派遣労働者は、派遣元企業と雇用契約を締結するものの、派遣元企業とは別の企業である派遣先企業において労働に従事することになります。
雇用契約の相手方と労務提供の相手方が異なることで、派遣労働者はいずれの就業ルールに従うべきかという問題意識が生じます。
今回は労働者派遣と就業ルールについて解説をしていきます。

労働者派遣の大まかな整理

労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」と定義されます。

これは以下の3要素に分解されます。
① 派遣労働者は派遣元企業と雇用契約を締結する。
② 派遣労働者は派遣先企業の指揮命令下で労働に従事する。
③ 派遣労働者と派遣先企業の雇用契約の成立を約束するものではない。

以上を前提に、労働者派遣においては、各当事者間で、
① 派遣元企業と派遣労働者との間では雇用関係、
② 派遣元企業と派遣先企業との間では労働者派遣契約関係、
③ 派遣先企業と派遣労働者との間では指揮命令関係を前提とする派遣就業関係
という法律関係がそれぞれ形成されることになります。

就業ルールの設定

労働者が労働に従事する際の就業ルールは一般に就業規則という形で企業ごとに定められています。
就業規則は、企業が雇用契約を締結する複数の労働者について、基本的な就業ルールを画一的に適用するために用意されるルールブックのようなものです。
本来的には企業は個々の労働者との雇用契約において網羅的な労働条件を定めるべきですが、一定数以上の労働者を雇用する企業にとって、そのような方法を採用することは現実的ではないため、労働者の基本的な就業ルールについては就業規則に定めるとすることで個々の労働者との雇用契約の内容を補完することとしています。

派遣労働者は派遣元企業と派遣先企業のいずれの就業ルールに従うか

派遣労働者が雇用契約を締結しているのは派遣元企業ですが、派遣労働者が実際に労働に従事するのは派遣先企業の現場です。
現場において派遣労働者とともに労働に従事する派遣先企業の従業員は派遣先企業の就業ルールに従って労働に従事しています。
派遣労働者は派遣元企業と派遣先企業、いずれの就業ルールに従うべきでしょうか。

基本的な考え方

労働者の就業ルールは雇用契約に付随するものであるため、派遣労働者は、派遣元企業との雇用関係に準じて、派遣元企業の就業ルールの適用を受けるというのが基本的な考え方です。
そこから、派遣労働者は派遣先企業の就業ルールの適用を受けず、派遣先企業の現場においても派遣元企業の就業ルールに従って労働に従事することになります。
これを派遣先企業の立場から見ると、派遣先企業は派遣労働者を受け入れるにあたり自社の就業ルールを変更する必要はないということになりますが、就業ルールが異なることで派遣労働者の労働に支障が生じることのないような配慮は要求されます。
派遣元企業によっては基本的な就業ルールについては派遣先企業の就業ルールに準ずるとする定めを設けている場合もあり、その場合には、派遣元企業と派遣先企業の就業ルールの差異は実質的に存在しないことになります。

就業ルールの修正

上記の基本的な考え方によれば、現場において、派遣労働者のみが派遣元企業の就業ルールに従い、派遣先企業の他の従業員は派遣先企業の就業ルールに従って労働に従事することになるため、労働時間や休憩時間に差異が生じ、非効率な業務遂行となる場合があり得ます。

そのような状態は労働者派遣の各当事者にとって好ましいことではないため、派遣労働者と派遣先企業の他の従業員とのアンバランスを是正する目的で、派遣元企業と派遣先企業の間の労働者派遣契約及び派遣元と派遣労働者の間の雇用契約において就業ルールの適用について例外的な定めを設けることがあります。

