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こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

問題行動を起こした社員がいた場合、会社としては、当該社員を懲戒解雇しようと考えることがあると思います。

もっとも、懲戒解雇は、労働者にとって非常に重たい処分といえます。

したがって、その社員が懲戒処分の有効性を争って、後々、労働審判や裁判を起こしてくるおそれがあるということは、会社側としても認識しておく必要があるでしょう。

この記事では、社員を懲戒解雇した場合に、会社側に生じうるデメリットを説明しつつ、そのようなデメリットを回避する方法について、わかりやすく解説していきます。

懲戒解雇とは

そもそも、懲戒には、さまざまな種類があり、重たい順番に、懲戒解雇、諭旨解雇・諭旨退職、降格、出勤停止、減給、戒告などと、制度化されているのが一般的です。

懲戒が有効となるためには、①懲戒事由に該当すること、及び、②当該懲戒処分の内容が相当であることが必要とされています。

懲戒解雇は、懲戒処分の中でも、一番重い処分であり、会社からの一方的な通知により雇用関係を終了させるという、非常に強力な効力を有します。

他方で、懲戒解雇された側の社員からしてみると、その会社での職を失ってしまうだけでなく、下記のような制約を受けることになってしまいます。

・解雇予告手当が支払われないことがある。
・退職金が減額又は不支給となるおそれがある。
・転職活動において、不利に扱われることがある。

懲戒解雇をされた社員は、上記のような不利益を受けることとなるため、不当な解雇であると主張して訴訟を起こしたり、労働審判を起こしたりする可能性が高いといえます。

懲戒解雇が無効とされたケース

会社としては、問題を起こした社員に対して、懲戒解雇という厳しい処分を与えることは、妥当であると考えることもあると思います。

もっとも、懲戒解雇が与える不利益の程度が大きいことから、裁判・労働審判となった場合には、懲戒解雇が無効であると判断されることも多いのが現状です。

懲戒解雇が無効とされるのは、当該懲戒解雇が「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当である」と認められない場合です(労働契約法15条、16条)。

裁判において、この判断は、かなり厳格になされております。

たとえば、①当該社員のパワハラ行為により、部下が退職してしまったり、精神疾患に罹患してしまったという事例(国立大学群馬大学事件)や、②当該社員が女性従業員の肩を抱いたり、わいせつなセクハラ発言をした事例(椿本マシナリー懲戒解雇事件)など、処分対象者が相当に悪質な行為を行っていた事例においても、懲戒解雇は、処分として重きに失することなどを理由に、「無効」と判断されています。

懲戒解雇の有効性が厳格に判断されることにより、懲戒解雇を選択する会社側にとっては、下記のようなデメリットが生じ得ます。

懲戒解雇をすることのデメリット

⑴ 敗訴した場合の不利益

懲戒解雇が無効であると判断された場合には、一般的に、会社は、当該社員に対して多額の金銭の支払いと、雇用の継続の両方を命じられることとなります。

懲戒解雇が無効であると判断されると、解雇がなかったことになるため、会社は、懲戒解雇から復職までの間の給与相当額を遡って支払わなければなりません(バックペイ)。

懲戒の有効性を争う訴訟の場合、訴訟が長期化することも多く、中小企業の事例でも、バックペイの支払い金額が1000万円を超えることも珍しくありません。

⑵ 裁判対応に労力がかかる

懲戒解雇された当該社員から労働審判や裁判を起こされた場合、通常、会社は弁護士に裁判対応を依頼すると思います。

すなわち、会社としても、弁護士からの求めに応じて資料を準備したり、事情聴取を受けなければならないため、裁判対応に大きな労力を割かなければならないということです。

また、訴訟においては、上司や同僚が裁判所で証言をしなければならない場合もあり、証言をするということで、心理的なプレッシャーを受ける方もいらっしゃいます。

デメリットを避けるためには

以上のようなデメリットを避けるためには、一般的に、下記のような対策を行う必要があると考えられます。

・懲戒事由が存在することの証拠を残しておく
・就業規則で決まっている手続を遵守する
・労働者に弁明の機会を与える

そもそも、懲戒事由にあたらないにもかかわらず、懲戒解雇をしてしまっている事例も散見されます。

したがって、当該社員が問題行動を起こしているという証拠を確保しておくことが重要と言えます。

また、懲戒処分を行う場合については、就業規則の中で、懲戒委員会による審議を行うことや、聴聞の手続を行うこととすると定められていることが一般的です。

懲戒解雇は、懲戒処分の中で一番重たい処分であるため、手続きに則って、懲戒解雇より軽い処分が妥当でないかを、十分に検討する必要があると言えます。

また、一方当事者の話だけから判断するのではなく、問題行動を起こしたとされる社員の言い分を聞く機会を設けることも重要といえます。

まとめ

懲戒解雇をする場合に生じうるデメリットを解説していきました。

懲戒解雇が妥当であると会社が判断したとしても、後々の裁判などで争われると、解雇が無効と判断されることも大いに考えられます。

問題行動を起こした社員について、懲戒解雇をすべきか、または、懲戒解雇が妥当であるかを迷った際には、専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 渡邉 千晃

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