マンションの管理費等の滞納問題など、弁護士に依頼して裁判で解決を図ることもあるでしょう。その場合、滞納者に弁護士費用を負担させることはできるでしょうか。今回は、どのような場合であれば滞納者に弁護士費用を請求できるのか、解説していきます。

管理費等の滞納者に、裁判でかかった弁護士費用を請求できるか

弁護士費用の扱い

管理費等の滞納が生じたとき、まずはマンション管理会社から当該滞納者に対して督促をしてもらうことが考えられますが、それでも管理費等を支払ってもらえないのであれば、究極的には裁判で管理組合の請求権を認めてもらい、その判決に基づいて差押等の法的措置をする必要が生じることもあります。

裁判ともなれば、管理組合の理事長など役員個人で訴訟追行の対応するということは難しく、弁護士に依頼をするというのが一般的でしょう。
依頼する弁護士については、管理を委託しているマンション管理会社などから紹介を受けることもありますが、紹介を受けた弁護士といえども無償で依頼できるわけではありません。

裁判では、敗訴した当事者に「訴訟費用を負担せよ」という判断がされるのが一般的ですが、弁護士費用はこの「訴訟費用」には入らないのが原則となっています。

つまり、仮に裁判で原告の請求が100%認められたとしても、その原告から負けた被告に対し訴訟費用として弁護士費用の支払請求をすることはできないのです。

「訴訟費用」としてだけではなく、判例では、「●円を支払う」という金銭債務を負っている債務者が、この約束を守らなかったとき、債権者が債務者に対し「債務不履行の損害賠償請求」として弁護士費用の支払いを請求することもできない、としています。

管理費等の滞納者の場合

原則について

管理費や修繕積立金などの管理規約に基づく金銭債務であっても、上記の原則は当てはまり、滞納者に対して裁判で弁護士費用を支払ってもらうことはできません。

弁護士費用を滞納者に負担させられる例外について

後述のとおり、国土交通省が定めるマンション標準管理規約では、管理費等の不払があった場合に、「違約金としての弁護士費用」をマンション管理組合が滞納者に対し請求することができる旨を定めています。

訴訟費用に弁護士費用を含めて債務者(被告)に負担させたり、債務不履行に基づく損害賠償として弁護士費用を請求することはできないのですが、ここにいう「違約金としての弁護士費用」というのは、「制裁金としての性格」を有するものとされており、「管理規約であらかじめ弁護士費用等違約金の内容を明らかにしておくことにより、訴訟になったときにその費用を確実に相手方に請求できるようにするためのもの」となっています。

このような「違約金としての弁護士費用」の定めは、裁判例上も「有効」であるとされています。

請求できる弁護士費用とは

実際に支出した弁護士費用か、裁判所が相当と認定した範囲での弁護士費用か

管理費等の額と異なり、裁判になってかかる弁護士費用というのは、必ずしもあらかじめ決まっているものではありませんし、依頼する弁護士や事件の内容によっても発生する額は変わってきます。

そうすると、仮に管理規約上、「違約金としての弁護士費用を滞納者に請求することができる」という旨の定めがあったとしても、その「弁護士費用」は一律には決まっていないということになります。

そこで、管理規約の定めに基づく弁護士費用の請求として、「実際に支出した弁護士費用」の請求が認められるか、それとも「裁判所が相当と認定した額」の請求が認められるのかが問題となるのです。

裁判例における判断

平成26年4月16日に東京高等裁判所で出された判決では、以下のように「違約金としての弁護士費用」についての考えを示し、「実費相当額の支払い」を認めました。

違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。
しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約…により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される…
これに対して、控訴人(※滞納者)は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない。
以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円(※訴訟追行に要した実際にかかった弁護士費用額)の支払義務を負うが、その額が不合理であるとは解されない。

…控訴人は、被控訴人に対し、…①未払管理費等511万9510円、②上記511万9510円に対する平成26年1月31日までの確定遅延損害金170万7154円、③上記511万9510円に対する同年2月1日から支払済みまで本件管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払義務がある。

以上のとおり、東京高等裁判所は、管理規約において弁護士費用を違約金として定めている場合には、管理費が負担した弁護士費用を管理規約の違反者(管理費等の未納者)に対し請求することができると判断したのです。

裁判例を踏まえた注意すべきポイント

違約金としての弁護士費用の定め方

以上のとおり、管理規約に定めがあれば、管理費等の滞納者に、実際に管理組合が負担せざるを得なかった弁護士費用と同額の支払いを請求できるとしているのが裁判例です。

しかし、「弁護士費用」といっても、この裁判例の中で争われたように「実際に支出した弁護士費用」と「裁判所が相当と認定した額」の2つが考えられますので、どちらを当該違約金としての「弁護士費用」といえるのかは問題となりうるところです。

この点、裁判所は
「その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。」
としています。
裁判所の指摘のとおり、管理規約にきちんと弁護士費用を含めた請求ができるという条項があるかどうか、そしてその弁護士費用が「管理組合が実際に支出した弁護士費用」であることが明確になっているかを確認する必要があります。

標準管理規約では,第60条2項にて
組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理
組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金として
の弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対し
て請求することができる。
としていますので、これに倣って管理規約を作成しているマンション管理組合においては、弁護士費用の定めがあるというところが多いでしょう。

管理規約は、区分所有者、その包括承継人・特定承継人、さらには建物等の使用方法に関する事項については専有部分の占有者にも効力が及ぶものです。たとえ裁判等で未納状態や違法状態が解消できたとしても、弁護士費用が莫大にかかってしまってはマンション管理に支障が出てしまいますので、管理規約に明確な負担規定があることは、非常に重要なことであるといえます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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