従業員から残業代の請求をされたら裁判所から訴状が届いた、パワハラをされたと辞めた従業員からパワハラをした者のみならず、会社も訴えられたなど、会社が起こされた訴訟に対応をしなければならないことがあります。従業員などが訴訟をした場合、会社はどのように対応するべきかを考えたいと思います。

会社が従業員から訴えられた。どのように訴訟対応をするべきか。

1 会社が訴えられるケース

会社がトラブルに巻き込まれる場合というのは、会社同士の取引にかかる問題でトラブルが発生した、消費者との間で問題が生じたという、対外的なトラブルのみだけではありません。
ご存じのことと思いますが、内部的なトラブルももちろん発生します。

その典型的なものの一つとして挙げられるのが、労働者とのトラブルではないでしょうか。

労働者とのトラブルという場合、すでに会社を辞めた労働者から未払いの残業代の請求があるということのみならず、今就業中の労働者から未払賃金の請求、残業代の請求、場合によってはパワハラによる訴え(パワハラ・セクハラがあったことに対する損害賠償請求)などもあり得ます。

2 トラブルが発生する場合

労働者から何らかの請求がある場合に、労働者が裁判所の手続きをいきなり起こそうとすることは、おそらくあまりないのではないかと思います。

※もちろん、労働者が裁判所の手続きをいきなり利用することはありますし、労働者が会社に対し何らかの請求を求めるために訴えを提起することが、違法な行為であるとか、会社を裏切る行為ということにはなりません。

訴訟に発展するようなトラブルになる場合は、労働者と会社との関係が悪化していることが多いです。

そのため、訴訟に発展する前に、労働者から会社に対し、「これってどうなっているんだろう」という疑問を会社に訴えている場合もありますし、「セクハラ、パワハラを受けていて何とかしてほしくて深刻したのに対応してくれない」という不信感などがあると思います。

会社としては、まずはそのようなトラブルが発生しそうな端緒がある場合には、真摯に対応をすることが求められます。

真摯に対応をし、交渉にて解決ができれば良いのですが、話し合いがこじれるケースもあります。
こじれた場合(こじれそうになる場合)には、裁判所の手続きに移行する可能性を想定し、万が一訴訟になった場合を見据えて対応をしていくことが必要になってくると思われます。

では、交渉がこじれた場合、裁判所の対応としてはどのようなことをしなければならないでしょうか。

3 会社が裁判所の対応をしなければならない場合

労働者が裁判所の手続きを利用する場合には、大きくわけて2つの方法があります。

(1)労働審判

労働審判は、裁判官(労働審判官)1名と、労働審判員2名とでなる労働審判委員会で紛争処理をする手続きです。
労働審判員は、労働者側と使用者側の専門的な知識や経験をもつ方(雇用関係の知識を持つ方や、労使の慣行をなどに詳しい方)が担います。

労働審判では、この労働審判委員会にて、紛争の適正な解決を図ろうとするものです。

労働審判手続は、原則として3回の期日(裁判所で審理をする日)以内で結論を出すように審理をします。
この手続きの中では、話し合いでの解決(調停での解決)も試みられます。

そして、この3回の期日の中で話し合いがまとまると、調停が成立(話合いが決まった)ということになり、事件については解決します。

他方、話し合いがまとまらなかった場合には、労働審判委員会によって、審判が出されます。

審判をするにあたっては、それまでの審理の経過や審理の結果認められる権利義務関係などを踏まえて出されます。

裁判所から出された審判に不服がある場合には、審判が出てから2週間以内に異議の申立てをすることができます。

異議の申立てがされた場合には、訴訟手続きへと自動的に移ることになります。

労働審判手続きでは、上記のように3回の期日で迅速に結論を出すことが目指されますし、調停といった話し合いの解決が試みられますので、1回目から審理が十分にできるように準備をする必要もありますし、相互に譲歩するなどして柔軟な解決を目指すことが求められることになります。

事件の内容にもよりますが、労働審判を労働者が申し立てる場合、そもそも話し合いができなかった、訴訟よりも早く解決したいなどの気持ちがあることもあります。

申し立てられた内容にもよりますが、会社側も早期に解決を目指す場合には、労働審判の申立てがあった場合には、調停での折り合いができないか譲歩の余地も検討してみることも必要かもしれません。

なお、労働審判は、個別労働関係民事紛争といい、労働関係に関する、会社と労働者との権利義務関係に関するものしか扱えません。
そのため、解雇や懲戒処分、未払賃金の請求、退職金の請求など、会社と労働者との権利義務に関する場合に利用されます。

(2)労働訴訟

労働訴訟は、通常の民事裁判です。

先の労働審判とは異なり、訴訟の場合には3回で終了しなければならないという時間的な制限はありません。
そのため、それぞれの主張、証拠などを丁寧に吟味をしていくことになります。

