
令和6年(2024年)に、民法が改正され、同年5月24日に公布されました。この改正民法は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されるとされており、つまり2026年5月までには、この改正民法の下、離婚について決めることになるということです。今回は、この改正民法によって離婚の中でも夫婦間の財産分与がどう変わるのかについて解説していきます。
改正民法の下での財産分与
離婚のときに決めるべき事項

通常の離婚において決めるべき事項としては、
・離婚するか否か
・(未成年の子がいる場合)親権者となる者の決定
・(未成熟子がいる場合)養育費
・面会交流
・財産分与
・慰謝料
・年金分割
が挙げられることが多いと思われます。令和6年(2024年)に成立した改正民法では、この離婚に関する事項のうち、親権や養育費、面会交流などのほか、財産分与についても一部改正がされています。
財産分与とは

財産分与とは、夫婦で築き上げた共有の財産を清算することであり、預貯金、不動産、保険、財形貯蓄、株式、退職金、車など、夫婦の財産を分けることです。
たとえ夫婦共働きではなく、片働きの場合でも、主婦(主夫)が家事・育児を行ったことによって、配偶者は稼働が可能になり収入を得ることができたと考えられるので、 財産分与は原則必要だと考えられています。
裁判所の原則的な考え方では、「結婚時」から「離婚成立 あるいは 別居時」までに得た財産を2分の1ずつ分けるべきとされています。収入の格差がある場合、たとえば夫婦のうちいずれかが主婦・主夫だった場合であっても、離婚に当たり決めるべき財産分与の割合が変わる、ということはこれまであまりありませんでした。ごく一部の、例外的な場合に限り、財産分与のいわゆる2分の1ルールが適用されないことがあったという状態だったのです。
改正民法で変わること
財産分与を請求できる期間

これまで、離婚をする夫婦間で財産分与をする場合、その協議は、離婚成立時から「2年間」、という期間制限がありました。
改正民法下でも、このような期間制限があること自体は変わりありませんが、家庭裁判所に対し協議に代わる処分を請求することができる期間は、2年から「5年」に伸長されることになりました。
財産分与において考慮すべき要素

上記のとおり、これまで財産分与は結婚時から離婚・別居があった時までに築いた財産の2分の1を分与するもの、という原則論がありました。
今回の改正民法においては、財産分与の判断に関する考慮要素も変更があり、旧法では「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮するとだけされていたところ(改正前民法768条3項)、改正民法では離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため以下の要素を考慮する、としています。
①当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額
②その取得または維持についての各当事者の寄与の程度
③婚姻の期間
④婚姻中の生活水準
⑤婚姻中の協力及び扶助の状況
⑥各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入
⑦その他一切の事情
を考慮して分与をさせるべきかどうか、並びに分与の額及び方法を定めるもの としているのです。
ただし、②の寄与の程度は、夫婦の両者で寄与度が異なるか否かが明らかでないときは、「相等しいもの」とすることが規定されているので、この点については従来とさほど大きな変化を生まない可能性もあります。
財産分与の法的性質について

改正前民法では、財産分与の法的性質についても様々な議論がなされ、大きく分けて、
・夫婦の財産の清算
・離婚後の扶養ないし補償
・離婚慰謝料
という3つの要素があるとされていましたが、ほとんどのケースで重要視されていたのは、「清算」という要素であったと考えられてきました。
先ほど述べた改正民法に挙げられた①から⑦の要素のうち、①②の要素は「清算」の要素と言えますし、③から⑥の要素は「扶養」や「補償」といった要素に関わってきますので、清算的な要素以外も重視しようとしている姿勢の表れであるようにも考えられます。
財産分与の判断の過程について

改正民法の下でも、財産の額や寄与度が判断過程の中で重視されるということには変わりがなさそうですが、③から⑥の要素をわざわざ法律に明記したことで、具体的に「2分の1ルール」といわれてきた財産分与の判断実務にどのような影響が出るのかは、実際の改正民法施行の後に、実例を積み重ねて分かっていくことでしょう。ただ、法律がわざわざこの要素を明記したことから、当事者としては単に財産の額や寄与度だけではない主張・立証をしていく必要があるとも考えられます。
財産分与における財産情報の開示命令について

民法の改正に伴い、家事事件手続法の改正もされることになりました。
「情報開示命令」といって、財産の分与に関する処分の審判事件及び調停事件等において、裁判所が、当事者に対し、その収入、資産等の状況に関する情報の開示を命ずることができるようになるのです。裁判所のこの命令に対しては、もし当事者が開示命令に応じないときには、過料の制裁も規定されておりますし、もしそのような命令が出ているのにそれに対して開示に応じないということ自体が、裁判所の事実認定の要素として働く可能性があります。
「財産分与はしてもらいたいけれど、配偶者の財産はどこに何があるか明らかではない」というときに、このような新たな制度を利用することで、これまで泣き寝入り状態だった当事者の方に、より公平な分与をしてもらえる可能性が出てきたといえるでしょう。
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