最近では、就職したい会社の情報や、行きたい飲食店のお店の情報を、予めネットで検索し、いわゆる「口コミサイト」において、そのような会社やお店の口コミを見てから、実際に行くかどうか決めている人も多いと思います。
ただ、口コミは、誰でも匿名で書くことが可能であるため、当該会社やお店に個人的な不満を抱く人が、それらのネガティブな口コミを書き込むケースが増えています。
そこで、会社としては、そのようなネガティブな口コミが書かれてしまった場合にはどのような対策をとるべきか、以下解説していきたいと思います。
悪い口コミを書かれてしまった場合の対策
対策としては、以下の各方法が考えられます。
1 サイト運営者に対し、削除依頼(削除請求)する
まず一番に検討したい方法です。
具体的には、特定の口コミを削除するために、サイト上のウェブフォームを使って直接依頼します。
利用規約で禁止されている内容が投稿された場合、それを根拠に削除を請求することが可能です。
典型的なものとしては、以下の2つがあります。
①名誉毀損
「店員のAさんはBさんと不倫している」
「C会社はブラック企業で、社長のDはパワハラする上、残業代や給与を支払わない」
などです。
②プライバシー権の侵害
「社長のEさんの住所は、●●です」
「F社の総務部のGさんの電話番号は***です」
などです。
その他例えば、Googleマップに記載された口コミをについては、「Googleのポリシーに反する口コミのみ」削除対象です。Googleのポリシーに反する口コミとは、下記のようなものが明記されています。当該口コミが、規約違反になるかどうか確認しましょう。
・スパムと虚偽のコンテンツ
・関連性のないコンテンツ
・制限されているコンテンツ
・違法なコンテンツ
・テロリストのコンテンツ
・露骨な性的表現を含むコンテンツ
・不適切なコンテンツ
・危険なコンテンツおよび中傷的なコンテンツ
・なりすまし
・利害に関する問題
2 弁護士(法律事務所)へ相談する
口コミの削除依頼や刑事告訴を考える場合、当該口コミにどのような法的問題があるのか自身で判断するためには法律の知識が必要です。
そこで、インターネットに詳しい専門家に相談し、自分が悩んでいる口コミ投稿に関して、どのような対処法がもっとも適切か、相談することが大切です。
また、自分で口コミに対して返信をしたところ、ネットで晒され炎上し、状況が悪化することも考えられます。まずは弁護士への相談を検討してみてください。
詳しくは後述しますが、口コミサイトでネガティブな内容を記載された場合において、弁護士が介入したときは、以下の活動を行っていくことになります。
① 依頼者からの聴き取り
まずは、依頼者から被害(口コミサイトに書かれた口コミ内容)等について、詳細な聴き取りを行います。
あわせて、当該口コミの記載されているサイトなどに関する客観的資料(URLや誹謗中傷の内容を印刷したものなど)についても確認をさせていただきます。
② 削除請求
依頼者から聴き取り及び依頼者のご希望も踏まえ、法的に主張可能な方法を選択ないし構成していきます。
その上で、代理人弁護士として、通常はまずは当該誹謗中傷内容の削除を請求していくことになります。
③ 発信者情報開示請求
相手方に対して、損害賠償請求や刑事告訴を行う場合は、発信者を特定するため、発信者情報開示請求を行っていくことになります。
弁護士が代理人となって、それらの手続を行います。
3 積極的に返信する
ネガティブな口コミに対してきちんと返信することで、他のユーザーからは「誠意のある対応ができている会社・お店」だと評価してもらえる可能性があります。
ただし、返信には何点か注意点があります。
・感情的、乱暴、攻撃的な言葉遣いをしない
・訂正すべきことは簡潔に書き、長文で反論しない
・「口コミを削除しなければ、(相手の)個人情報を晒したり、訴える」など、脅迫する行為も当然控えるべきです。
4 口コミをそのままにする(静観する)
上記3とは、真逆の方法です。意外な対策と思われるかもしれませんが、そのままにして静観することも実は対策の一つです。
例えば、悪い口コミの内容が、明らかにおかしな(事実ではないと分かる)内容であったり、口コミを書いた人が、色々なところにクレームのような口コミを書いている人であれば、その口コミは事実ではない、信用性のない口コミであると分かるはずです。
そうだとすれば、あえてそのままにして静観したとしても、その口コミを信じて会社やお店の評判が下がるということもないだろうと考えられます。
むしろ、悪い口コミに対して、会社として反論を書いた場合には、その内容によっては、その反論を晒されて、さらに悪い口コミが書かれてしまう危険性もあります。
なお、口コミ投稿の件数が多ければ、1件や2件のネガティブな口コミは、大半の良い評価のなかに紛れてしまって、大勢には影響がないということもあり得ます。
そこで、ポジティブな口コミを集め、ネガティブな口コミを目立たなくさせるという方法もあります。
5 書き込みをした人を特定する(発信者情報開示請求)
口コミの書き込みをした人を特定し、損害賠償(慰謝料)請求したい場合は、弁護士へ相談した方が良いでしょう。
