解雇された場合には退職金は本当に払われないのか

勤務先を解雇された場合、退職金を不支給またが減額する旨が就業規則等に定められ、退職金が支給されないことが一般的です。しかし、仮に解雇が有効であっても、退職金を全額不支給とすることは、判例・裁判例上認められない判断が多くなされています。

前提1~そもそも退職金が支給される雇用契約なのか

前提1~そもそも退職金が支給される雇用契約なのか

まず大前提として、雇用契約において退職金が支給されることになっている契約でなければ、退職金は支給されないことが基本です。退職金の支払いは労働法上の義務ではなく、あくまで契約の一内容として特別に定めるものだからです。

そこで、始めに取り交わした雇用契約書に「退職金あり」と記載されているのか、就業規則に退職金のことが記載されているか、就業規則とは別に退職金規程のようなルールブックが存在するか、これらを確かめる必要があります。

もっともこれらに退職金の定めがなかったとしても、これまでに退職してきた従業員にはずっと退職金が支払われてきたという事実があるのであれば、それは「労働慣行」として、すなわち、黙示的な契約内容の合意であったり、事実としての慣習であったり、ルールとして機能することになります。そうすると、退職金制度はある、という解釈をして請求することを考えることになります。

前提2~退職金の不支給・減額条項があるか

前提2~退職金の不支給・減額条項があるか

原則として、懲戒解雇等に伴う退職の場合に退職金が支給されないことや減額されることが就業規則等の規定に定められていなければ、根拠規定がないものとして許されないことになります。

退職金の法的性格

退職金の法的性質

解雇された場合に退職金をもらえるかどうかを説明するにあたり、まずは退職金の法的性質を知る必要があります。

退職金は、会計学上は「賃金の後払的性格」のものと捉えられます。平成10年6月16日に企業会計審議会から公表された退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書によれば、「企業会計においては、退職給付は基本的に労働協約等に基づいて従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金の後払いである」という考え方に立っている」と説明がなされています。

イメージとしては、会社が従業員に支払うべき給与の一部を預かって運用し、将来定年を迎えたときにそれを老後の生活費用として渡すようなものです。

また、法律上、退職金は、①賃金の後払い的性格と②功労報償的性格とを併せ持つものであるとするのが、判例・裁判例の考え方です。

解雇と退職金の関係

解雇と退職金の関係

そうすると、勤務先を解雇された場合、退職金を不支給またが減額する旨が就業規則等に定められ、退職金が支給されない、という現状は説明が付かなくなります。あえて言うのであれば、会社で積み立ててきた退職金積立金的なものを罰金的に没収するとでもいうのでしょうか。

①賃金の後払い的性格

そこで、裁判例上、退職金の①賃金の後払い的性格の点から、「不支給規定に基づきこれ(退職金)を不支給又は減額支給とすることができるのは,同規定の内容にかかわらず,当該従業員のそれまでの長年の勤続の功のうち,・・・(会社)における長年の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られると解するのが相当である」(KDDI事件、東京地判平成30年5月30日など)として、退職金が支払われないことが例外的なものであると限定的な解釈をするに至っています。

②功労報償的性格

他方、判例上、退職金の②功労報償的性格の点から、減額を認める場合もあります。

三晃社事件・最判昭和52年8月9日

「制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法3条、16条、24条及び民法90条等の規定にはなんら違反するものではない。」

まとめ

このように、会計学とは異なり、法的には退職金が二つの性格を併せ持っていることを踏まえて、貯めてきた給与がなくなってしまうイメージの退職金減額を理論的に説明しているのです。

具体的な事例での検討

具体的な事例での検討

小田急電鉄事件・東京高判平成15年12月11日

度重なる電車内での痴漢行為を理由に勤務先会社(小田急電鉄)から懲戒解雇された元従業員が、解雇の無効と退職金不支給を不服として退職金の支払を求めた事案です。

「痴漢行為が被害者に大きな精神的苦痛を与え,往々にして,癒しがたい心の傷をもたらすものであることは周知の事実である。それが強制わいせつとして起訴された場合はともかく,本件のような条例違反で起訴された場合には,その法定刑だけをみれば,必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども,上記のような被害者に与える影響からすれば,窃盗や業務上横領などの財産犯あるいは暴行や傷害などの粗暴犯などと比べて,決して軽微な犯罪であるなどということはできない。まして,控訴人は,そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり,その従事する職務に伴う倫理規範として,そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも,控訴人は,本件行為のわずか半年前に,同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ,昇給停止及び降職の処分を受け,今後,このような不祥事を発生させた場合には,いかなる処分にも従うので,寛大な処分をお願いしたいとの始末書を提出しながら,再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。このような事情からすれば,本件行為が報道等の形で公になるか否かを問わず,その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても,それはやむを得ないものというべきである。」

このように、「業務外の犯罪行為」をした事案にもかかわらず、電鉄会社社員が痴漢行為を繰り返したという問題点を指摘し、退職金の30%の支払いが命じられるに至りました。

医療法人貴医会事件・大阪地判平成28年12月9日

本件は、病院で医療事務に従事した従業員が、勤務先病院に対し、自己都合退職したとして退職金を請求したところ、診療情報を改ざんしたことを理由に支給されなかったことから、退職金の支払を求めた事案です。

「原告の本件改ざん行為は,懲戒解雇事由に該当する悪質な行為であり,原告が19年余にわたり本件病院に勤務して積み上げてきた功労を減殺するものといえるものの,被告の信用失墜には至らなかったことを考慮すると,原告の功労を全部抹消するほどに重大な事由であるとまではいえない。そして,本件改ざん行為の性質,態様及び結果その他本件に顕れた一切の事情にかんがみると,被告は,原告に対し,本来の退職金の支給額の2分の1を支給すべきであったといえる。」

このように、診療情報の改ざんという悪質な行為があり、19年余りの勤務による功労を減殺すると認定しながらも、病院の信用失墜に至らなかったことをもって、退職金の半分は支給するべきと判断されました。

まとめ

まとめ

このように、懲戒解雇処分をされてしまっても、退職金が支払われる事例が多く存在するため、あきらめず、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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