会社法人が、銀行・信用金庫などの金融機関から運転資金などの融資を受ける際に、代表者や取締役が、その借入金の債務について、連帯保証を求められることがあります。
中小企業では、そのような事態がほとんどであるという認識です。
保証人とは、主債務者である会社法人が、その債務の履行をしない場合に、主債務者に代わってその債務の履行をしなければならい責任(保証責任)を負っています。
金融機関からの会社法人の借入についての代表者などの保証は、主債務者と連帯してその責任を負うとする、連帯保証人(連帯保証契約)となっています。
単純な保証人と異なる、この連帯保証人に対しては、債権者は、主債務者に請求する前に、連帯保証人に請求することができます。
会社法人が破産した場合、その会社法人の債務の連帯保証人は、その会社法人に代わって保証債務を支払うことになります。
会社法人が破産すると、会社法人はその破産手続によって、その主債務は破産手続で処理されますので、会社法人の債務自体は消滅することになりますが、会社法人の債務と、連帯保証人の連帯保証債務は、別の債権債務関係として扱われることになりますので、保証債務自体は消滅しません。
連帯保証人が自らの財産や親族の援助を受けるなどして、弁済することができれば、もちろん問題はありません。
しかし、支払いが困難である場合には、連帯保証人の方も、何らかの債務整理をしなければならないのが通常です。
住宅ローン債務を負う会社法人の経営者の方が、経営する会社の債務の連帯保証人となっている場合には、住宅ローン督促付き個人再生手続きの利用を考えますし、会社法人の経営者の方が、その借入金の連帯保証債務のみならず、所有する住宅不動産に、その債務を担保するために抵当権を設定するなど物上保証人人もなっている場合には、会社法人の経営者の方も、会社法人と同じく、経済的な再出発のために、自己破産の手続きを選択せざるを得ないのが一般です。
連帯保証人の事情によっては、破産手続をしている会社法人の連帯債務を弁済することがかなう場合があります。
連帯保証債務を弁済した事例がありましたので、その事例をもとに、破産した会社法人の破産手続への関与についてご説明します。

1 会社法人経営者の連帯保証

会社法人の経営者は、金融機関からの借入が複数ありましたが、そのいずれについても、連帯保証していました。
さらに、それを担保するために、その数口の借入金のうち、一部について、団体信用生命保険にも加入し、仮に、連帯保証人である代表者が死亡するに至った場合には、その保険金が借入金債務に充当される契約も締結していました。
会社経営者の配偶者は、その会社経営の内容は詳しくは知りませんでしたが、取締役として、経営陣に名を連ねていました。

 

2 会社代表者の急逝による、会社事業の途絶回避への対応・検討

(1)後継の代表取締役への就任

会社代表者の罹患していた病気の悪化により、代表者が急逝しました。
当該会社法人の定款を確認すると、残っている取締役が代表者となるとされており、会社法人の従業員の給与支払い、取引先の支払いのために、事業の詳細を知らない配偶者でしたが、この緊急事態に対処するために、代表者に就任しました。
しかし、営業から労務管理まで一切を、急逝した代表者が執り行っていたことから、新しく会社代表者に就任した配偶者は、その会社を継続し、続行することを躊躇せざるをえませんでした。

(2)会社代表者変更に伴う、会社法人の借入金の連帯保証債務の承継

会社法人の支払資金の払い出しのために、会社法人が借り入れをしている金融機関に出向いたところ、金融機関から、新代表者となった配偶者に対して、旧代表者が就任していた連帯保証人に新代表者が就任するよう、すなわち、連帯保証債務を承継するよう求められました。
遺族となった配偶者は、自身名義の住宅を保有し、その住宅ローン債務を負っていましたが、これまで従事していた、この会社法人以外の仕事の給与で十分住宅ローン返済が可能でありましたので、この住宅を維持するためにも、その連帯保証債務額の総額が不明である、保証債務を承継することを躊躇せざるを得ませんでした。

(3)会社の連帯保証債務の総額の確認
定款の規定により、新代表者に就任し、従業員や取引先への当座の支払資金の払い出しの資格は得たものの、金融機関からの借入金の連帯保証債務額がどれくらいの額になるのか直ちにはわかりませんでした。
そこで、場合によっては、配偶者の相続も放棄して、配偶者自身の生活を守らなければならないかもしれないとして、家庭裁判所に、相続放棄などの熟慮期間を伸長する申立てをして、その審判を得、調査の時間確保しました。