具体的には、
派遣元企業と派遣先企業の間の労働者派遣契約において、派遣労働者については派遣先企業の就業ルールを適用するとの定めを設け、
派遣労働者と派遣元企業の間の雇用契約において、上記の就業ルールの適用について派遣労働者がそれに同意するとの定めを設けます。
それぞれの契約において就業ルールの適用に関する定めを設けることで、雇用契約の所在と就業ルールの適用の対応関係が修正されるため、派遣労働者が派遣先企業の就業ルールに従って、派遣先企業の他の従業員と足並みを揃えて労働に従事することが可能となります。

小括

以上のとおり、派遣労働者に対して、派遣元企業と派遣先企業のいずれの就業ルールが適用されるかは、派遣元企業の就業ルールの設定や労働者派遣契約及び派遣元企業との雇用契約の内容によって異なるということになります。

引き続き派遣元企業の就業ルールが適用となる事柄

派遣労働者が派遣先企業の就業ルールに従うべき場合があることは以上のとおりですが、それはあくまで現場で労働に従事する上で必要となる就業ルールに限られることが一般的であり、雇用契約の相手方である派遣元企業が対応すべき、賃金関係、雇用関係の終了(退職や解雇)、懲戒処分といった分野については、引き続き、派遣元企業の就業ルールの適用を受けることになります。

派遣労働者に対する就業ルールの明示

上記に関連して、派遣元企業は派遣労働者に対して、労働条件に加え、派遣労働に関する就業条件を明示しなければならないと定められています。
派遣元企業が派遣労働者に対して基本的な労働条件以外に明示すべき具体的な就業条件は以下のとおりです。
① 派遣労働者が従事する業務の内容
② 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
③ 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称、所在地その他派遣就業の場所及び組織単位
④ 派遣先のために、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項
⑤ 労働者派遣の期間及び派遣就業する日
⑥ 派遣就業の開始及び終了の時刻並びに休憩時間
⑦ 安全衛生に関する事項
⑧ 派遣労働者から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
⑨ 派遣労働者の新たな就業機会の確保、派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用負担に関する措置その他労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
⑩ 労働者派遣が紹介予定派遣に係るものである場合には、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項
⑪ 派遣労働者個人単位の期間制限に抵触する最初の日(期間制限のない労働者派遣に該当する場合にはその旨)
⑫ 派遣先の事業所単位の期間制限に抵触する最初の日(期間制限のない労働者派遣に該当する場合にはその旨)
⑬ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
⑭ 派遣先が上記⑤で定めた日以外の日に派遣就業をさせることができ、又は上記⑥に定めた派遣就業の開始から終了までの時間を延長することができる旨を労働者派遣契約に定めた場合に、当該派遣就業をさせることができる日又は当該延長することができる時間数
⑮ 派遣元事業主及び派遣先との間で、派遣先が当該派遣労働者に対し、派遣先が設置及び運営する物品販売所、病院、診療所、給食施設等の施設であって現に派遣先の労働者が通常利用しているものの利用、レクリエーション等の施設又は設備の利用、制服の貸与、教育訓練その他派遣労働者の福祉の増進のための便宜を供与する旨を定めた場合には、その便宜供与に関する事項
⑯ 派遣先が、労働者派遣の終了後、当該派遣に係る派遣労働者を雇用する場合、その雇用意志を事前に派遣元に示すこと、当該者が職業紹介を行うことが可能な場合は職業紹介により紹介手数料を支払うことその他の労働者の派遣終了後に労働者派遣契約の当事者間の紛争を防止するために講ずる措置
⑰ 規則27条の2第1項各号に掲げる健康保険被保険者資格取得届等の書類が行政機関に提出されていない場合は、その理由(規則26条の2)
⑱ 期間制限のない労働者派遣に関する事項

まとめ

今回は労働者派遣と就業ルールについて解説をしてきました。
基本的には、派遣先企業における効率的な業務遂行が可能となる形で、派遣労働者に対する就業ルールの適用関係の修正が行われるという認識ですが、個別具体的には、派遣元企業の就業ルールの設定、派遣元企業と派遣先企業の間の労働者派遣契約及び派遣元企業と派遣先労働者の間の雇用契約の内容等を調整する必要があります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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