就業中の事故やトラブルが原因で怪我や病気を負うことを「労働災害」と呼びます。労災保険の認定を受けることで、状況に応じた給付を受けられますが、精神的苦痛に対する慰謝料や後遺障害が残った事による慰謝料など、一部の損害は保険で補償されない場合があることをご存じでしょうか?

労災保険でカバーされない損害については、労災申請の他、会社に対して請求できる可能性があります。具体的には、会社に過失(安全配慮義務違反)があった場合、つまり、会社がするべきことをしていなかったと証明できれば、会社の責任を問うことができます。、使用者責任が問える状況であれば、損害賠償請求を検討することが重要です。

労災保険でカバーできない損害について

労災保険でカバーできない損害について

労災保険による保険給付は、労災認定さえ受ければ一定額が支給されますが、必要な補償を全てカバーするものではありません。

特に、慰謝料については労災保険からの給付は一切ありません。

また、逸失利益も、労災ですべて支給されるわけではなく、計算してみると相場に足りないという事もあります。

労災保険で補償されるもの労災保険で補償されないもの
(会社に責任がある場合に損害賠償請求できるもの)
療養補償
休業補償(平均賃金の80%)
障害補償
遺族補償
葬祭料
傷病補償年金
介護補償 等
交通費 精神的損害に対する慰謝料
(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)
治療費や休業損害などの不足分
後遺障害・死亡による逸失利益の不足分
弁護士費用
遅延損害金 等

慰謝料請求と後遺症慰謝料の相場

慰謝料請求と後遺症慰謝料の相場

上で述べたように、労災保険で補償されない損害として,被災した労働者の慰謝料があります。
慰謝料の請求先は、責任を負う会社や事故の原因を作った第三者になります。

後遺障害慰謝料の基準は、以下の通り、大体の相場が決まっています。

第1級第2級第3級第4級第5級第6級第7級
2800万円2370万円1990万円1670万円1400万円1180万円1000万円
第8級第9級第10級第11級第12級第13級第14級
830万円690万円550万円420万円290万円180万円110万円

労災事故の慰謝料・損害賠償を会社に請求する方法

労災事故の慰謝料・損害賠償を会社に請求する方法

労災事故による慰謝料等を会社に請求する場合、金額計算や証拠の収集を慎重に行う必要があります。事故直後から適切な手続きを把握し、相場や目安に沿った補償を受け取るための準備を進めることが重要です。

■慰謝料請求・損害賠償請求の基本的な流れ

会社に死亡慰謝料およびその他の損害賠償を請求する際は、以下の流れで手続きを進めます。

・労災申請と損害額の計算
・労災保険の申請を行い、損害額を具体的に計算します。
・会社の損害賠償責任を立証するための証拠収集
・事故の責任が会社にあることを示すため、客観的な証拠を集めます。
・請求額の計算
→損害賠償金を計算し、労災保険から支給される給付分との調整を行います。

・会社との示談交渉
→話し合いによる和解を目指し、会社側と交渉します。

・労働審判または損害賠償訴訟
→示談が成立しない場合は、労働審判や訴訟による解決を目指します。

■会社の損害賠償責任の立証方法

→会社に損害賠償責任があることを証明するためには、客観的かつ信頼性の高い資料をできる限り多く収集する必要があります。例えば、

事故調査復命書(労働基準監督署が作成)、事故の実況見分調書(警察が作成)、労働時間を示す資料(タイムカードなど)、などです。

■弁護士への早期相談が重要

損害賠償請求には、多くの申請書類や証拠資料が必要となり、場合によっては高額請求を巡って会社と対立する可能性もあります。

こうした状況に備え、早い段階で弁護士に相談、依頼し、手続きを進めてもらうことが安全策です。専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ適正な補償を得られる可能性が高まります。

二つの事故パターンで解説します

二つの事故パターンで解説します

作業中に生じた労災事故は、大きく分けて、「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」と、「自分一人で作業中に怪我をした場合」に分かれます。