特定のためには「発信者情報開示」という手続きを行うことになります。
具体的には、投稿があったサイトと加害者が利用したプロバイダに対して、加害者の情報開示を求める法的手続が必要となります。そうして加害者を特定した後に、初めて加害者へ慰謝料を請求することができます。
これらの手続きには、法律とITの専門知識が不可欠です。個人での対応は難しいため、弁護士への依頼を検討されることを強くおすすめします。
具体的な流れは以下のとおりです。
①当該情報の発信者を調べる
↓
②発信者等に対して損害賠償請求を行う
① 当該情報の発信者を調べる
発信者に削除を求めたり、損害賠償請求などをしたりするためには、そもそも発信者が誰か特定しなければなりません。そこで、発信者情報開示請求権がプロバイダ責任制限法により認められています。
元々この開示請求は、発信者(投稿者)の特定のために2回の裁判手続が必要で、特定した後の損害賠償請求などの裁判手続も含めると、被害者が、加害者に損害賠償請求するためには、合計で3度の裁判手続が必要とされていました。そのため、非常に手間と時間を要する手続きとなっていました。
しかし、近年改正がされ、令和4年10月から、発信者情報の開示手続を、簡易かつ迅速に行うことができるように、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする、新たな裁判手続(非訟手続)が創設・施行されました。
流れとしては、以下のような形になりました。
1:裁判所に、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う
↓
2:提供命令の申立てを行い、コンテンツプロバイダが有するアクセスプロバイダの名称の提供を求める
↓
3:2で得たアクセスプロバイダの情報を基に、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う(これをコンテンツプロバイダへも通知する)
↓
4:開示命令の申立てが認められると、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダから情報(IPアドレス、発信者の氏名・住所など)が開示される
その他同時に
1・3の開示命令の申立てにともない、消去禁止命令の申立ても行う
(これによって、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダに対して発信者情報を消去することを禁止する命令を出してもらうことが可能になりました)
② 発信者等に対して損害賠償請求を行う
上記方法により得た加害者の情報をもとに、いよいよ直接損害賠償請求(慰謝料請求)を行っていくことになります。
具体的な方法としては、加害者に通知書を送って損害賠償請求を行う、それでも支払い等がされなければ訴訟を提起するという方法が考えられます。
(もちろん、いきなり訴訟提起でも問題はありません)
ただし、慰謝料を求める場合、相手方に資力が無いと、結果空振りに終わるというリスクもあります。また、慰謝料の請求が認められるとしても、最終的な解決に至るまでの期間が、1年~長期に及ぶケースがあります。自分自身の時間や金銭面の負担を考慮して慎重に検討する必要はあります。
6 口コミの内容について警察に相談
口コミが投稿されたことで、炎上し、結果会社に損失が生じたといえる場合には、その不利益について、警察に相談することも可能です。
口コミ内容によっては、威力業務妨害罪などの犯罪を構成することもあります。
口コミによる犯罪の特徴として、一度書き込みによって、会社やお店の信用が失われてしまうと、それが不特定多数に広まり、すぐに事態を収束させることが困難となります。その結果、会社やお店が経営上大きな打撃を受けることにつながる危険性が高いという点があります。
そのため、できる限り速やかな対応が必要になります。
7 その他の方法
①積極的にプレスリリース等の情報発信を行う
報道機関に向け、情報の提供・告知・発表を行うことです。口コミサイトにおいて、誹謗中傷が行われたことを広く知らしめることにより、さらなる誹謗中傷等を抑止する効果が考えられます。
②技術的な手段によって当該情報を見えにくくする(いわゆる逆SEO対策)
集客などの効果を狙って検索エンジンの検索結果で特定のウェブサイト(例えば自社のサイト)を上位に表示させるように工夫することを「SEO対策」といいます。「逆SEO対策」は、まさにその逆で、特定のサイトを検索エンジンの検索結果上の上位に表示させないようにする手段です。
ネガティブな情報が記載されているサイトがあったとしても、検索エンジンで上位に表示されなければ多くの人の目には触れない状態になりますので、インターネット上でネガティブ情報が発信された際の対処としては一定の効果があります。逆SEO対策を専門的に取り扱う企業も存在しているようです。
よくあるご質問
よくご相談を受ける質問を以下にまとめてみましたので、ご覧ください。
Q どのような書き込みが削除の対象となりますか?
