民法の相続法について、いくつか重要な改正がされました。企業の経営者の方などにも関係する点がありますので、2回にわたって、簡単に触れたいと思います。
1「自筆証書遺言の方式緩和」
自筆証書遺言(公証役場で作成する公正証書遺言と異なり、遺言者が自分で作成する遺言書)は、全文、日付、氏名をすべて自書(手書き)しなければなりませんでした。
しかし、今回の改正によって、自筆証書遺言のうち財産目録については、自書によらない方式でも作成できるようになりました。つまり、パソコンによる作成、不動産登記簿謄本や預金通帳の写しを添付するといった方法で作成できるようになったのです。ただし、あくまで財産目録だけで、遺言書本文は全文自書する必要があります。
2「遺言書の保管制度」
自筆証書遺言は自宅で保管されることが多いのですが、紛失してしまったり、遺言書があることを知った相続人が、遺言書を廃棄、隠匿、改ざんする恐れがありました。
そこで、このような事態を防止するため、法務局による自筆遺言証書の保管制度が開始されることになりました。この制度では、自筆証書遺言を作成した遺言者からの申請により、法務局が遺言書の原本を保管し、遺言書ファイルを作成します。
そして、遺言者が亡くなった後、相続人など者は、全国どこの法務局に対しても、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができます。その後、遺言書が保管されている法務局に赴いて遺言書を閲覧することができます。
3 預貯金の一部払い戻しの制度
相続人間で遺産分割協議がまとまらなければ被相続人が有していた預貯金を下ろすことができず、葬儀費用の支払いができなくなるなどの不都合が生じます。
そこで、改正相続法ではこのような不都合を回避するため、遺産分割前であっても、各相続人が、金融機関に対し、被相続人の有した預貯金につき一定の金額を払い戻すよう請求できる制度を設けました。
この時、金融機関から払い戻すことができる金額は、相続開始時の預貯金額×3分の1×権利行使者の法定相続分です。
ただし、「預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする」という制限がついており、この法務省令で定める金額が「150万円」と決まりましたので、1つの金融機関につき150万円までが上限となります。