会社法人の資金繰りに窮し、債務整理方針として、破産申立てを弁護士に依頼します。
会社法人が、事業用の不動産を所有している場合には、その処理は、所有不動産を売却して、手続き資金などを用立てる必要がある場合であれば格別、基本的には、破産管財人に委ねることで特に問題はありません。
しかし、多くの会社法人は、その事業のために、土地や建物を賃借しています。
会社法人は、破産を申立てることになりますと、事業の継続をあきらめ、その事業を廃止することになりますから、無用な賃料負担の増大を防ぐ必要があります。
そのためには、できるだけ早期に事業用賃借物件の明渡しをすることになります。
このような事業用賃借不動産の処理は、破産管財手続きの予納金を決定する際の考慮される事情になります。
そして、破産管財人が、破産手続開始決定とともに選任され、その初動としての対応の手間など、破産手続き全体の進行に大きな影響を与えます。
そこで、会社法人の破産申立の相談を受けた弁護士は、会社法人の経営者の方から、その事業用賃借不動産の賃貸借の内容を聞き取り、処理の方針を確定することになります。
会社法人の経営者の方から相談を受けた弁護士の対応を時系列でご説明します。
1 事業用不動産賃貸借契約の処理の方針の決定について
(1)各賃貸借契約の確認
① 事情聴取
会社法人経営者の方から、賃借物件の所在、物件数、そして、賃貸借契約の内容を聞き取り、確認することになります。
② 賃貸借契約書の確認
賃貸借契約書を持参された場合、また、準備していただき、当該契約書の記載内容を確認します。
事業用不動産の賃貸借の連帯保証人の有無を確認します。
③ 連帯保証人の有無、連帯保証人の属性の確認
連帯保証人が、会社法人の代表者であるのか、その他の方(親族など)であるのかを確認します。
④ 賃貸借に付随する契約の有無
賃貸借契約に付随する契約(たとえば、テナントの賃貸借に付随して、倉庫の利用契約が付帯している場合など)・合意の有無などを、賃貸借契約書などから確認することから始まります。
(2)各賃借物件の現地確認
① 現地確認
会社法人経営者の方から、会社の事業の実態を把握しつつ、賃貸借の内容を聴取し、賃貸借契約書などの書面を確認後、できる限り、賃借現場(事業所)を訪問し、現地確認することになります。
ここでは、明渡費用や原状回復費用の見積もりを得るため、専門業者の同行をお願いしています。
② 現場確認する事項
現地事業所で確認するのは、次のようなものです。
在庫品、什器備品、資材・原料、通信機器、パソコン、複合機やフォークリフトなどのリース物件の有無、処理の可能性を検討しなければならない動産類の有無、返還しなければならない第三者所有物品の有無、従業員の私物の有無などを、現地調査の上、一覧表(リスト)を作成しながら、確認します。
③ 管財人への引継ぎ資料の有無、確認、保管
その確認の際に、管財人に引き渡す、引き継ぐべき資料の所在を把握し、また、賃借物件明渡の際の、問題となる事象の有無を確認し、現実の明渡作業をイメージすることになります。
(3)破産申立前の時点において、申立代理人において明渡しを実現するか否かの判断
申立代理人において、賃借物件の明渡を行っておくべきか、破産管財人にゆだねるかを検討することになります。
① 破産申立手続費用の工面ができるか。
依頼を受けた申立代理人弁護士としては、会社法人の破産申立手続費用を工面できる状況にあるか否かが気になります。これを検討することになります。
破産申立の手続費用とは、裁判所への予納金(管財予納金の負担を賄えるか)、申立代理人の報酬(弁護士費用)、実費、従業員への解雇予告手当などをいいます。
これらを支払うに足りる状況が整っているか、早晩入金される売掛金で賄うことが望めるかです。
② 破産申立手続費用を工面できる場合
このような工面ができる場合には、申立代理人のもとにおいて、賃借物件の明渡を行う必要よりも、早期に破産申立てを行い、すみやかに、その後の手続を破産管財人にゆだねることが可能であり、望ましいといえます。
破産手続の申立てを受けた破産手続の裁判所(破産裁判所)においては、業務用賃借不動産の明渡の完了の有無が、予納金の金額に影響を与える重要な要素となっています。
③ 破産手続費用をすぐには工面できない場合(破産手続費用の捻出に時間を要する場合)
