■目次

労働災害に遭ってしまい、働けなくなってしまったとき、解雇されてしまうのではないかと不安になる方もいらっしゃると思います。
このコラムでは、労災と解雇の関係について解説します。
1 労働災害とは
労働災害とは、労働者が、労働をしている時や通勤の途中に起きた事故によって、ケガをする、病気になる、あるいは、お亡くなりになることをいいます。
労働者には、正社員のみならず、パートやアルバイト、契約社員などの形態により雇用されている方も対象に含まれます。
具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
・工場での作業中に、プレス機に腕を挟まれて大ケガを負った。
・高所での現場作業において、足場が滑って転落し、腕を強く打ち付けた。
・長時間のデスクワークにより脳出血や脳梗塞を発症した。
・他の従業員による重機の操作ミスにより、下敷きになり死亡した。
・会社を退勤した後、車で帰宅していたところ交通事故にあった。
2 労災事故と認められる条件

業務中に発生した事故が労災として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2点がポイントになります。
「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということを言います。
例えば、工場内での作業中におけるケガにより、腕を切断することになったということであれば、業務遂行性が認められることは多いのではないかと思われます。
「業務起因性」とは、業務に伴う危険が現実化したこと、つまり、業務と結果(ケガや病気、死亡)の間に因果関係があることを言います。
工場や現場で作業している最中の事故であれば、一般的には業務起因性は認められやすいと思われます。
一方で、本人の私的行為、業務から逸脱した行為、規律に違反する行為等は、業務起因性を否定する事情になりえます。
3 労災に遭ってしまったら、解雇されてしまう?

⑴ 法律上の解雇制限
労働災害に遭い、怪我をしてしまった場合、仕事を休まざるを得ないこともあると思います。
勤務先を休む期間が長くなると、「解雇されてしまうのではないか」と不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかしながら、労働基準法では、業務による怪我や病気の治療のために休業している従業員については、休業中とその後の30日間は、原則として解雇をすることが禁止されています。
【参考 労働基準法第19条第1項本文】
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。
よって、労災の怪我の治療をしている最中に、解雇されることは基本的にありません。
労働者側に怪我の過失が多い場合であっても、このルールは適用されます。
⑵ 解雇制限の例外

もっとも、上記の解雇制限については、いくつかの例外があります。
① 通勤労災の場合
通勤中の事故による怪我での休職の場合、解雇の制限は適用されません。
通勤中の事故であっても労災自体は適用されますが、解雇制限については適用されません。
② 契約社員の雇い止め
契約社員を雇い止めする場合には、業務上の病気やけがで休職している場合であっても、上記の解雇制限については適用されません。
ただし、契約社員の雇止めについては、雇止め法理(労働契約法第19条)による制限が適用されることになります。
【参考 労働契約法第19条】
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
③打切補償がなされる場合
業務上の病気やけがで休職している場合、治療を開始してから3年が経過しても治療が終わらないときは、会社は当該従業員に対して、同人の平均賃金の1200日分を支払うことで、解雇することが認められています。
この場合、解雇はされてしまいますが、3年分以上の賃金を受け取ることができるので、それにより当面の生活をすることができます。
④ 傷病補償年金を受給している場合
労災による休業では、休業開始から1年6ヶ月経っても傷病が完治しない場合、傷病の等級によって「傷病補償年金」が支給されることがあります。「傷病補償年金」の支給については、労働基準監督署が判断することになります。この「傷病補償年金」の支給を受けることになると、それまで受けていた他の補償給付は打ち切りとなります。
そして、療養による休業開始から3年が経った時に、労災に遭った従業員が「傷病補償年金」を受け取っている場合、また受け取りが決まっている場合には、その従業員の解雇が認められています。
⑤ 事業継続が不能になった場合
天災といったやむを得ない事情により事業の継続が不可能になった場合は、労働基準監督署長の認定を受ければ、労災で休業治療中の従業員を解雇することもできるとされています(労働基準法第19条1項但書)。
⑶ 小括
以上のように、一部の例外的な場合を除いて、労働災害の治療のための休職中に、解雇されることはありません。
なお、休職から30日目以降は、上記の解雇制限は適用されなくなりますが、それでも、無条件に解雇できるものではなく、一般的な解雇の要件を満たす必要があります。
4 【まとめ】労働問題でお悩みの際は、ぜひ弁護士へ相談を

これまで見てきたように、労働問題は、法律も複雑であり、すべてを把握することは困難です。
そのため、労働問題にお悩みの方は、ぜひ一度、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。