A 権利(プライバシー、名誉、著作権など)侵害がされている場合に削除が可能となります。権利侵害の有無については個別具体的に検討する必要があります。
Q 誹謗中傷が事実でも解決できますか?
A 誹謗中傷の内容が事実でも、基本的には名誉毀損するケースの方が多いです。
事実だと名誉毀損にならないケースは、情報の公開に公益性が認められる場合です。例えば、政治家が汚職事件を起こしたという事実は、公益性が高いですから、名誉毀損には該当しないと判断されます。
Q 数年前の投稿でも依頼できますか?
A 削除依頼であれば対応は可能ですが、加害者の特定・慰謝料請求は厳しいと思います。
なぜかというと、加害者の特定に必要になるIPアドレス情報は、サイト側に3ヶ月ほどしか保管されていないためです。
Q 書き込み削除までにはどの程度の時間がかかりますか?
A 早い場合:1~2週間、一般的:1~2カ月、遅い場合:6ヶ月程度
Q 自分で書き込みを削除することはできますか?
A 削除依頼等はご自身で行うことも可能です。
ただ、誤った方法をとった場合、被害が拡大しないとも限りませんので、一度弁護士に相談することを検討されてもよいと思います。
弁護士介入のメリット
実効性のある対応が可能となる
適切に解決するためには、法的な主張を構成した上で進めていかなければなりません。
例えば、削除請求を行う場合も、単に誹謗中傷を理由に削除を求めるのではなく、当該サイトポリシーや利用規約を十分に確認・検討し、当該誹謗中傷がそれらのサイトポリシーや利用規約のどの条項に抵触し、削除が必要となるのか等について、論理的・説得的に構成して主張していくことになります。
実際の案件でも、当事者が直接削除請求をしても削除対応してくれなかったという事案で、その後弁護士が代理人として介入して改めて弁護士名で削除請求を行ったところ、すぐに削除に応じてもらえたという事案もありました。
このように削除請求ひとつをとってみても、有利に進めていくためには、そのような対応に精通している弁護士を介入させることも重要です。
調停や訴訟の手続もすべて一任できる
削除請求も発信者情報開示請求もその後の訴訟や刑事告訴については、もちろん弁護士に依頼することなく、自分で進めていくことも可能です。
しかし、実際のところ、例えば訴訟では、訴状の作成や証拠の提出など厳格なルールに従って行っていく必要がありますし、発信者情報開示請求も専門的知識が要求され、ご自身一人で対応していくことは相当に困難です。
何より、そのような開示請求や裁判に逐一対応しなければならず、また時間を割かれるという点でも負担が大きいです。
一方、弁護士に依頼すれば、専門的な作業や複雑な作業はすべて一任できますので、ご自身で時間や労力の負担をすることなく、安心して調停や訴訟を進めることができます。
ご相談 ご質問
一度ネットでの権利侵害がなされると、その情報が不特定多数人に一気に拡散する恐れもあるため、より早期の対応が必要です。お困りの際は、まずはご相談ください。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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