運送業における荷役作業時の労災事故について弁護士が解説

はじめに:運送業界で増加する労災事故の現状と対策

はじめに:運送業界で増加する労災事故の現状と対策

運送業界で働く方々にとって、荷物の積み下ろしや搬送作業中のケガや事故は日常的なリスクと隣り合わせです。実際に、「ちょっとしたケガだから…」と報告せずに済ませてしまうケースが多いのではないでしょうか。しかし、その判断が後々大きな問題を引き起こすこともあります。

例えば、荷物の積み下ろし作業中、または配達中にケガをしてしまったことはありませんか?

実は、仕事中のケガはすべて「労働災害」にあたり、労災保険の対象となります。

「これくらい…」と我慢せずに、どんな小さなケガでも、まずは会社に報告し、労災保険の申請を行いましょう。

もしかしたら、あなたは会社から十分な安全配慮を受けていなかったのかもしれません。

会社側に安全配慮義務違反などが見られる場合は、損害賠償請求も可能です。

運送業界は、全業種の中でも労災発生件数が3番目に多く、令和5年の統計では16,215件にも上ります。さらに、運送業における労災による死亡事故は、前年と比べて22.2%も増加しており、深刻な状況です。

特に、荷物の搬出入時に発生する事故が多く、重傷を負ってしまうケースも少なくありません。今回は、運送業における労災事故の中でも、荷物の搬出入時に起こりやすい事故の類型について詳しく解説していきます。」

本記事では、以下の3つのテーマを中心に、労災に詳しい弁護士の視点から解説します。

  1. 運送業で特に多い「荷役5大災害」とそのリスク
  2. 労災保険制度の仕組みと補償内容の詳細
  3. 労災保険でカバーできない部分を補う損害賠償請求の可能性

事故発生時に適切な対応を取るために、知っておくべき情報をお届けします。

1. 荷役5大災害とは:運送業における重大な労災の類型

1. 荷役5大災害とは:運送業における重大な労災の類型

運送業の労災事故は、特に「荷役作業」中に集中して発生します。その中でも多発しているのが以下の荷役5大災害です。それぞれの具体例やリスク要因、防止策を詳しく解説します。

(1.墜落・転落、2.荷崩れ、3.フォークリフト使用時の事故、4.無人暴走、5.後退時の事故)

1.1 墜落・転落

トラックの荷台や高所作業からの墜落・転落は、運送業の労災の中でも代表的な事故です。特に不安定な足場や、荷台での作業時に注意が必要です。

  • 事例: 荷台から荷物を積み込む際に足を滑らせて転落。頭部を強打し、重度の脳損傷を負うケースが多発。
  • リスク要因: 作業エリアの狭さ、不安定な足場、適切な安全装備の未使用。
  • 弁護士の視点: こうした事故は会社の安全配慮義務違反が問われるケースが多いです。具体的には、転落防止措置(手すりや安全ネット)が適切に設置されていない場合、会社に過失が認められる可能性があります。

1.2 荷崩れ

荷物が崩れて作業員が下敷きになる事故も、運送業界特有のリスクの一つです。

  • 事例: 積載中の荷物が崩れ、作業員が荷台で挟まれた状態となり死亡。
  • リスク要因: 荷物固定の不十分さ、積載バランスの欠如。
  • 防止策: 荷物固定具(ストラップやラチェット)の利用、事前の積載計画の徹底。
  • 弁護士の視点: 荷崩れ防止措置が怠られている場合、会社側に責任を追及する余地があります。また、荷崩れによる事故は事前の点検不足が要因となるケースが多いため、その管理体制が重要なポイントとなります。

1.3 フォークリフト使用時の事故

フォークリフトは運送業に欠かせない機械ですが、その使用中の事故は全体の労災の中でも特に高い割合を占めています。

  • 事例: フォークリフトが転倒し、運転者が車両の下敷きとなり死亡。
  • リスク要因: 過積載、急旋回、運転技能不足。
  • 弁護士の視点: フォークリフト運転には資格が必要であり、会社が未資格者に運転を許可した場合、重大な過失責任を問われる可能性があります。

1.4 無人暴走

エンジンをかけたまま放置された車両が動き出し、重大事故に繋がるケースも少なくありません。

  • 事例: ブレーキをかけ忘れたトラックが下り坂で暴走し、周囲の作業員を巻き込む。
  • 防止策: 車両停止時の確認リストを運用、ブレーキシステムの自動化導入。
  • 弁護士の視点: 車両管理体制の不備が指摘される場合、会社に重大な責任が課せられることがあります。

