多くの場合、就職するにあたり試用期間が設けられています。そして、試用期間終了とともに、使用者から簡単に契約関係を切られてしまうことがあります。しかし、法的には実は普通解雇同様に考えられ、簡単には契約関係を終了させることはできません。
試用期間とは?
大多数の企業では、正規従業員の採用については、入社後一定期間を「試用」ないし「見習」期間とし、この間に当該労働者の人物・能力を評価して本採用(正社員)とするか否かを決定する制度をとっています。この制度は就業規則上定められるのが常で、期間は3カ月が最も多く、それを中心に1カ月から6カ月にわたっています。そしてこの期間中は、「会社は都合により解雇をなしうる」、「社員として不適格と認めたときは解雇できる」などと契約書に書かれることが多いです。このように、本採用の前に行われる正規従業員としての適格性判定のための試みの使用が「試用」であるとされています(菅野和夫『労働法(第12版)』196頁参照)。
「試用期間」という言葉の一般的なイメージからも、その会社に向いているかのお試し期間として会社から試されテストされているイメージを持たれているのではないでしょうか。
試用期間終了に伴う本採用拒否
試用期間の法的性質
試用期間中に当該会社の従業員として不適格であると認めたときは、それだけの理由で雇用契約を解約しうるという解約権留保の特約のある雇用契約と認定し、留保解約権の行使は、雇入れ後における解雇にあたると最高裁は判断しています(三菱樹脂事件・最判昭和43年12月12日)。
つまり、試用期間といえども、雇用契約は成立しているのです。あくまで、不適格と認められた場合に雇用契約が解約されることがあるという解約権が会社に付与されているに過ぎません。そのため、試用期間満了に伴う本採用拒否が有効かどうかの判断にあたっても、解雇について定めた労働契約法第16条が適用され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と判断されることになります。
解雇が正当化されるためのハードルの高さ
そして、一般的にも知られているとおり、日本における解雇が許される場合はとても厳しく制限されています。①(解雇の理由に)客観的に合理的な理由があるかどうか、②(解雇が)社会通念上相当であるかどうか、の判断にあたっては、非常に高いハードルが会社には課されています。
このように、試用期間について、会社が自由に簡単に従業員の採否を決められる期間であって、気に入らない従業員であれば本採用拒否すればよいだけ、と単純に思われている方が多数と思われますが、これは誤りなのです。
どのような場合に解約権行使が適法と認められるのか
三菱樹脂事件最高裁判決では、「適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判定資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される」とされています。
そして、「採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる」と、とても限定した内容が判示されています。
裁判実務上のさらなる制限
実務においては、「そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」という点が、会社にとって極めて厳しく運用・判断されているのが実状です。
例えば、試用期間中、会社にとって労働者の働きぶりを見る中で、履歴書等の書面や面接だけでは知ることができなかった事情が判明して、本採用して働き続けてもらうことに問題があると判断したとしても、それだけで本採用拒否をすることは許されません。実際には、このような事情が判明した上、それをきちんと注意指導し、注意指導を繰り返しても、労働者の問題点が改善されなかった場合、ようやく「解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる」のです。これは、あくまでも試用期間中も雇用契約は成立していることを前提として、「解雇」同様に厳しく考えられていることに起因しています。
そのため、会社が労働者のことを気に入らない、と思っていても、きちんと指摘・注意・指導し、改善を求め、というプロセスを踏んでいない限りは、試用期間満了をもって本採用拒否することは不当解雇にあたり許されないのです。
試用期間を本当の目的とした有期雇用契約の方法を採られた場合は?
試用期間中の本採用拒否のハードルは非常に高いことを説明してきました。そこで、会社側は、試用期間を設ける代わりに有期の契約を挟んで、気に入らなければ有期契約終了で労働者との関係を切ろうとする事態が多数発生してきました。
リーディングケース~神戸弘陵学園事件(最判平成2年6月5日)
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
「試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。」
有期の雇用契約において、趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであると判断された場合、期間終了とともに当然契約終了と定められているのでなければ、実体としては通常の雇用契約の試用期間に過ぎませんね、と判断されたのです。
具体的な判断要素
真意は試用期間なのではないかの判断要素として、①採用に至る経緯、②業務内容、③使用者側の言動、④期間の運用形態、⑤契約書の記載、などが挙げられます。
中々一義的に、このような場合には有期契約の名ばかりの試用期間を定めた雇用契約である、とは言えません。あくまで、契約内容はどうなっているのか、個別具体的な判断が求められるところです。
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