法人の代表者からの法人破産の相談の際に、担当弁護士は、会社の業種・業態と、債務の内訳などを聴取します。その際に、次のような相談を受けることがあります。

(1)税務申告をしたことがない会社法人の代表者からの相談

債務は滞納税金(極端な例では、創業(法人登記)後、無申告(確定申告していない)であるので、正規の申告(期限後申告)をすれば、納付義務のある税金のみ)しかないが、資産はないので、(法人の)自己破産できないか。

過去の例では、雨漏り診断から屋根工事を受注し、下請けの屋根屋(屋根工事業者)に回して、マージンだけを回収する企業のようでした。

同社では、営業マンには、高率(高額)の営業報酬を支払い、納税資金を確保していないようです。そして、同社の無申告が発覚し、税務署からの連絡を受けて、破産相談を申し込んできようでした。

(2)長期間の無申告状態が係属している会社法人の代表者からの相談

過去には確定申告していましたが、5年以上不申告状態とのことでした。

同社では、期限後申告をすれば、法人の債務は税金のみとなるとの見込みです。

このような会社でも、(法人)破産することはできますかとの相談です。

ちなみに、会社法人には長期未払の他の負債もありますところ、代表者自身の自己破産の相談で、廃業状態の法人の負債(債務超過)が判明する場合は、ここでテーマとするものとは別問題です。

(3)滞納税金のみの負債となるので法人破産したいという相談

法人破産の手続で、滞納税金のみ対応したいと会社法人の代表者は希望していました。

同社代表者によれば、その他の負債は返済可能だからとする債務整理相談がありました。

具体的には、代表者の負債は、会社法人の借入金の連帯保証債務としては、金融機関からの借入金(合計500万円弱)のみのようです。

同社の手残り資金、たとえば、今月末の売掛金入金、来月末の売掛金入金があるとのことです。今月末に従業員との雇用関係を合意解約し、今月分給与(200万円弱)と、来月分の支払い給与(100万円弱)、そして、代表者個人が連帯保証している金融機関に対しては、繰り上げ償還(返済)にすれば、残る負債は、滞納税金(1000万弱。)の支払いと、こまごまとした買掛金だけになると見込むそうです。

このような場合に、法人破産だけできないかと相談でした。

なお、代表者名義のマンションの残ローンは、500万円弱とのことであり、代表者が得る年金と、同居家族の協力で支払いは可能とのことでした。

ただ、所有マンションは住宅ローンの残高を控除しても、その余剰の価値は1000万円以上出ると見込んでいました。

このような場合に、当事務所の弁護士は、どのような対応をとっているのかをご説明します。

まず、前提知識のおさらいから始めます。

そもそも、法人の滞納税金等は、法人が破産した場合、どうなるのでしょうか。

これまで繰り返したところですが、改めて、引用します。

1 会社法人に対して破産手続開始決定がなされた場合

(1)破産手続の開始

破産手続は、裁判所による破産手続開始決定(以前は、「破産宣告」決定といいました)によって開始されます。

(2)破産手続開始決定による、会社の「解散」

破産手続開始決定を受けた会社・法人は、「解散」するのが通常です(会社法471条1項、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律148条、同法202条など)。

会社・法人が解散しても、直ちに、権利義務の帰属主体としての法人格が消滅するわけではありません。

破産手続中は、清算の目的の範囲内において、その法人格が存続するとみなされます(破産法35条)。

(3)破産手続の終了による、法人格の消滅

破産手続が終了すると、破産者である法人・会社の法人格は、清算の目的を達しましたので、その法人格は、原則として消滅することになります。

すなわち、破産手続の終了により、その法人・会社が消滅してしまうことになります。

滞納税金などの債権を含めた一切の債権が、債務者が消滅するために、債権は存在しなくなる、つまり、債権が消滅することになるのです。

2 個人(自然人)の破産と、法人の破産の違い

(1)個人の破産の場合

個人の破産の場合、破産手続きが終了しても、個人は消滅しませんから、経済的更生を図るために、免責の許可を受け、債権の支払義務について一般的に支払い義務の免除を受ける必要があります。

