仕事のできない社員に対して、どのように対応したらよいでしょうか。解雇は難しいといっても、配置転換をすることは可能なのか、配置転換をするときの注意点や、判断をする際、取得しておいた方が望ましい資料についてご紹介いたします。

仕事のできない社員に対してどのように対応したらよい?〜配置転換はできる?〜

1 仕事ができない従業員に対する対応

仕事ができない従業員、といってもいろいろな理由がある場合があります。

本人の能力的な問題で与えられた仕事がこなせない場合、業務そのものの難易度が高く適応できない場合、仕事時間中に居眠りをしたりおしゃべりをするなどして、仕事ができない場合、もともとは仕事ができていたが精神疾患を患ってしまい、仕事に対応することができなくなってしまった場合など、理由があることがあります。

そのような従業員がいた場合、会社がそのまま放置をしておくと、会社全体の効率が悪くなるばかりか、他の従業員に対して影響がでかねません。

会社側としては、そのまま放置しておくことは、なかなかできないものと考えられます。

2 仕事ができない従業員を辞めさせるのは可能?

「仕事ができないし、仕事をしないのであるから、クビ(懲戒解雇)とすればよい。」
そう考えられるかもしれませんが、仕事ができないからといって、懲戒解雇をすれば問題が解決するという、単純な問題ではありません。

懲戒解雇は非常に厳しい処分ですから、慎重にしなければ、解雇が無効となることもあります。

※参考判例※

勤務成績・勤怠不良の従業員を解雇したケース(東京地裁H13.8.10決定)では、下記のような基準を示しました。なお、この事例では、解雇権の濫用として、当該解雇を無効としました。

「就業規則上の普通解雇事由がある場合でも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合は、当該解雇の意思表示は権利の濫用として無効となる。特に、長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。」

3 配置転換の根拠

仕事ができないことを理由に、配置転換を行うことはできるのでしょうか。

配置転換に関して、直接規制をしている法律上の根拠はありません。
配置転換の根拠については、それぞれの会社の就業規則などに包括的に定められていることが多く、同規定が、配置転換を行う根拠となるでしょう。

もっとも、配置転換を行うことができる旨の定めがされているとしても、職務の内容や勤務地などは、個々の労働契約によって、その範囲が限られていることがあります。

そのため、配置転換の規定があるからといって、どのような配置転換も許されるというわけではありません。個々の労働契約の内容に照らして、判断をしていくことが必要となります。

また、「配置転換ができる」としても、配転命令は、労働者に少なからず影響を与えるものです。
そのため、配転命令が権利の濫用となる場合には許されないとして、制限されています。

なお、配置転換の規定は、仕事ができない従業員を会社側の権限で配置転換をすることを認めるために規定されているわけではなく、適切な人事権の行使のために規定されているのが通常です。

4 配置転換はどのような場合に許される?

配置転換(配転命令)の有効性について、次の参考判例はこの事例は、仕事ができない従業員の配置転換を認めたものではありませんが、配置転換の有効性・無効性を判断する意味では参考になるものと思われます。

※参考判例※

「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」
(最二小判昭和61年7月14日)

すなわち、配置転換が認められるか否かは、配転命令自体に制限がかかっていないか(職種が限定されていたり、就業場所が制限されている場合など)、に加えて、仮に配転命令が可能であったとしても、①業務上の必要性が生じない場合、②業務上の必要性が存在する場合であっても、当該転勤命令(ないし配転命令)が他の不当な動機・目的をもってされた場合、③業務上の必要性が存在する場合であっても、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、権利濫用と言われる可能性があります。

もっとも、この業務上の必要性については、他の人では容易に替えがたいという高度の必要性まで限定されていません。

そのため、仕事ができない社員を配置転換をする場合であっても、正当な理由に基づいて配置転換が行われているという合理的な理由は必要になってくるでしょう。

5 配置転換の効力はどう争われるか

仕事ができない従業員を解雇した場合には、上記のように、当該解雇が無効であるとして、解雇された従業員が訴訟を起こすことが考えられます。

解雇ではなく、配置転換だから、訴訟が起こされないというわけではありません。

配置転換をされた従業員から、配転先において就業義務のないことの地位の確認訴訟を行うことが考えられます。

その他にも、権利濫用になる配転命令を行った場合、それが不法行為を構成する場合には、不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料の請求)が認められることがあります。

※参考判例※

この判例は、総務部に配属された従業員が1カ月半、食堂実習をし、その後総務業務の一部を行ったが、ミスが多いと評価され、1年目の人事評価で低い評価となったこと、前任者と異なり前任者が与えられた業務の担当を与えられず別の仕事を与えられたこと、本人が総務や経理の業務を希望しているにもかかわらず、なかなか業務を担当させていないにもかかわらず、当該業務の評価を低く評価して、総務担当はできないとして、総務とは全く別の業務に異動させた事案において、まず、上記判例を引用しています。

