下請法では、親事業者が下請事業者から物品を受領した後、その物品に瑕疵があるなど下請事業者の責に帰すべき理由がある場合を除いて、返品を禁止しています。どのような場合に返品ができ、どのような場合にできないのか、個々の場合に沿って述べていきます。

1 はじめに

下請事業者から納品された物品ついて、親事業者が発注内容どおりかを検査し、問題がない場合に受け取ることを検収と言います。親事業者がいったん検収したものは、原則として下請事業者に返品することはできませんが、返品が認められる場合もあります。
どのような場合に返品でき、どのような場合に返品できないのかを考えてみたいと思います。

2 検収と納品の違い

検収とは上記のとおり、親事業者が発注内容どおりかを検査し、問題がない場合に受け取ることを言いますが、間違いやすい言葉に納品というものがあります。
納品というのは、下請事業者が親事業者に対して物品を納めることであり、親事業者は、まだ、その物品について問題がないと認めているわけではありません。その後に、親事業者が検査をし、問題がないと認めて受け取ることを検収と言います。

3 下請法における返品の禁止

(1) 理由のない返品の禁止

下請法第4条第1項第4号では、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者に、その給付にかかるものを引き取らせること」を禁止しています。

この規定が設けられたのは、理由がない返品を禁止することによって下請事業者の利益を守るためですが、理由がない返品というのは、例えば、親事業者に対する注文が減り、もうその物品を必要としなくなった、販売期間が終了したなどの理由で、下請事業者に返品するというような場合です。

反対に理由がある返品というのは、注文した物品と違う、数量が違う、汚損・棄損がある、製品に瑕疵があるなどの場合です(契約した趣旨と違っているという意味で、2020年4月施行の改正民法では、これらをまとめて「契約不適合」と言っています)。

(2) 返品できる期間

このように下請事業者の責に帰すべき理由がある場合は返品することができるのですが、返品の期間は下記のようになっています。

ア 直ちに発見することができる瑕疵がある場合

例えば、注文した物品と違う、数量が違う、すぐに分かる汚損棄損があるというような場合です。この場合、瑕疵を発見した後、速やかに下請事業者に返品する必要があります。

イ 通常の検査では発見できない瑕疵(直ちに発見することができない瑕疵)がある場合

例えば、物品に瑕疵があり、その瑕疵は、ある程度使ってみないと発見できないというような場合です。このように下請事業者の責に帰すべき理由があるときは、物品の納品後(検収ではなく納品になります)、6ヶ月以内であれば返品ができますが、6ヶ月を超えた後に返品すると、下請法の返品の禁止に違反することになります。また、例えば、1ヶ月後に瑕疵を発見したような場合、速やかに返品しないと、たとえ6ヶ月以内であっても返品できなくなる可能性があります。

ただし、消費者に対して6ヶ月を超えて保証期間を定めている場合は、その補償期間に応じて、最長1年以内であれば、親事業者は下請事業者に対して返品できるとされています。

4 検収と返品禁止の関係

⑴ 関係図

検査して合格となれば検収、不合格となれば返品、また、いったんは合格となっても通常の検査では発見できない契約不適合が後に発見された場合は、一定期間内であれば返品となるわけですが、その関係を図示すると下記のようになります。
また、親事業者は、検査を自社で行わず、下請事業者に委任することもありますので、その点も、下記の図にも含まれています。

⑵ ポイントの説明

①について

受入検査を親事業者が行い、また、全数検査を行う場合です。いったんは合格し検収となったのですが、後に通常の検査では発見できない瑕疵(直ちに発見することができない瑕疵(例えば、ある程度使ってみないと分からない欠陥)が発見されました。この場合は、納品後6ヶ月以内(消費者向け保証がある場合は1年以内)であれば、不良品についてのみ返品することができます。

②について

検査の結果、不合格になったのですから、不良品のみですが返品することができます。ただし、返品は速やかに行わなければなりません。返品が遅れた場合は、返品することができなくなります。

③について

受入検査を親事業者が行い、ロット単位で抜き取り検査を行う場合です。いったんは合格し検収となったのですが、後に直ちに発見することができない瑕疵が発見されました。この場合は、納品後6ヶ月以内(消費者向け保証がある場合は1年以内)であれば、不良品についてのみ返品することができます。

➃について

受入検査を親事業者が行い、ロット単位で抜き取り検査を行う場合です。いったんは合格し検収となったのですが、後に直ちに発見することができる瑕疵(例えば、数量が足りない、汚れ・既存があった)が、抜き取り検査した以外の物品に発見されました。

この場合は、抜き取り検査とはいえ、ロット単位で合格とされているのですから、ロットの中に瑕疵がある物品があっても、返品は認められません。ただし、次のような条件がすべて満たされる場合は、不良品について返品することができるとされています。

■ 継続的な下請取引が行われている。
■ 発注前にあらかじめ、直ちに発見できる不良品について返品を認めることが、合意・書面化されている。
■ この書面と3条書面との関連付けがされている。
■ 遅くても、物品を受領後、その受領にかかる最初の支払い時までに返品する場合

また、これらの条件を満たす場合でも、親事業者と下請事業者の間で、合格ロット内の不良品を返品することを前提として、下請代金の額について十分な協議が行われることが必要であり、親事業者が一方的に従来(ロット内に不良品があっても、不良品の返品をしないされている場合)と同様の単価を設定する場合は、下請法の買いたたきに該当する恐れがあるとされています。