しかし、税金等の債権は、この免責の許可決定を受けたとしても、非免責債権として、支払い義務免除の対象となりません(破産法253条1項1号)。

(2)法人の破産の場合

法人の破産の場合には、破産手続開始決定を受け、解散する会社が、清算の目的の範囲内でその法人格が認められるため、破産手続による清算という目的を達すると、会社が消滅し、債務者が存在しなくなることから、税金などの債権を含むすべての債権が消滅することになるのです。

会社法人に対して、破産手続開始決定がなされ、破産手続きが開始されると、その法人・会社に対する債権は、破産手続において、その破産管財人が、破産法人・破産会社の財産を換価処分して得られた金銭から弁済又は配当を受けます。

債務超過であることが多い、会社法人においては、全額の弁済又は配当を受けることはできないのが通常であるといえます。

全額の弁済又は配当を受けられない、つまり、満額弁済ないし配当の満足を受けられませんので、債権者は、その不足分の支払いを請求したいところですが、破産手続の終了によって、債務者である法人・会社は消滅しています。

債務者が消滅した以上、その法人に対する債権は存在意義を失います。つまり、債権は消滅することになるのです。

この債権の消滅の理は、滞納している税金や社会保険料などの請求権も同じです。

3 会社法人の代表者の要望

法人・会社が破産した場合、滞納していた税金や社会保険料を支払う必要がなくなるのが原則となります。

相談者らは、この効果を欲し、さらに、代表者は破産(的清算の)回避を求めているのです。

4 各相談のケースで破産手続きの開始決定を得ることができるか。

破産裁判所に、破産手続開始の原因としての「債務超過」を認定してもらうことが可能かでしょうか。そのためにはどうすべきでしょうか。

(1) 法人破産の原因(破産法16条「支払い不能」または「債務超過」)

① 債務超過

「債務超過」とは、債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいいます。

② 債務超過の判断

裁判所が債務超過の判断に必要な限りで債務の存否や額を判断することになります。

東京地裁平成8年3月28日付判決は、破産手続開始の原因としての債務超過の判断の際の債務の額の算定は最終的なものではなく、また控えめの計算方法によるべきとします。

③ 法人の滞納税金の疎明資料の収集(ケース1ないし2について)

無申告の会社法人、長期不申告の会社法人の場合、やはり、法人の確定申告書の作成は不可欠と考えます。

ただ、そもそも、会社法人において、商業帳簿・会計帳簿も作成せず、さらには取引資料を保有していないような企業は、確定申告書などの作成にまでたどりつけるのかという疑問は払しょくできません。

④ 債務超過以外の事情の発覚(ケース3について)

申立書の他の事項から、否認権対象行為(繰り上げ償還という、詐害行為弁済)が判明する可能性があります。

このような場合、管財人による否認権行使の結果、会社法人の金融機関から(破産財団への支払がなされると)の借入債務(主債務)が復活し(被担保債権の原状回復)、保証債務の付従性により消滅した、会社代表者の連帯保証債務も当然に復活することになります(最高裁昭和48年11月22日判決)。

すると、破産法人の債権者金融機関から、保証債務の履行請求(または、保証会社からの求償債務の履行請求)の訴訟、債務名義を得て、保有マンションに対して、強制競売申立てなどの債権者からの債権回収手続きを受けることを覚悟してもらわなければなりません。

