまとまらないことも多々あります。

一人っ子の場合は、遺産分割協議を行う必要がありませんから、こうした煩わしい話し合いからそもそも解放されているのです。

また、相続人が自分一人しかいませんから、預貯金の解約・払い戻しや不動産の名義変更などの手続きも、自分のペースで進めることができるというのもメリットです。

他の兄弟姉妹がいる場合にこうした手続きを行おうとすると、全員が署名押印した遺産分割協議書が必要となり、分割協議が完了していない状態ではそもそも手続きができません。

また、兄弟姉妹の中で、早く進めたい人、ゆっくりでも良いと考えている人がいて足並みが揃っていないと、各人が望むペースで物事が進まず、互いに不満が残り易くなります。

これに対して、一人っ子の場合は、遺産分割協議自体が不要ですし、誰にペースを合わせる必要もありません。

一人っ子の相続のデメリット

良いことずくめのようにも思える一人っ子の相続ですが、実は、デメリットもあります。

それは、

■相続税が高額になる傾向にある

■全ての手続きに一人で対応しなくてはならない

ということです。

相続税が高額になる傾向にある

皆さんも聞いたことがあると思いますが、相続税には基礎控除があり、その計算式は、

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

となっています。

一人っ子の場合、法定相続人の数が1人ですから、基礎控除は3,600万円となります。

他の兄弟姉妹がいればその頭数に応じて控除額が増えますので(2人兄弟の場合は4,200万円、3人兄弟の場合は4,800万円)、兄弟姉妹がいることで税負担が軽くなるケースもあるのですが、一人っ子の場合、残念ながらそれはありません。

このため、相続税が発生するときは税負担が高額になる傾向があるので、高額な財産があるときには注意が必要です。

対応策として、被相続人の生前に、生前贈与を活用する方法もあります。詳しくは税理士に相談してみましょう。

全ての手続きに一人で対応しなければならない

一人っ子の場合、相続人は自分一人しかいませんから、全ての手続きを自分一人で行わなければなりません。

遺言書の有無の確認、相続人の調査(戸籍関係書類の取り寄せ)、相続財産の調査を一人でこなし、何か問題が生じた時も自分が対応しなければ手続きは前に進みません。

他の兄弟姉妹と話し合ったり、そのペースに合わせたりしなければならない煩わしさから解放されている反面、互いに協力し合ったりもできないというがデメリットです。

一人っ子の相続に不安を抱えている方へ

一人っ子の相続に不安を抱えている方へ

一人っ子の相続では遺産分割を考える必要がなく、自分のペースで手続きを進めることができるので、一見するとメリットが大きいように思えるかもしれません。

しかしながら、上記でご紹介したような税制面等でのデメリットも存在します。

相続発生後にできる対策は限られているので、将来の相続に不安を抱えている一人っ子の方は、是非一度、専門家に相談することをお勧めします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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