未払い残業代は、賃金債権として請求できますが、時効があり、しばらくすると請求ができなくなってしまう可能性があります。

また、残業代を請求するには証拠集めが重要で、早めに弁護士に相談することが時効対策として有効です。

ここでは、残業代の請求について裁判例をまじえて解説いたします。

残業代にも時効はある?

残業代の時効は何年で成立するのか

未払い残業代は、法律上の「賃金債権」として請求できます。
しかし、法律には「時効」があるため、一定期間が経過すると請求できなくなる可能性があります。

■2020年4月の改正前

  • 労働基準法上の時効期間:2年(改正前労働基準法115条)
  • 請求できるのは、原則として過去2年分の未払い分

■2020年4月の改正後

  • 改正労働基準法115条、143条3項により:時効は3年(将来的には5年への移行も想定)
  • つまり、現在は原則として3年分の未払い残業代を請求できる

【ポイント】
過去に働いていた分も、3年以内であれば請求可能!
退職していても、在職中であっても関係ありません。

残業代の時効はいつから進行するのか

労働基準法115条によると、賃金債権の請求権は「行使できる時から」3年とされているので

「働いた日から3年」ではなく、
支払日(通常は給料日)から3年ということになります。

たとえば、2022年4月分の残業代が支払われていない場合、
その支払日は通常2022年5月。その3年後である2025年5月までに請求しなければ、時効で消滅する可能性があります。

残業代の支払いを求めた裁判例

残業代の支払いを会社に対して求める場合、残業時間について、労働者が主張立証する必要があります。

残業時間を直接証明する証拠としてタイムカードが挙げられます。

裁判例では、タイムカード等の労働時間を直接証明する記録がある場合、タイムカードの打刻時間を始業時刻、終了時刻と認める傾向にあります(日本コンベンションサービス事件(大阪地裁平成8年12月25日判決)等)

それでは、タイムカードのような残業時間を直接証明する証拠がなかった場合、残業時間を立証することはできないのでしょうか。

残業時間の主張が認められた事例

ゴムノイナキ事件(大阪高裁平成17年12月1日判決)

概要: タイムカード等の労働者の出退勤の管理がなされていなかった会社において、原告たる労働者が、被告たる会社に対し残業代の支払いを求めた事例です。

裁判所の判断: 裁判所は、労働者がタイムカードによる出退勤時間の管理をしていなかったのは、専ら会社側の責任であり、これをもって、労働者を不利益に扱うことはできないものとしました。

そして裁判所は、労働者の妻が毎日記録していた労働者の帰宅の時間についてのメモや同僚の証言、繁忙状態等の労働実態に関する資料等から平均的な残業時間を認定し、一定の残業代の支払いを認めました。

ポイント:この判決は、残業時間を直接証明するタイムカード等の証拠がなくても、労働時間に関するメモや同僚の証言、労働実態に関する資料等の各証拠から残業時間を推認し、残業時間を認定し得ることを示しています。

大作商事事件(東京地裁令和元年6月28日判決)

概要:​原告が勤務先に対し、パソコンのログ記録を基に時間外労働の存在を主張し、未払い残業代の支払いを求めた事案です。

裁判所の判断:​裁判所は、パソコンのログ記録が労働時間を推定する資料として相当であると認定し、原告の主張を一部認容しました。

ポイント:​この判決は、残業時間を直接証明するタイムカード等の証拠がなくても残業代の請求ができ得ることを示しています。

また、労働者が自己の労働時間を立証する際に、パソコンのログ記録が有効な証拠となり得ることも示しています。​

残業時間の主張が認められなかった事例

三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)

概要:労働者が会社構内の入退場時刻を記録したICカードの使用履歴をもって会社に対し残業代等の支払いを求めた​事案です。

裁判所の判断:​裁判所は、ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示したものにすぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちに労働者が時間外労働をしていたとは認められず、ICカードの使用履歴から残業時間を認定することはできないと判断しました。

ポイント:​この判決は、ICカードの使用履歴は単に労働者の会社構内における滞留時間を示したものにすぎないとして、ICカードの使用履歴による残業時間の推認を否認しています。​

残業時間について判断した裁判例についてのまとめ

・タイムカードの記録は、残業時間を直接証明する証拠となる
・タイムカードの記録がなくても他の証拠によって残業時間が推認できることもある
・パソコンのログ記録が残業時間の証拠となることがある
・ICカードの使用履歴のみでは残業時間の立証として不十分であると判断される可能性が高い
・残業時間について、複数の証拠が存在し、その証拠の整合性が認められる場合に残業時間が認定されやすい

残業代請求には証拠集めが重要!

残業代の支払いを求めるには、残業時間を証明する証拠を集めることが重要です。

タイムカードがない場合でも、以下の証拠が役に立ちます。

・パソコンのログ記録
・業務メールの送受信履歴
・手帳やスマホにメモした退勤時間
・同僚による証言やLINEでのやり取り
・勤務先の防犯カメラの映像

まとめ

  • 残業代の未払いがあるかどうか、給与明細や勤務記録を確認
  • 3年以内の分であれば、まだ請求できる可能性あり
  • タイムカードの記録やパソコンログなど、証拠を集めておく
  • タイムカードの記録やパソコンログなど、証拠を集めておく

時効は日々完成に近づいていきます。

時効を迎えてしまった場合、基本的にはそれはもう請求することができません。

残業代があるかも?と思った場合、まずは弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 椎名 慧


令和2年3月 千葉大学法政経学部法政経学科 卒業
令和4年3月 東京都立大学法科大学院 修了
令和7年4月 弁護士登録