労災の後遺障害と特別支給金について弁護士が解説します

仕事中の事故や通勤途中の事故で、骨折等の大けがをしてしまうケースは少なくありません。もし、労災が原因で大ケガをした場合、労災保険による補償を受けることができる可能性があります。また、後遺障害が残った場合等に、特別支給金がもらえる可能性があります。このコラムでは、労災による特別支給金を中心に詳しく解説します。

労災における特別支給金とは

労災における特別支給金とは

国は、労働者やその遺族の福祉の増進を図るため、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及び遺族の援護、労働者の安全衛生の確保、適正な労働条件の確保等を図るため必要な事業を行っております。

その一つが特別支給金です。特別支給金は、①休業特別支給金、②障害特別支給金、③障害特別年金、④障害特別支給金、⑤障害特別一時金、⑥遺族特別支給金、⑦遺族特別年金、⑧傷病特別支給金、⑨傷病特別年金の9種類があります。

種類支給事由保険給付の内容特別支給金の内容
療養補償給付
療養給付
業務災害または通勤災害に よる傷病により療養するとき必要な療養の給付又は必要   な療養費の全額
休業補償給付
休業給付
業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額(休業特別支給金)
休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額
障害補償年金
障害年金  
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金(障害特別支給金)
障害の程度に応じ、342万円から159万円までの一時金
(障害特別年金)
障害の程度に応じ、算定基礎日額の313日分から131日分の年金
障害補償一時金
障害一時金 
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金(障害特別支給金)
障害の程度に応じ、65万円から8万円までの一時金
(障害特別一時金)
障害の程度に応じ、算定基礎日額の503日分から56日分の一時金
遺族補償年金遺族年金      業務災害または通勤災害により死亡したとき遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金(遺族特別支給金)
遺族の数にかかわらず、一律300万円
(遺族特別年金)
遺族の数に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の年金
遺族補償一時金
遺族一時金     
(1) 遺族(補償)年金を受け得   る遺族がないとき
(2) 遺族(補償)年金を受けて いる方が失権し、かつ、他に遺族(補償)年金を受け得る者がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
給付基礎日額の1000日分の一時金(ただし(2)の場合は、すでに支給した年金の合計を差し引いた額)(遺族特別支給金)
遺族の数にかかわらず、一律300万円
(遺族特別一時金)
算定基礎日額の1000日分の一時金(ただし(2)の場合は、すでに支給した特別年金の合計額を差し引いた額)
葬祭料
葬祭給付
業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額
(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)
傷病補償年金
傷病年金
業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日又は同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき
(1) 傷病が治癒(症状固定)していないこと
(2) 傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること
障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金(傷病特別支給金)
障害の程度により114万円から100万円までの一時金
(傷病特別年金)
障害の程度により算定基礎日額の313日分から245日分の年金
介護補償給付
介護給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(105,130円を上限とする)
ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が57,110円を下回る場合は57,110円
随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(52,570円を上限とする)
ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合または支出した額が28,560円を下回る場合は28,560円
二次健康診断等給付事業主が実施する定期健康診断等の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の検査項目(血圧、血中脂質、血糖、肥満)のすべてについて異常の所見があると認められたとき(1) 二次健康診断
 1年度内に1回に限る
(2) 特定保健指導
 二次健康診断1回につき1回に限る

労働者が業務上または通勤途上で負傷や疾病に見舞われた場合、労災保険から所定の保険給付が行われ、これに加えて、被災労働者やその遺族の生活安定と社会復帰を支援するために支給されるのが「特別支給金」です。​

特別支給金は、労災保険給付に上乗せされる形で支給され、その性質上、福祉的な側面を持っています。

労災の特別支給金の支給要件

労災の特別支給金の支給要件

特別支給金の支給要件は、基本的に労災保険給付の要件と同一です。​つまり、業務上または通勤途上での負傷や疾病により療養が必要となった場合や、休業を余儀なくされた場合、後遺障害が残った場合、または死亡した場合などが該当します。​ただし、療養(補償)給付や療養給付など、無料で治療が受けられる給付のみの場合、特別支給金は支給されません。 ​支給の要件は上記の表にまとめています。

労災の特別支給金の特徴

労災の特別支給金の特徴

特別支給金は、被災労働者やその遺族の生活安定と社会復帰を促進するための福祉的な性格を持ちます。​そのため、例えば、加害者からの損害賠償を受ける際に、通常の労災保険給付は賠償金から控除されますが、特別支給金は控除の対象とはなりません。​これは、特別支給金が損害補填とは異なる性質を持つためです。