「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」とは、例えば、他の従業員がフォークリフトで作業をしていたところ、被害者の存在に気付かずにフォークリフトで被害者を轢いてしまった場合、他の従業員がうっかり上から物を落として下にいた被害者に当たって怪我をした場合など、第三者の不注意が直接の原因で負傷をした場合です。

「自分一人で作業中に怪我をした場合」とは、例えば、プレス機で作業中に誤って手を挟んでしまったり、建設現場で足場の移動中に落下したりする場合などです。

①他の従業員の不注意によって怪我をした場合

「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」であれば、比較的容易に会社に対して損害賠償請求が可能です。

「他の従業員に不注意によって怪我をした場合」、その従業員に対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が可能です。
そして、会社は、会社のある従業員が作業中に不注意によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、会社も使用者責任(民法715条)に基づいて、被害者に対して賠償責任を負います。
そのため、この場合は使用者責任に基づいて会社に対して損害賠償を請求して行くことになりますし、当事務所の経験上、比較的、会社も話し合いの段階から責任を認めることが多いです。

なお、使用者責任(民法715条)に基づく請求の場合、時効が3年ですのでご注意ください(後遺障害関係の損害は症状固定時から3年で時効です)。ただし、使用者責任に基づく損害賠償請求と同時に会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が可能な場合は、時効は10年です。

②自分一人で作業中に怪我をした場合

「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。

「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」と比べると、会社が「自損事故であるため会社には責任がない」と請求を拒否するケースが多いです。
その理由は、安全配慮義務違反の内容が定型的ではなく不明確だからです。

どのような場合に、会社に対して安全配慮義務違反が問えるのでしょうか。

安全配慮義務とは、会社が、従業員の生命・身体を守るために必要な措置を講じなければならないという義務です。
安全配慮義務は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。
そのため、具体的な被災状況をお伺いしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分かりません。

もっとも、当事務所の経験上、概括的に言えば「教育不足が原因で被災した」または「会社の管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で被災した」場合には、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。

さらに具体的に言えば、労働者の安全対策として「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」が定められておりますが、その条文に違反するような状況下で事故が起きたのであれば、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。

そのため、例えば、会社の工場で階段を下りている時に滑って転倒したというケースでは、会社に対して安全配慮義務違反を問うことは困難だと思われます(但し、業務中の事故であれば、労災は適用されます)。

なお、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年です。
会社に対して安全配慮義務違反を問えそうかご不明な方は、一度、ご相談ください。

損害賠償請求の具体的な手続き

損害賠償請求の具体的な手続き

会社に対して損害賠償請求が可能だと判断した場合、まずは、労災に関する資料を集めていただくことになります。

事故状況が分かる写真等の資料があればとても助かりますが、入手が困難な場合は、ひとまず事故状況が分かる資料はなくても構いません。

次に、労災の資料を取り寄せていただくことになります。

労災に提出した資料や労災が決定した内容の資料については、当該労働基準監督署を管轄する「労働局」で「保有個人情報公開請求」という制度に基づいてコピーを入手することが可能です。なお、労災の資料の入手には、申請してから1月ほどかかります。

こうした資料をもとに、事故状況と認定された後遺障害の内容を判断し、損害額を計算します。

その後、内容証明郵便で会社に通知書を送ります。
そのうえで交渉を重ね、話し合いで解決できなければ訴訟提起となります。

相談は無料です お気軽にお問い合わせください

相談は無料です お気軽にお問い合わせください

労働災害(労災)に関するご相談は、初回60分まで無料です。
また、初回のみ10分程度の電話無料相談も行っております。
お気軽にお問い合わせください。

※当事務所では、事故による労働災害のみご相談・受任を承っております。

労災事故解決においてグリーンリーフが選ばれる理由

労災事故解決においてグリーンリーフが選ばれる理由
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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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