破産申立てをする会社法人の財産状況、会社法人の代表者の財産状況に照らしても、上記の破産申立の手続費用を賄うほどの、財政的(資金的)余裕がない場合には、破産申立てをするために、申立代理人において、賃借物件を明け渡す必要が生じます。
④ 予納金の低額化を目指して
予納金が高額となり、準備できない場合に、賃借物件の明渡を完了することで、裁判所への予納金を低額にすることが望めます。
⑤ 敷金・保証金の返還を受け、申立手続費用に充てるため
賃貸人に預けた敷金・保証金が相当額に上る場合には、賃借人の未払い賃料、明渡完了までの賃料負担、原状回復義務履行の費用の金額などを総合考慮すると、敷金・保証金の返還を受けることが望める場合には、その返還を受けるために、明渡を実現し、その返還を受ければ、申立手続費用に充てることも可能となります。
⑥ 原状回復請求権の財産債権となる余地を排除するため
申立代理人が賃貸人と交渉して、早期の明渡を実現できれば、賃料債務又は賃料相当損害金の増大を回避することができます。
原状回復請求権が財団債権となって、破産財団を圧迫するということも回避できることになります。
これにより、将来の破産財団の負担の軽減を図り、結果、他の債権者への配当財団の形成し資することになります。
2 会社法人の事業用賃借不動産の明渡の実現の現実的問題
(1) 現実
そもそも、破産申立手続費用が十分にある破産申立て予定の会社法人はそれほどありません。
むしろ、資金繰りにひっ迫し、破産申立手続費用に余裕のない会社法人がほとんどというのが実情です。
(2) 法人破産における申立代理人と破産管財人の役割分担による、破産法の目的の実現
法人破産の申立代理人は、できる限り会社法人の財産の減少を回避・防止して、破産手続開始決定を受け、破産管財人にその財産を引き継ぎたいと考えています。
そのために、破産する会社法人の代表者の理解・協力が不可欠となります。
こうして、申立人および申立代理人弁護士と、破産管財人の協働が可能となり、その連携の上で、破産債権者への限られた財産による配当と、破産手続きを通じて、破産債権者に対して、破産に至った事情などの「情報」を配当を行い、債権者の皆様に対する、会社法人経営者としての最後の経営責任の証とも言える、円滑な貸倒処理による税法上のメリットを享受差し上げることになります。
(3) 法人破産におけるさいたま地方裁判所管内における最低予納金20万円の意味合い
従前、法人破産の予納金は、100万円以上が求められていました。個人破産の場合でも、50万円以上でした。
しかし、低廉な予納金で、破産手続による会社法人の破産手続による清算を行い、債権者に対して、貸倒処理の経理処理という税法上のメリットを享受させるために、破産裁判所の主塔のもと、破産手続の利用が促進されることになりました。
(4) 少額の予納金による管財事件によることの調整
少額の予納金による、管財事件によることの事件処理の調整が図られることになりました。
① 事業用賃借物件の明渡の完了
資金繰りに窮し、経済的窮状に陥った会社法人においては、破産財団となる財産が少ないのが通常です。
それにもかかわらず、明渡未了の事業用賃借物件がある場合、その処理を破産管財人にゆだねるのは、引き継がれる会社財産が乏しいにもかかわらず、破産管財人にはその処理のための活動資金すらないことがほとんどとなります。
そこで、破産申立ての際には、「事業用の賃借物件の明渡は終えておいてもらいたい」という要請との調整を図っています。
いいかえれば、破産管財人に引き継がれる財産が乏しい場合には、業務用賃借不動産の明渡が完了しない場合には、破産申立てを受け付けてもらえても、破産管財人の開始決定についての賛同の意見も出ないため、破産裁判所は破産手続開始決定をなさないということになります。
事実、そのような運用がなされているというのが、率直な感想です。
② 申立代理人による追加報告、資料提供
そして、会社法人から引き継がれる会社財産が乏しいにもかかわらず、しかも、破産申立書や引継ぎ資料が杜撰であるにもかかわらず、最低予納金20万円で、破産した法人の管理処分権を引き受ける破産管財人が、その後の調査義務を行うことに委ねるとするのは、破産管財人に酷であるといえます。
そこで、普通の破産申立てのレベル(裁判所、管財人(候補者)が望むレベル)まで行ってもらうこととして、管財人の調査を軽減することで対応することになっています。