1.5 後退時の事故

トラックやフォークリフトの後退時、死角に入った作業員が巻き込まれる事故が後を絶ちません。

  • 事例: 誘導員が配置されていない状態での後退時に、作業員を接触死。
  • 防止策: バックモニターや警告音システムの活用。
  • 弁護士の視点: 誘導員を配置せず、適切な後退時安全対策を怠った場合、会社側に大きな責任が生じます。

2. 労災保険の仕組みと補償内容

2. 労災保険の仕組みと補償内容

労災保険は、労働者が業務中や通勤中にケガや病気を負った際、生活を支える重要な制度です。具体的な補償内容を見ていきましょう。

労災保険の基本補償

労災保険では、他にどういった給付を受けることができるのでしょうか。その種類を以下にまとめました。

①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度

②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの

③傷病(補償)等年金
→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの

④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの

⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する

⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの

⑦介護(補償)等給付
→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの

⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの

★特に重要な給付★

1.療養(補償)給付
療養(補償)給付とは、労働者が労働災害により病気やケガをしたときに、病院で治療費などを負担することなく治療を受けられる給付です。療養(補償)給付には、治療費、入院費用、看護料など、療養のために通常必要なものは、基本的にすべて含まれます。

2.障害(補償)給付
障害(補償)給付とは、後遺障害に関するものです。障害(補償)年金や障害(補償)一時金等からなる給付です。

障害(補償)給付は、労災によって病気やケガが治癒の状態に至ったのちにも障害が残ったときに、その障害等級に応じて年金または一時金の支給が受けられる給付のことをいいます。障害等級が1級から7級のときは年金が支給され、8級から14級のときには一時金が支給されます。

3.休業(補償)給付
労働災害によって仕事を休んだときには、給付基礎日額の60%相当に相当する金額の支給を受けることができます。加えて、社会復帰促進等事業として、給付基礎日額の20%が「特別支給金」として支給されます。したがって、休業期間中であっても、合計給付基礎日額の80%の収入が補償されることになるのです。

なお、給付基礎日額とは、原則として、労働災害が発生した日以前の3か月の賃金(ボーナスや臨時に支払われた賃金を除く)の総額を、その期間の総日数で除した金額となります。複数の事業場で働いている労働者の給付起訴日額については、原則として複数就業先に係る給付起訴日額に相当する額を合算した額となります。

労災保険の限界

労災保険の限界

労災保険だけでは、全ての損害を補償しきれない場合があります。

特に、精神的損害(慰謝料)は全く補償されず、後遺障害の場合の逸失利益に対する補償も不十分です。この場合、雇用会社等に損害賠償請求を検討する必要があります。

3. 損害賠償請求の可能性:会社の安全配慮義務違反とは

3. 損害賠償請求の可能性:会社の安全配慮義務違反とは

労災事故が発生した場合、会社が安全配慮義務を果たしていないと判断されるケースでは、損害賠償請求が可能です。

会社に請求出来る条件はなにか。無条件に会社に請求出来るわけではありません。

会社には、「安全配慮義務(労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務)」があります。

例えば、屋外での現場作業のケースでは、熱中症を予防するために十分な休憩や水分・塩分の補給をさせるといった対策を取らない、体調不良の疑いがあるのに涼しい場所で休ませない等の場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

工場作業でしたら、機械の使い方を安全教育として、きちんと教えなければならない。それを怠って、労働者が機械で腕を切断してしまったら、会社の安全配慮義務違反ということがいえる可能性があります。

また、事故の態様によっては、「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、現場の環境・設備に危険があった場合などに認められる責任)」が認められるケースもあります。

これらを根拠として、勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。

これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や、労災に相手方(第三者)がいれば相手方に請求する必要があります。

会社に請求できることを知らない方はかなり多いので、本記事を読んで頂いた方は知識として覚えておいてください。

特に後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。

後遺障害の等級により金額が異なり、6級の場合、弁護士基準(いわゆる「赤本基準」)では、1180万円を請求することができます。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。

後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。

ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する賠償金を先に受け取る場合に控除する指数をいいます。

11級の労働能力喪失率は、67%です。

例えば、年収400万円の正社員で症状固定時に40歳であれば、単純計算、400万円×67%×14.6430=3924万円になります。

4.弁護士に相談・依頼するメリット

4.弁護士に相談・依頼するメリット

上記の通り、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。

これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。

ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

まとめ

まとめ

運送業界における労災事故は、特に荷役作業中に多発しており、事前の予防策と事故後の適切な対応が欠かせません。

労災保険だけではカバーしきれない場合には、安全配慮義務違反を根拠に損害賠償請求を検討することも重要です。

弁護士に相談することで、適切な対応方法や補償内容の検討が可能となります。事故が起きた際には、まず正確な状況把握と専門家への相談をおすすめします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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