(2)ケース1ないし2について

法人の無申告についての対応をアドバイスすることになります。

税務申告の相談は、税理士にしてもらいます。

税理士との相談後、それでも破産手続を検討されるなら、我々としては、継続相談に応じることになります。

(3)無申告の発覚

税理士の先生方のホームページなどを参照しますと、次のような説明がなされています。

法人(会社)には、毎年決算月の翌々月末までに決算を行い、法人税等の確定申告を行う義務があります。

しかし、「決算をしていない」、「法人税等の確定申告をしていない」という会社においては、無申告が税務署に簡単に発覚するといわれます。

その理由として、法人の場合は、設立時に法務局で登記が行われます。この情報は税務署も確認できます。しかしながら、「法人登記されているにも関わらずに、法人税等の申告書の提出がない法人を見つけることは、税務署にとっては容易であり、簡単に発覚するそうです。

(4)無申告の回避

税理士の先生によれば、申告期限内に決算・確定申告を行うことができない場合でも、なるべく早めに申告を自主的に行うことが好ましいのは明らかとのことです。そうすることにより、罰金(無申告加算税・重加算税)や利息(延滞税)を最小限に抑えることができるとのことですので、ぜひとも、お早めに対応して、無申告の状態を解消してくださればと思います。そのような税務申告の経験を多く有する税理士事務所もあるようですので、ぜひともご相談されることをお勧めすることになります。

(5)資料の散逸の対応

税理士の先生方は、会社法人において、万一、領収書やレシートを紛失してしまい、お手元にない場合においても、経費の計上は諦めないようにとアドバイスしています。

領収書やレシート、外部からの請求書をすべて破棄してしまったから、「まったく経費に計上できるものがない」ということにはならないとのことですので、税理士事務所に相談すべきとなります。

5 まとめ

私たちの、法人破産のご相談・ご依頼を受けるスタンスは、次のようなものです。

(1)法的整理としての破産によること

倒産処理を担当とする弁護士としては、事実上の倒産で法人が放置されるよりも、法的整理(最後の手段としての破産)を促したいと考えております。

その方が、関係者全員の利益に適うと思います。

(2)破産手続のための費用の目安

相談の際、法人代表者には、破産申立てを行う場合の現実的な必要資金の想定額を伝えます。会社法人の代表者の、破産申立の決断の際の検討材料を提供します。

(3)法人の処理(破産)を先行する

法人代表者は、自らの保証債務等の債務整理や今後の生活、役員責任追及のことが気になることは私たちも重々承知しております。

会社法人の代表者のお悩みは、結局、何を優先して考慮するか、ということでしょうから、まずは法人の処理を優先する、と決断される代表者の判断を尊重し、それに沿うお手伝いをしたいと考えております。

そして、法人破産の決断、その準備をして、少し落ち着いたら、代表者自らのことを考えることになります。

その際に、申立代理人としてもできる限りのアドバイス差し上げる所存です。

会社法人の代表者の方には、法人を破産させたということで、債権者らの厳しい目があることも考慮の上、会社代表者個人の経済的更生を考えていくことになります。

(4)誠実な債務者(会社法人の代表者)を助力したい

私たちは、「誠実な債務者は救ってあげたい」と考えています。

以前、懇意の税務事務所の顧問先の企業経営者の方々に対するセミナーで、私は、経営する企業及びその代表者の経済的破綻に際しては、「人生に一度は破産」とセミナーの冒頭でぶち上げ、列席者の顰蹙を買いました。

しかし、誠実な、そして、有能な経営者の方は、破産(破産的清算)をした後に、その才覚を活かして、再出発を図るべきと考えて、発言しました。

私淑する弁護士の野村剛司先生は、「倒産や破産を暗く捉えず、新たなスタートを切るためのきっかけとして明るく前向きに捉え、ルールに従った処理をして再スタートできるようにすることは、債務者、債権者、そして社会的に見ても有意義なことです。」と述べておられます。

そして、逆に、「制度を濫用や悪用しようとする者には、毅然とした態度や対応が必要です。」とも、述べておられます。

私は、本各ケースに対する対応は、このスタンスで臨むべきと考えています。

それが、下記の破産法の理念に合致し、債務者(法人代表者)の経済的更生に資するものと考えています。

第一条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。


■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉

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