従業員の心の不調によって使用者が不利益を被ることが多くなっています。例えば、従業員が心の不調によって問題行動を起こしたり、休みがちになったり、また、深刻なものでは、従業員が自死したり、回復の困難な精神疾患に罹患して、本人や遺族が、過労が原因で心の不調が生じたのだと主張して、労災の申請や損害賠償請求を行うということもあります。
問題行動を起こしたり、休みがちになった場合には、休職制度を利用して、従業員に賃金を支給しない代わりに休職させることが必要になることがあります。もっとも、従業員は自身の心の不調に気づいていなかったり、賃金が支払われなくなることに抵抗を感じて、休職命令に応じないということがありますから、専門医の診断を受けさせて、休職命令を発令する根拠を作ることが必要になります。
また、使用者には従業員の健康に配慮する義務がありますから、そのような義務を適切に履行していたか否かが問題になります。厚生労働省が、労働災害による精神疾患を認定する基準を発表していますので、これらの基準にしたがって、従業員の労働時間が長すぎないか(2か月連続して1か月に120時間以上の時間外労働を行った場合や、3か月連続して1か月に100時間以上の時間外労働を行った場合が労災認定を受ける基準として発表されています。)、過大な責任を負う業務に労働者がついていないか等を、使用者は注意する必要があります。
万一、これらの問題が発生した時のために、従業員のパソコンのオンオフの時間、スケジュール帳、タイムカード、営業日報等の証拠によって、従業員の労働時間や勤務態度が記録に残る体制ができているかについても、気をつける必要があります。
さらに、以上のような問題が発生してしまうと、その対応が大変であることが多いので、発生を予防することも検討する必要があります。予防のためには、使用者が従業員のメンタルヘルス(心の健康)を見守ることが大事です。労働時間等は数値化できますのでチェックが容易なのですが、慣れない仕事に責任を感じて心の不調をきたす人もいますから、このような方の心の不調を見逃してしまうということはあり得ます。「もう駄目だ」と弱音を吐く人に安易に「大丈夫だよ」と回答をして、悩みの内容を聞かないで終わると、一人で抱え込んで心の不調をきたすということがありますから、悩みの内容を具体的に聞いてあげるという態度が必要になります。