株式会社に関わる株主・会社経営者の方に向けて、株券管理のリスクをなくすため、株券発行会社が株券不発行会社になるためにはどうすればよいのかについて解説します。株券不発行会社に変更するためには、株主総会特別決議により、①株主から株券不所持の申出を受ける又は発行済み株券をすべて回収するか、②株主に個別通知のうえ官報公告を行ったうえ、登記する必要があります。このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める株式の分割の手続についてポイントを絞って分かりやすく解説します。
はじめに~株券発行会社の抱えるリスク~
今でこそ株券発行会社は少なくなりましたが、かつては株券を発行している会社が多く、自宅の金庫や貸金庫で保管しているということも少なくありません。特に、長年にわたって存続している一族経営の会社などでは、今も株券を発行している会社もあります。
そのような会社様の企業法務の対応をしていると、ときどき、「株券をなくした」とか「株券はどこかにあると思うけど…」などとご相談を受ける場合があります。
このような場合には、放っておいてはいけません。
株券とは“有価証券”であり、株券を持っている人は株主(権利者)であると推定されます(会社法131条)。それゆえ、仮にそれが株券を拾っただけでも、株券が盗まれたものであっても、その人から事情を知らずに買い受けた者は、立派な株主になってしまいます。これを「善意取得」(善意・無重過失の者が取得すれば、その者は株主であることを会社に対して主張することができる)といいます。
そのため、株券発行会社は、一般に、株主が株券を紛失・盗難に遭い、それを第三者が取得した場合に、株式の善意取得(善意・無重過失の者が取得すれば、その者は株主であることを会社に対して主張できます。)のリスクがあり、株券を偽造(若しくは不法に再発行)され、同じくトラブルに巻込まれるリスクがありますので、株券不発行会社に変更しておくことにより株券を無効にさせておき、極力、リスクを回避することが可能となります。なお、株券不発行会社にすることにより、現在の株主の権利に変更はありません。
このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める株券発行会社が株券不発行会社になるための手続について、ポイントを絞って分かりやすく解説します。
大きく分けて二種類の手続がある?!
株券発行会社が株券不発行会社になるためには、大きく分けて二種類の手続がありますので、ご紹介します。
なお、いずれの場合であっても、株券は株主にとっては重大な関心事ですから、株主総会特別決議を経て変更する必要があります。
また、変更後は、登記の変更を行うことも欠かせません。
① 官報公告によるパターン
株主総会特別決議により株券を発行する旨の定款の定めを廃止することを承認し、株券が無効になる旨を株主に個別の通知を行い、公告(=官報に掲載)を行う(会社法218条1項)
→こちらは、官報公告という手間暇が発生しますが、株主が多数いる会社の場合や、何らかの事情から、下記②の手続によることが難しい場合には、有効な手段となります。下記②の手続は純粋に会社内部で行われるため、第三者には分かりづらいですが、①の手続は、官報公告により公示されますので、客観性を担保できるという側面があります。
② 株券不所持申し出・株券をすべて回収するパターン
株主総会特別決議により株券を発行する旨の定款の定めを廃止することを承認し、株主から株券不所持申出書の提出を受け、発行済み株券をすべで回収し(会社法217条)、株券が無効になる旨を株主に個別に通知する(会社法218条3項)
→こちらは、①の官報公告という方法による必要がないので、簡易な手続ではあります。例えば、株主が一人ないし数名しかおらず、全員が株券を提出することをいとわない場合や、紛失や盗難を警察等に届出て株券が手元になくても株券不所持申し出ができる場合には、短期的に手続が可能、つまり①のように公示している間に第三者が善意取得することをできるだけ防ぐことができる、というメリットがあります。
いずれの手続についても、弁護士・司法書士がお手伝いすることが可能です。
おわりに
以上、簡単ではありますが、株券発行会社が株券不発行会社になるためにはどうすればよいのかについて、簡単に解説して参りました。
基本的には、会社法にその具体的な定めが書かれておりますが、司法試験で会社法を勉強した私どもは慣れているとはいえ、会社法は条文数がとても多く、難解な構造になっていることから、少しでもお悩みや分からないことがありましたら、会社法に詳しい弁護士にご相談いただけたらと思います。司法書士とタッグを組んで事件を処理することも可能です。
株主名簿などを作成していない会社の場合、株主名簿作成の手伝いをすることもできます。通常、株主は税務申告のための計算書類において記載がありますので、そちらも参考になります。