「ところで,使用者は業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に,労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから,使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである」

そして、本判例は、配置転換については、根拠規定があること、担当業務においてミスがあったこと、配転先の業務で補充が認められていたことは、異動命令は、不当な動機・目的があったものとはいえないとされ、異動命令は無効とまではされませんでした。

しかし、配属先の仕事を与えられず、レベルに達していないと評価されたことや、先輩社員の発言等が配慮を欠くものであることや、侮辱的な発言があったことなどから、先輩社員の言動並びに異動を一体として考えると、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すもの」と評価されました。

そして、不法行為が成立するとして100万円の慰謝料請求が認められました。

6 配置転換の効力を争われないようにしておくべきポイント

このようなことから考えると、「仕事ができない社員は解雇できないから、配転命令を出して、それでもできなければ解雇すればよいんでしょ!」と簡単に考えることはどうもいかないと思います。

「能力不足」を理由に、配置転換をする場合、そして、その後に解雇をする場合において、そもそも、「能力不足」といえるか否かについては、評価の問題でもあります。

そして、裁判等においては、「能力不足」に該当しているか否かは、非常に厳格に判断されているものと考えられます。
また、一方的に「能力不足」と判断し、叱責すると「パワハラ」と言われかねません。

(1)指導・教育・研修などの実施

そのため、まずは「能力不足」「仕事ができない」と判断される社員に対しては、会社が求める能力や、社員の能力の現状を明確に伝えて、具体的な指導教育を実践していく必要があります。

もちろん、このような指導教育が功を奏して、社員の能力が改善されれば、会社にとってもよいことでしょう。

そのためにも、
①残業禁止の規定を明確にしておく
→残業禁止に反し残業をしている場合には、面談等をして改善を促す

②指導・教育・研修をしたということが言えるために、注意書、指導書、指導に関するメール、社内の議事録、本人との面談記録をとっておく

③研修の受講書(書面ないし出欠管理をしておく)など
など、仕事ができない、問題になっている社員に対する指導・教育・研修などの記録をとっておくことが必要となるでしょう。

(2)能力が不足しているの証拠化

また、能力が不足している、すなわち「仕事ができない」と判断できるような証拠もとっておくことが必要になります。
考えられるものとしては、

①日報、報告書

②社内の議事録や面談記録

③本人がミスした際は、始末書、顛末書、反省文などの書面化
などが考えられるものと思われます。

(3)配転命令をする場合

そして、配置転換をする場合には、上記内容に加えて、本人の能力から、別の業務に配置転換をすれば、能力が発揮することが期待できるような部署へ移動させるなど、適切な人事権の行使をしたこと

などを、きちんと把握しておく必要があると考えられます。

7 仕事ができない従業員を解雇する場合、配転命令の可否は検討を

仕事ができない従業員を解雇する場合、「仕事ができない」という事実に加えて、指導をしたが改善の見込みがなかったというような事情のほか、解雇以外の方法で、労務の提供が十分に行うことができなかった、すなわち、配置転換などを行って、適切な部署に異動させることができなかったかということも検討されます。

そのため、「仕事ができない社員」がいる場合、配置転換を検討することは、必要なことになってくると思われます。

しかし、配置転換もむやみに行うことができるものではありません。

就業規則に定めがあるか、労働者の労働契約の中で特定の業務についての合意をしていないか(労働契約上配転ができない可能性がある)に加えて、配転命令が権利の濫用になっていないか。ということも検討する必要があります。

いずれも、その後に解雇をするということも有り得ると思いますので、配転命令を行う前の段階から、「仕事ができない社員」がいる場合には、「仕事ができない」と評価できる事情があるかも含めて、適切に配慮していくことが重要になるものと思われます。

8 精神疾患に罹患し仕事ができない社員の場合

上記の内容は、仕事にミスが多い、勤務態度が不良であるということを前提としてきました。

仕事にミスが多い、勤務態度が不良の原因が精神疾患が原因にある場合には、単に指導や教育というのみならず、面談をするなどして、本人の疾病状況を確認したりするなど配慮をすることが必要になるでしょう。

もちろん、医師の診断や、産業医の判断を仰ぎながら、より慎重に検討をしていく必要があります。総合的な事情を考慮して、配置転換が可能か否かを判断することが必要になるものと思われます。

「仕事ができない」から、常に配置転換ができるというわけではありません。
配置転換自体が、権利の濫用とならないよう、判断要素、判断過程を備えておくことが必要になるものと思われます。

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■この記事を監修した弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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