特別支給金は損益相殺(控除)されないのです。

特別支給金の内容

特別支給金の内容

特別支給金には、以下の種類があり、それぞれ支給要件と金額が定められています。​

  1. 休業特別支給金:​労災により休業した場合に、休業4日目以降、1日につき給付基礎日額の20%が支給されます。 ​

例えば、給付基礎日額が10000円の場合、休業日数1日当たり、通常の休業(補償)給付が1日6000円(=10000円×60%)となりますが、特別支給金は1日につき2000円(=10000円×20%)となります。

  1. 障害特別支給金:​労災により障害が残った場合に、障害等級に応じて以下の一時金が支給されます。​
    • 1級:342万円​
    • 2級:320万円​
    • 3級:300万円​
    • 4級:264万円​
    • 5級:225万円​
    • 6級:192万円​
    • 7級:159万円​
    • 8級:65万円​
    • 9級:50万円​
    • 10級:39万円​
    • 11級:29万円​
    • 12級:20万円​
    • 13級:14万円​
    • 14級:8万円​
  2. 障害特別年金:​障害等級1級から7級に該当する場合に、算定基礎日額の131日分から313日分が年金として支給されます。
障害等級算定基礎日額
1級313日分
2級277日分
3級245日分
4級213日分
5級184日分
6級156日分
7級131日分
  1. 障害特別一時金:​障害等級8級から14級に該当する場合に、算定基礎日額の56日分から503日分が一時金として支給されます。 ​
障害等級算定基礎日額
8級503日分
9級391日分
10級302日分
11級223日分
12級156日分
13級101日分
14級56日分
  1. 遺族特別支給金:​労災により労働者が死亡し、給付を受ける権利を有する遺族が存在する場合に、一律300万円が支給されます。 ​

  2. 遺族特別年金:​遺族の人数に応じて、算定基礎日額の153日分から245日分が年金として支給されます。 ​

遺族の数算定基礎日額
1人153日分(※)
2人201日分
3人223日分
4人以上245日分
  1. 遺族特別一時金:​遺族(補償)年金の受給権者がいない場合や、受給者がすべて失権した場合に、算定基礎日額の1000日分が一時金として支給されます。 ​

  2. 傷病特別支給金:​療養開始から1年6か月経過しても治癒せず、傷病等級に該当する場合に、等級に応じて100万円から114万円が一時金として支給されます。
     ​
  3. 傷病特別年金:傷病等級に該当する場合に、算定基礎日額の245日分から313日分が年金として支給されます。

労災における後遺障害とは?

労災における後遺障害とは?

労災においては、後遺障害が問題となることが少なくありません。

後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。

通常、これ以上治療しても症状が改善しないと判断されることを、「症状固定」と言います。医師が診断書にそれを書いて決めます。

後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。

これらが認定されると、それぞれに応じた給付がなされることになります。

労災保険の種類

労災保険の種類

そもそも労災保険では、どういった給付を受けることができるのでしょうか。

①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度

②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの

③傷病(補償)等年金
→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの

④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの

⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する

⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの⑦介護(補償)等給付→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの

⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの

その種類は、

8つとなっており、このうち、後遺障害が残ってしまった場合に関連する給付は④の障害(補償)等給付となります。

障害(補償)等給付の種類

・障害等級第1級から第7級に該当:障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金
・障害等第8級から第14級に該当:障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金

障害(補償)等給付としての支給は、傷害の程度により大きく2つにわけることができます。

後遺障害の等級は、大きな後遺障害ほど小さい数字の等級が認定されるので、第1級から第7級という後遺障害のなかでも特に深刻なものについては、年金として、等級に応じた金額が毎年(6期に分けて支給)支払われます。

慰謝料は?弁護士に依頼する必要があります

慰謝料は?弁護士に依頼する必要があります

実は、労災からもらえるもの以外で、会社に請求できるものがあります。

まずは、

後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。

後遺障害の等級により金額が異なり、例えば6級の場合、弁護士基準(いわゆる「赤本基準」)では、1180万円を請求することができます。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。

後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。

ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する賠償金を先に受け取る場合に控除する指数をいいます。

11級の労働能力喪失率は、67%です。

例えば、年収400万円の正社員で症状固定時に40歳であれば、単純計算、400万円×67%×14.6430=3924万円になります。

それぞれの請求先

これらについては、労災からは支給されないので、自分の所属する会社や、労災に相手方(第三者)がいれば相手方に請求する必要があります。

会社に請求できることを知らない方は結構多いです。

弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士に相談・依頼するメリット

後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。

これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。

ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

まとめ

まとめ

労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社に対する請求も問題となります。

労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀

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