
相続人の中に未成年者がいる場合、生存している親との利益相反が問題となり、原則として特別代理人の選任が必要となるので注意が必要です。本稿では、未成年者の相続における特別代理人制度の概要をお伝えするとともに、選任が不要なケースも紹介します。
相続人の中の未成年者

亡くなった方(被相続人)に未成年の子がいた場合、その未成年者も当然ながら相続人になります。
しかし、個人的なばらつきはあるものの、一般的に言って、未成年者は、成人と比べて知識や経験が不足しており、重要な判断を迫られる場面において、必ずしも自分にとって正しい判断ができるとは限りません。
遺産分割の場面でも、未成年者は、周囲の大人に言われるまま不利な条件で合意してしまう可能性がありますし、生存している親(被相続人の配偶者)が同じ相続人の立場で話し合いに加わり、お互いの利害が対立することもありえます。
このように、知識や経験、判断能力で成人に劣る未成年者が不利益な立場に置かれることのないようにするため、相続人の中に未成年者がいる場合は、その未成年者に代わって法律行為を行う特別代理人の選任が必要とされているのです。
なお、これまで長きに渡って20歳未満の者が未成年者とされてきましたが、2022年4月1日の法改正により、現在では18歳未満の者が未成年者とされています。
このため、18歳、19歳の者が相続人になる場合には特別代理人の選任は不要となり、その者自身が成人として相続手続きを行うことになります。
未成年者のための特別代理人の選任

親が未成年の子を代理できるのが原則のはずだけど・・・
通常の場面では、親は未成年の子どもの法定代理人として、様々な法律行為(契約など)を行います。
この点、被相続人の遺産をどのように分けるかを決める遺産分割協議も、法律行為の一種ですから、原則として法定代理人である親が代理してできるはずです。
しかし、親も子も、ともに相続人になるような遺産分割の場面では、お互いの利害が対立する(法律上、「利益相反」と言います)可能性があります。
例えば、親が多くの遺産を相続したいがために、子の取り分を過度に少なくするかもしれません。
さらに、もっと進んで、親が遺産を独り占めするために、子については相続放棄をしてしまうかもしれません。
このような事態を防止し、未成年者の権利を保護するため、その未成年者のために特別代理人を選任することが必要なのです。
なお、相続人の中に複数の未成年者がいる場合には、未成年者同士の利害も対立する可能性があるので、未成年者一人一人に特別代理人を選任しなければなりません。
未成年者の特別代理人とは
特別代理人とは、未成年者など判断能力が十分でない者のために、その者に代わって特定の法律行為を行うために選任される代理人です。
ポイントは「特定の法律行為を行うため」というところで、遺産分割なら遺産分割だけを行う代理人であり、遺産分割が終わればその任務は終了します。
この点が、未成年後見人と異なるところです。
特別代理人には利害関係のない第三者が選ばれますが、特別な資格は必要なく、弁護士や司法書士といった有資格者でなくてもなることができます。
選任の申立をする時に候補者を挙げることができるので、例えば、問題になっている相続に関係のない他の親族(叔父や叔母など)や、信頼できる友人・知人を候補者にすることもできます。
適切な候補者がいない場合や、選任申立をする時に挙げた候補者が裁判所から適切でないと判断された場合には、裁判所が弁護士を選任します。
未成年者の特別代理人の職務

未成年者のために選任された特別代理人は、相続の場面において、次のような職務を果たします。
①遺産分割協議への参加
特別代理人は、親に代わって遺産分割協議に参加します。
特別代理人は、未成年者の不利益にならないよう細心の注意を払いますので、親と未成年の子の利益が相反するケースでも、問題なく遺産分割協議を成立させることができます。
なお、特別代理人は未成年者の代弁者であり、その利益を確保する義務を負っていますから、遺産分割においては、最低限、未成年者の法定相続分は確保することになります。
このため、その未成年者の法定相続分を下回るような配分の遺産分割は、原則して認められなくなります。
②分割協議書への署名・押印、その他必要な手続きの代行
特別代理人は、未成年者の代わりに遺産分割協議書に署名押印をして、遺産分割協議書を完成させます。
また、成立した遺産分割協議書に基づいて相続登記を行う際の署名押印や、金融機関での預貯金の払い戻し手続きなど、未成年者のために各種相続手続きを代行します。
③遺産分割調停・審判への参加
相続人間での話し合いがまとまらず、家庭裁判所での遺産分割調停・審判となった場合も、特別代理人は未成年者に代わって手続きに参加し、その利益を守ります。
特別代理人の選任が不要の場合

相続人の中に未成年者がいても、次のように、未成年者の権利が害される恐れがない場合では、特別代理人を選任する必要はありません。
①親が相続人でない場合
親と未成年の子の利益相反が生じるのは、親と未成年の子がともに相続人の立場にあるからです。
これに対して、親が、その相続における相続人になっていなければ、利益相反が生じる余地はなく、未成年の子の権利も害される心配はありません。
例えば、母親が再婚している場合で、離婚した元夫(未成年の子の父親)が死亡したケースでは、子は相続人になりますが、母親は相続人ではありません。
この場合、母親は、通常どおり、未成年の子の法定代理人として遺産分割協議を行うことができ、特別代理人の選任は不要です。
②親が相続放棄した場合
「親は相続放棄したが、未成年の子は相続する」という場合、①と同様、親は、その相続における相続人ではないことになるので、利益相反が生じる余地はありません。
この場合、親は、通常どおり、未成年の子の法定代理人として遺産分割協議を行うことができますので、特別代理人の選任は不要です。
③遺産分割協議を行わず、法定相続分どおりに相続する場合
遺産分割協議を行わず、民法で定められている法定相続分どおりに相続するというのであれば、親と未成年の子が同じ相続人の立場であっても、お互いの利害が対立することはありません。
例えば、不動産を相続人全員の共有名義(持分割合は法定相続分のとおり)に登記する場合などで、この場合は特別代理人を選任する必要はありません。
特別代理人の選任が必要なのに、しなかった場合は?

親と未成年の子の間に利益相反があり、本来であれば特別代理人の選任が必要であったにもかかわらず、親がそのまま未成年の子を代理して遺産分割協議を成立させたとしても、その協議は無効となります。
協議自体が無効となりますから、その遺産分割協議書を持って法務局に行っても不動産の名義変更はできませんし、金融機関で預貯金の払い戻しを受けることもできません。
自分達のケースで、未成年者に特別代理人の選任が必要なのかどうか迷われたら、事を進める前に必ず、専門家に相談することをお勧めします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。