財産分与における特有財産について~婚姻前の預貯金~

離婚時の財産分与が裁判で争われた場合、問題となることが多い問題として「分与の対象となる財産」があります。「特有財産」といわれる財産は、分与の対象とならないとされていますが、婚姻前から預貯金口座を持っている方は多いでしょうから、今回は特有財産の中でも特に婚姻前の預貯金について、裁判所の考え方などを解説していきます。

財産分与の中で、婚姻前の預貯金は必ず全額特有財産となる?

財産分与とは

財産分与とは

財産分与というのは、離婚時に夫婦間で行われる夫婦の財産を分ける行為をいいます。

ひとくちに財産分与、といっても、夫婦共同生活中に形成した夫婦共有財産の清算(これを「清算的要素」といいます。)、離婚後の生活についての扶養(これを「扶養的要素」といいます。)、離婚原因を作った有責配偶者に対する慰謝料(これを「慰謝料的要素」といいます。)の3つの要素があるといわれています。ただ、この3つの要素のうち中心的なのは「清算的要素」であって、離婚裁判で裁判官が判断しているのはほぼこの点であるといえるでしょう。

清算的財産分与とは

財産分与の清算的要素、すなわち清算的財産分与とは、夫婦の形式的な名義に基づき、夫及び妻それぞれの全ての分与対象財産を算定した上で、それを比較し、それぞれの寄与度に応じた財産を取得できるよう財産分与額を決めるというのが実務です。清算の対象としては、債務、すなわち借金等もその名義人が負担することを前提としており、総資産の算定に当たっては積極財産(純粋に価値のある財産)から消極財産(債務のようなマイナスの財産)を控除します。

寄与度とは

寄与度とは

財産分与に当たっては、それぞれの寄与度に応じた財産を取得させる、と説明しましたが、この「寄与度」は、原則的には50%ずつ、というのが裁判所の運用です。これを40%対60%等、夫婦双方で違った割合にすることは、その財産形成によほど貢献度が異なるというような場合、たとえば夫あるいは妻が数億円単位で年収を得ているのに対し、その配偶者が全く収入を得ていないなど、夫婦の収入格差が明白であるケースであるという特殊な事例に限られているようです。

財産分与の清算額の計算式

財産分与の清算額の計算式

たとえば原告が財産分与の申立人であるという場合、清算額の計算式は以下のようになります。

{原告の純資産額(=原告名義の資産合計-原告名義の負債合計)+被告の純資産額(=被告名義の資産合計-被告名義の負債合計)}÷2-原告の純資産額

特定の財産だけを分与することは可能か

特定の財産だけを分与することは可能か

 「協議離婚」及び「調停離婚」、あるいは「離婚訴訟の中でも和解にて離婚を成立させる場合」などは当事者の合意だけで財産分与の内容を判断するため、特に分与対象財産を限定することに制限はありません。

 しかし、裁判離婚で裁判官が判決にて財産分与の判断をする場合は、特定の財産だけを分与の対象とすることはできません。財産分与は、夫婦の個々の財産を分割する制度ではありませんから、たとえば「夫婦で購入した自宅だけ財産分与で自分に分けてもらいたい」というわけにはいきません。

特定の財産だけ分与を求めるというのは、原告(財産分与の申立人)名義の資産及び夫婦の負債を無視して清算的財産分与を求めるということになりますから、「清算」という趣旨に合致していないといえます。

財産分与の基準時について

財産分与の対象となる財産をどの時点で確定させるのか(分与対象財産確定の基準時…①)と、当該対象財産についてどの時点で価格を判断するのか(分与対象財産評価の基準時…②)の2つが問題となります。

①については夫婦共有財産の形成・維持に向けた経済的協力関係終了時とするのが相当であるため、原則として別居時とし、②については原則として口頭弁論終結時(主張や立証の提出を締め切るタイミング)を基準時としています。

特有財産について

特有財産について

婚姻前から夫婦のそれぞれが既に有していた財産や、相続や親族からの贈与にて得た財産などは、財産の形成に夫婦の協力や寄与というものが存在しません。そこで、「特有財産」として財産分与の対象外であると主張することができるのです。

婚姻前の預金について

婚姻前の預金について

離婚の当事者が、「基準時(別居開始日)にあった預貯金の残高には婚姻前の預金が含まれている」という主張をすることがあります。

実際に、婚姻前から預貯金口座を持っていたという方が多いでしょうから、婚姻前の預貯金があるとして、その中で特有財産といえるのはどこなのか、ということも問題になります。

単純に考えれば、「基準時の残高から婚姻時の残高を控除した差額部分だけが夫婦共有財産である(あるいは基準時の残高が婚姻時の残高を下回っているので財産分与の対象となる夫婦共有財産は当該預貯金口座には存在しない)」ということになりそうです。実際、夫婦双方がこの考え方に異議がなければ特有財産を上記のように計算することも問題はありません。

ただ、このような計算は、同口座が婚姻時から基準時までに「入金」しかされていない場合や、逆に「出金」しかされていない場合であれば問題がないものの、「入金」も「出金」もされているという場合、この口座には婚姻前の預貯金と、夫婦共有財産が混在しているということになります。その入出金を繰り返した結果、基準時において残高が婚姻前の預貯金か婚姻後の収入等であるのかは特定できないはずです。場合によっては、特有財産といえる部分は全て費消してしまっているというケースもあるかもしれません。

特に、婚姻期間が相当長くその間に入金も頻繁に・多額に存在していて婚姻時残高から大幅に残高が増額しているというケースでは、基準時残高における婚姻時の残高はほとんど影響していないといえそうです。

裁判所の裁判例でも、このように婚姻時の預貯金残高があったとしても、それが特有財産としてそのまま婚姻時の額として認定できるケースは限定的と考えられているようです。

まとめ

まとめ

今回は、財産分与とは何かという点から、その中でも特有財産として考慮すべきもの、特に婚姻時にあった預貯金について解説をしてきました。

実際に婚姻時の預貯金等、特有財産といえそうなものでも、様々な事情を考慮して判断されていますので、財産分与の対象となるか・具体的にはいつの、いくらの評価となりそうか等、弁護士に相談するのも良いでしょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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