訴訟手続きの場合には、結論が出るまでの間、この主張や立証をつくすまでに1年〜2年かかるということもあります。

訴訟では、原告と被告のそれぞれが主張や反論をし、証拠を提出し、自らの求める結論(判決)を得るための活動をしていきます。

訴訟でも、相互に譲歩しあって和解での解決で終了することもあります。

しかし、相互に譲歩し合う余地がない場合や、和解の話しが裁判上ででても、和解は相互になっとくしなければできませんから、一方が和解に応じないというような場合には、裁判所の判決により解決が図られます。

第1審の裁判に不服があれば、控訴審というように進んでいきます。

労働訴訟は労働審判とは異なり、時間がかかる分、丁寧にそれぞれの主張を提出していくことができますが、時間はかなりかかります。
また、和解によって解決ができなければ、裁判所が決めることになります。

(3)労働審判、労働訴訟どちらが起こされるか

労働審判と労働訴訟は、どちらを起こすかは労働審判や労働訴訟を起こす側が決めることができます。

そのため、賃金の不払いについて労働者と揉め、労働者が「裁判所の手続きを使います」などと述べた場合、労働審判が起こされるのか、労働訴訟が起こされるのかわかるものではありません。

いずれも裁判所の手続きを使うものに変わりはありません。どちらの手続きが選択されたとしても、適切に対応をすることが良いと考えられます。

4 まず何が起こる?

労働審判や労働訴訟が起こされた場合、何が起こるでしょうか。

まず、労働審判の場合には、労働審判の「申立書」が届きます。
労働訴訟の場合には、「訴状」が届きます。

いずれも「申立ての趣旨」や「請求の趣旨」といった項目欄に、労働者側が、審判や裁判で求めたい結論が書いてあります。

ここは注意して読んでみてください。

「申立ての趣旨」や「請求の趣旨」の後には、「申立ての理由」、「請求の原因」として、なぜ、審判や裁判を求めるのかという理由が記載されています。

ここには、労働者側が求める内容の理由が記載されていますので、この理由について、「事実があるかないか」という点について着目して検討してみると良いでしょう。
また、労働者の提出した証拠がついている場合もあります。どのような証拠がついているのかもみてください。

5 どう対応するべき

では、労働審判や、労働訴訟が起こされた場合、どう対応するべきでしょうか。

まず、一番行ってはいけないこととしては、無視をすることです。
もし、無視をして裁判所へ行かない、何らの答弁(反論や理由も出さない)ということになりますと、労働者が求める結論がそのまま認められてしまう可能性があります。

絶対に放置をしてはいけません。

申立書や訴状には、事実ではないことが記載されていたり、会社側では把握しきれていないことがあるかもしれません。
事実ではないことが記載されていれば、きちんと反論をしなければなりませんし、会社側では知らないことについては、「知らない」ということも伝えなければなりません。

申立書や訴状の内容をよく読み、労働者が何を求めているのかを把握し、かつ、労働者の述べる事実があるかないかなどを検討してみてください。
そして、労働者の話と異なることが事実であるという場合には、会社側の述べる方が確からしいと思わせる証拠も用意してください。

労働者と話し合いをしてから訴訟になる場合、労働者側が「会社は何も対応をしなかった」と主張していても、会社側は労働者に対してきちんと説明をしたりしていることもあります。

説明をしてきたり、その経過の判断に誤りがないといえる場合には、それらの証拠も準備しておくと良いでしょう。

言い分がある。でもどんな主張をしたらよいのか、何が証拠として必要なのかわからないと言う場合もあると思います。
そのような場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。

また、労働者の主張する内容に誤りがなく、おそらく求める結論が認められてしまうだろうというような場合もあります。
そのような場合には、早期に解決を目指すということも、会社側の戦略としてはとり得る手段でもあります(もちろん、絶対にみとめられない、譲れない部分がある場合には、判決を求めていく必要はあります。)

どのような方法をとるべきか、検討していくことが必要になりますから、見通しなども含め専門家からの助言は必要になってくると思います。そのため、わからない場合には専門家に相談されることをお勧めします。

6 まとめ

以上のとおり、労働者との交渉(話し合い)がこじれてしまった場合や、いきなり訴状あるいは、申立書が届いたということがあるかもしれません。

労働者の言うことなんて認められないと安易に思わず、真摯に対応していくことが必要になります。

訴状や申立書が届いても、その内容が届いた時点で決まっているわけではありません。
その後の審理を通じて結論が決まるものです。そのため、適切な対応をすることが求められますし、その際には早期解決、会社の言い分など含めてどのような結論を求めていくべきかを考えていく必要があります。

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■この記事を監修した弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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