(4)調査・確認した事項

連帯保証債務は、主債務者である会社法人とともに負わざるを得ませんが、会社法人の財産から主債務をいくらぐらい賄えるかを確認する必要がありました。
そこで、下記を調査しました。

① 保有不動産である会社事務所・工場(土地・建物)の評価額

不動産業者の売却見込み額の査定を取りました。念のために、複数の不動産業者から取り寄せます。

② 団体信用保険による弁済の可能性如何、その実行後の残高

金融機関の借入のうち数口については、団体信用生命保険があり、従前の代表者の死亡により、その保険金を借入金の返済に充てることができます。
それにより、どの程度の連帯債務が圧縮されるかを確認しました。

③ 預貯金残高、売掛金の入金スケジュール確認

事業廃止前の会社法人の預貯金は日々変動しますが、今後の入金予定の売掛金を確認しました。
その売掛金の入金スケジュールと、返済原資の調達時期を見込みました。

(5)判明した事情

調査の結果、次の事情が判明しました。

① 自社事務所・工場の建物は法令違反の建築物であること

前の所有者が建築し、この会社法人に売却し、引き渡しを受けたものですが、この建物自体が法令違反の建物であり、購入当時の金額(取得原価)以上での売却は到底望めず、決算書の記載された簿価よりも大幅に低額となるであろうことと、立地などの状況から、売却予定時期が見込めず、早期の現金化を断念せざるを得ませんでした。

② 売掛金の入金スケジュール

代表者急逝後、新規の業務を受注していないため、売掛金の入金は数カ月で途絶えることも判明しました。
預貯金残高については各金融機関通帳を記帳し、常に残高を確認し、手持ち資金の使途と照らし合わせて、常に最新の情報としました。

③ 団体信用生命保険の引受会社からの調査

代表者が急逝したため、保険契約の時期如何により、保険会社から、代表者の告知義務違反を問われる保険がありました。
これには、調査の結果次第での保険金支払いなるため、万が一、保険金が支払われない事態となった場合も想定することになりました。

3 新代表者の決断

(1)団体信用生命保険金の支払

懸念していた告知義務違反を調査していた保険会社が、その違反はないとし、保険金の支払いがなされました。
借入のある金融機関の借入金債務は大幅に圧縮されました。

(2)相続の承認、会社法人の破産申立

不動産の売却結果次第で会社の支払い原資の多寡が決定しますが、配偶者相続人でもある、新代表取締役は、まず、相続放棄に手続きを取らず、相続を承認し、本会社法人については、破産申立をして、破産管財人にその後の処理を委ねることとしました。
従業員関係を解雇により終了させ、解雇予告手当、賃金を全額支払いました。
また、ほとんどの従業員を元請先が改めて雇用してくださいましたので、その点でも安心しました。

(3)税務署対応

また、会社法人の破産申立を選択したのは、税金への対応はかなわないとした点も大きいようでした。
なお、この時点でも、新代表者に就任した配偶者相続人は、金融機関からの連帯保証人への就任要請には応じていませんでした。

4 破産手続開始決定、会社法人の債権者の破産債権届出、その後の連帯保証人への支払い請求

(1)破産債権届出

破産手続開始決定がなされた会社法人については、配当が見込まれる事案でした。
破産債権者は、破産債権を届出て、破産手続において破産債権者として処遇されるよう必要があります。
金融機関はその点抜かりありません。
当然ながら、適式に、破産債権の届け出をなしました。

(2)金融機関からの、連帯保証債務の履行請求

① 第一順位相続人である子ら全員の相続放棄

会社法人の新代表者は、会社法人の連帯保証人への就任をしていませんでした。
会社法人の、急逝した代表者には、第1順位の相続人として、二人の子がありましたが、その子供たちは全員、管轄の家庭裁判所で相続放棄をしたことは知っていました。
第二順位の相続人としては、この被相続人の直系尊属の方となりますが、高齢の実母の方がありましたが、会社法人の新代表者である配偶者相続人からは、被相続人の実母の方には特に連絡対応はしていませんでした。