⑤について

検査の結果、不合格になったのですから、不合格となったロットについてのみ返品することができます。ただし、返品は速やかに行わなければなりません。返品が遅れた場合は、返品することができなくなります。

⑥について

親事業者は受入検査を行わず、受入検査を下請事業者に文書で委託している場合です。下請事業者の検査により、いったんは合格となったのですが、後に直ちに発見することができない瑕疵が発見されました。この場合、納品後6ヶ月以内(消費者向け保証がある場合は1年以内)であれば、不良品についてのみ返品することができます。

ところで、上記のように返品するためには受入検査を下請事業者に文書で委託していることが必要です。文書で委託していなければ、後に、直ちに発見することができない瑕疵があっても、返品することはできなくなります。

また、文書で委託しているといえるためには、文書で委託すること、また、その文書には検査基準が示されていることが必要とされていますが、検査基準が示されているというのは、どこまでのことを言うのでしょうか。
ア 検査項目・検査内容が明確になっていることを言うのか、
イ それとも、例えば、「目視検査を依頼する」というような検査の方法を明確にしていればよいのか、
という問題があります。

この点は、確定した解釈はないのですので、上記のアのように、検査項目・検査内容を明確しておくという方向で考えるのが安全と考えられます。
なお、アの場合でも、例えば親事業者と下請事業者の間で取り交わされている品質管理基準書から、検査項目・検査内容が分かるのであれば、「下請事業者は親事業者と交わした検査基準書に基づき、親事業者の委託を受けて受入検査を実施し納入するものとする」というような文章でも、アの条件を満たしていると考えられます。

⑦について

親事業者は受入検査を行わず、受入検査を下請事業者に文書で委託している場合です。下請事業者の検査により、いったんは合格となったのですが、下請事業者の行なった検査に明らかなミスがあり、瑕疵ある物品(直ちに発見できる瑕疵がある物品を含む)が合格となりました。
この場合、下請事業者の行なった検査に明らかにミスがあったのですから、納品後6ヶ月以内であれば、不良品についてのみ返品することができます。

⑧について

親事業者が受入検査を行わず、下請事業者にも依頼していない場合(つまり、受入検査を省略している場合)、あるいは下請事業者に(文書を作らず)口頭で委託している場合ですから、「文書で委任している」という条件に当てはまりません。したがって、後に瑕疵がある物品が発見された場合でも、親事業者は下請事業者に対して返品を行うことはできなくなります。

5 損害賠償請求

これまで、受入検査をして合格し、検収をした場合、受入検査が不合格になった場合などについて、どのような場合に返品ができ、どのような場合に返品ができないのかについて述べてきました。

ところで下請法では、親事業者の禁止事項として、■受領拒否の禁止、■下請代金の支払い遅延の禁止、■下請代金の減額の禁止、■返品の禁止、■買いたたきの禁止、■購入・利用強制の禁止、■報復措置の禁止、■有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止、■割引困難な手形の交付の禁止、■不当な経済上の利益の提供要請の禁止、■不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止、の11項目を設けています。

逆に言うと、下請法が規制しているのは、上記の11項目ですから、下請事業者が民法などの法律に違反している場合、親事業者が下請事業者に対して損害賠償請求をすることは可能です。
例えば、4①で述べたように、全数検査を行って合格し、その後、直ちに発見することができない瑕疵があった場合、受領後6ヶ月以内であれば返品が可能です。逆に言うと、6ヶ月経ってしまうと返品することができないのですが、損害賠償請求については、契約書で定めた損害賠償請求ができる期間が経過していない、あるいは損害賠償請求権の時効期間が経過していないということであれば、可能ということになります。

もちろん、損害賠償請求をするには民法などで定めた他の条件(下請事業者の故意過失、損害の発生、故意過失と損害との間の因果関係など)が必要になりますし、これらの条件を証明することが必要になりますから、損害賠償責任の追及も簡単というわけではありません。

6 支払い遅延の禁止

本コラムのテーマではありませんが、検収に関連してよく問題になるのが、下請代金の支払い遅延の規制ですので、一言述べておきます。。
下請法第4条第1項第2号では、親事業者は、下請事業者から納品を受けた後(検収をした日ではなく、納品を受けた日が起算点になります)、60日以内に下請代金の支払いをしなければならないことになっています。

60日より短い日が支払日になっていれば、その支払い日までに支払わなければ支払遅延となりますし、60日を超えた日が支払日になっていれば、受領日から60日目までに支払わないと支払い遅延となります。

また、支払い遅延が生じた場合、親事業者は下請事業者に対し、受領後60日を経過した日から支払いをするまでの間、年14.6%の遅延利息を支払わなければなりません。

7 まとめ

以上、1〜5で述べたとおり、返品については、全数検査を行って検収するのか、抜取り検査(ロット単位)を行って検収するのか、親事業者ではなく下請事業者が検査を行って検収するのか、などによって、その可否が分かれてきますので、親事業者が返品をする場合、あるいは下請事業者が返品を受ける場合、返品が可能なのかどうかにつき、個々の事案にそってよく検討することが大切です。
また、6で述べたように、支払い遅延の問題にもご注意ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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