(5) 申立代理人と破産管財人の協働
破産規則26条の規定があります。
(進行協議等) 第二十六条 裁判所と破産管財人は、破産手続の円滑な進行を図るために必要があるときは、破産財団に属する財産の管理及び処分の方針その他破産手続の進行に関し必要な事項についての協議を行うものとする。
2 破産管財人は、破産手続開始の申立てをした者に対し、破産債権及び破産財団に属する財 産の状況に関する資料の提出又は情報の提供その他の破産手続の円滑な進行のために必要な協力を求めることができる。
(6) 産業廃棄物の処理など
そして、事業用賃借物件の明渡と同様に、産業廃棄物の処理などについても、申立人側での対応しておくことが基本的に望ましいとされています。
事実、私が経験した法人破産申立の件でも、次のように対応した事例があります。
廃油処理業者の借地の土壌汚染改良費用負担捻出ができなかった事例です。
廃油処理業者から法人破産申立の相談を受けました。
資金繰りに窮した状態で相談に見えました。
事業用に借りた土地で廃油処理を行っていたそうですが、その廃油による土壌汚染があるとのことで、当該借地を明け渡し、原状回復として、土壌汚染の改良をしなければなりません。
当該事案の破産申立に当たり、どの程度の予納金が好ましいか裁判所に問合せをしましたところ、管財人にその業務を委ねるのであれば、土壌汚染改良費用の工面はお願いしたいとのことでした。
これを相談者である当該会社経営者に伝えたところ、到底そのような資金は用立てられないこと、また、会社ないし代表者の個人資産でも到底賄える費用を用立てる目途がすぐには立たないとして、正式依頼を受けるに至りませんでした。
(7) 申立代理人側で、事業用賃借物件の明渡をすることが問題となった事例
① 家屋解体業者の廃材保管借地の明渡を破産手続開始決定前に申立人側で行った事例
家屋解体業を営む会社法人の破産申立に当たり、同社が賃借していた借地は、解体廃材の保管場所となっていました。
会社法人の財政状況ではその処理費用が捻出できませんでした。
しかし、同賃貸借の連帯保証人である会社代表者所有の不動産を売却処分してねん出した費用で、その処理費用を賄うことができました。
産業廃棄物処理を正規の手続で行いました(当然ながら、関連するマニュフェストを管財人に引き継ぎました)が、建築廃材である同廃棄物からアスベストが検出されましたが、これも適切に処理してもらい、代表者の不動産処分の代金を当事務所が預かり保管しておりましたので、その請求については預かり金から支払いました。
破産管財人からは、その対応について高評価を得ました。
② ドライクリーニング業者の法人破産による、クリーニング工場の明渡と土壌汚染改良について、地主賃貸人と同工場内クリーニング機器什器一切の明渡義務を免除する示談を取り交わした事例
ドライクリーニング業者の法人破産においては、今般の、新型コロナウィルス禍により、在宅でのテレワークが進み、衣類のクリーニング取次店への持ち込みが極端に減り、事業の採算が取れず、廃業を決意した会社でした。
しかし、賃借したクリーニング工場の敷地には、人体に危険性のあるクリーニング溶剤の使用していたい時代の、土壌汚染がありました。
廃業の数年前に、自社所有地で行っていたクリーニング工場跡地の売却に当たり、土壌改良費用の調査費用、その改良費用の負担は5000万円前後であり、最後に残ったクリーニング工場の明渡でも同程度の費用負担が見込まれました。
地主賃貸人の代理人弁護士と協議し、地主賃貸人は、本クリーニング工場内の機器・什器を引き取り、クリーニング工場の居抜きとして、同業他社に賃貸する方向を模索したいとのことで、建物明渡の費用見積もり(約1000万円)と、土壌改良費用(見積未取得)は上記と同程度の費用が掛かること、原状回復費用額とすることの確認をする合意書を取りそろえ、法人破産の申立てを行い、破産手続開始決定を得ました。
管財人・破産裁判所からは、同工場の明渡に関する処理は特に意見は出ませんでした。
当初は、建物明渡義務履行の費用として、会社代表者の自己資金を工面してもらっていましたが、同工場の明渡義務の免除を受けたため、それを費消せずに、法人代表者の破産手続費用に充て、そのうちから、相当額が破産債権者に配当されました。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。