② 配偶者相続人である新代表への相続した連帯保証債務全額の支払い請求

相続発生から1年を過ぎたころに、会社法人の借入金融機関(なおこれは、新代表者の住宅ローン借入金融機関でもあります)から、連絡がありました。その内容は、連帯保証債務全額(遅延損害金も含む)を配偶者相続人が支払ってほしいとするものでした。
金融機関で示されたのは、本相続の相続関係図、その戸籍関係全部、配偶者を除く第一順位の相続人から第三順位の相続人まで全員の、相続放棄の申述受理を証明する書類一式でした。

③ 遅延損害金(年利18%を超える)の拡大の懸念

破産管財人によると、法令違反のある不動産についても相当額での売却見込みも立ち、引き継いだ預貯金払戻し現金、破産会社の什器備品の売却金などから、相当額の配当原資(配当財団)が見込まれ、相当高率の配当が見込まれるとのことでした。
本金融機関は、連帯保証債務承継人の配偶者相続人(新代表者)に支払い請求をする前に、管財人に連絡を入れ、高率が確実視される配当を受ける前に、連帯保証債務全額の支払いを求めることになったと予告があったことも知りました。
この支払い請求を受けた配偶者相続人は、連帯保証債務総額程度であれば、自己資金で完済できること、早期の支払いによって、遅延損害金の拡大の負担を回避できること、他方、この金融機関の破産債権者の地位を承継することになることから、相当効率の配当が見込まれることから、実際の自己負担額はそれほどでもないと見込みました。
そこで、すみやかに、連帯保証債務を完済する途を選択しました。

5 保証債務弁済後の手続

(1)保証人の代位弁済

この会社法人の新代表者は、従前の代表者の配偶者相続人でもあります。
配偶者相続人として、他の相続人が全員相続放棄をしたため、連帯保証債務を全部(100%)承継しました。
保証人は、主債務者に代わって弁済をすることができます(代位弁済)。
会社法人の破産手続開始決定までに、全額の代位弁済が完了している場合には、保証人は、求償権を有していますので、全額弁済した保証人が破産債権として届出ます。
この保証人は、代位弁済により、金融機関の会社法人への貸付債権という原債権を代位弁済により取得しますが、求償権、原債権のいずれを届けてもよいことになっています。

(2)原債権者である金融機関の破産債権届出後の、保証人による代位弁済

この場合の、破産債権届出事項の変更については、大きく、二つの方法があります。

① 原債権についての原債権者金融機関と保証人連名での承継届出の提出による方法

この方法による場合、原債権者が届け出た原債権の当事者が変更されたものとして、保証人の届出債権として、破産管財人は認否対象とすることになります。
なお、連帯保証人が、将来の求償権として、破産債権届出をしている場合において、原債権者である金融機関が原債権の債権届出を取り下げた場合には、破産管財人が、保証人に対し、届出済みの債権の種類を将来の求償権から、求償権に変更を促した上で、保証人の債権届出を促します。

② 保証人による届出名義の変更の届出

原債権者である金融機関が連帯保証人から全額の弁済を受けた場合は、他の破産債権者の利益を害しませんので、その変更についての届出の時期の制限はないとされています(破産規則33条1項)。
また、他の破産債権者を害しない変更については、破産管財人も、その変更を生じたことを知った場合には、裁判所に対し、証拠書類を添付して、その変更の内容及び原因を届け出る義務を負うとされます(破産規則33条3項)。
しかし、破産債権者の変更(本件では、原債権者から保証人への変更)も、破産債権額を変更することはありませんので、他の債権者の利益を変更しない変更の場合と考えられますが、この場合については、破産法113条1項、破産規則35条、32条3項等の規定があるため、破産規則33条の適用はないと解されています。
よって、現債権者が届け出た破産債権の名義を、当該破産債権(金融機関の原債権)を取得した保証人は、届出名義の変更を受けなければなりません。
そのため、この名義変更の届出をすることになります。

(3) 届出事項

届出事項は次のとおりです。なお、破産規則1条1項により、届出は書面で行わなければなりません。

① 変更を受けようとする債権者・代理人の氏名住所(郵便番号、電場番号、ファックス番号など)

② 通知又は期日の呼び出しを受ける場所

③ 取得した権利、取得の日、取得の原因

④ 少額配当金受領の意思があるときにはその旨

⑤ 証拠書類の添付

この届出には、破産債権の全部または一部を取得したこと及び対抗要件の具備が必要な場合にはそれを具備したことを証明する証拠書類を添付する必要があります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
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