「会社を廃業したいのですが…」という相談への対応

法人の代表者から、会社経営の資金繰りや後継者不足、そして、先行きの不透明なことから、「会社の廃業をしたいのだが…」という相談を受けることがあります。

この相談の際、代表者の方が述べる「廃業」とは何を意味しているのかを聴取します。

すると、事業を廃止した場合、その後の手続はどれを選択したらよいのか、それらを相談されていることがわかりました。

また、ある会社法人の破産手続きが終わり、特殊な事情から、清算人選任の手続に移行する事案もありましたが、その事案でも、そもそも、同社の事業を「廃業」するにあたって、どの手続選択がよいかを検討したことがありました。今回は、「会社の廃業」の相談から、「会社の休業」を整理しました。

1 廃業と倒産、閉店と休業

1 廃業と倒産、閉店と休業

(1)廃業

廃業とは、自ら事業をたたむことをいいます。

(2)倒産

倒産とは、法律上の統一的な定義はありませんが、一般的には、会社などの法人または個人が、経済的に破綻し、弁済期にある債務を一般的・継続的に支払えなくなることということができます。これを会社経営者から見ると、資金繰りの都合がつかず、事業を継続できなくなることと言い表せます。

(3)閉店と休業

閉店は、対象となる店舗をたたむことです。休業は、会社を残したまま、一時的にその事業を停止することを意味します。

(4)会社経営者が「廃業」と言うときの意味合い

この場合の「廃業」とは、会社の経営者の方の判断によって、自ら事業や会社をたたむ(たたみたい。たたまざるを得ない)という意味合いを持ちます。

2 廃業の原因ないし理由

2 廃業の原因ないし理由

(1)倒産と呼ばれる事態

廃業する理由については、経営不振や業績の悪化、債務の超過など様々です。

会社経営者の方が、自主的に、つまり、経営者が自ら望んで、経営する会社の廃業を選択したとしても、その原因が、債務超過や支払の不能などの場合には、「倒産」と呼ばれることになります。

(2)倒産と呼ばれず「廃業」と呼ばれる事態

事業自体では利益を出して、黒字経営であっても、別の理由から廃業を選択する場合があります。

経営者が高齢であり、事業の継続が困難となることが予想されるのですが、後継者がおらず、事業をたたむとか、その事業で得た収益で、別の事業を行うために、旧来の事業をたたむことは倒産ではなく、廃業と呼ばれます。

3 倒産

3 倒産

倒産は、金銭的な理由(資金繰りがつかないなど)で事業を継続することができなくなったという意味です。

このような企業は、債務超過の状態にあったり、債務についての支払い不能に陥っていることが多く、従業員給与の遅延や支払い困難、取引先への支払も難しい状態になっています。

会社法人が倒産した場合には、「法的倒産」と「私的な倒産」と二つに分けられますので、法的整理や私的整理を通して、できる限りの返済を目指します。

4 「休業で対応できないか」という問題

4 「休業で対応できないか」という問題

(1)休業

休業とは、会社は残したまま、一時的に事業を停止することを意味します。

(2)メリット

会社そのものは存続しています。

よって、会社の事業を再開しようとする場合には、所定の手続きをとるだけで、円滑に事業再開できます。これがメリットといえます。

また、休業すると、法人税・消費税などの税金が発生しないメリットがあります。

(3)デメリット

ただし、最後の登記をしてから、12年を経過した株式会社の場合には、解散とみなされる(「みなし解散」)ことがあり、会社法上は休眠会社と表します。

また、事業を止めない場合には、その旨の届出が必要です。ただし、最後の登記をしてから12年を経過した株式会社は、解散とみなされることがあるため、まだ事業を止めない場合はその旨の届出が必要です。

5 会社を休業させる方法

5 会社を休業させる方法

(1)休業届(休眠届)の提出

会社を休業させる場合、税務署及び都道府県税事務所・市区町村役場に、いわゆる休業届を提出します。

会社の国税(法人税)負担は税務署が、地方税(法人事業税・法人住民税)は、都道府県税事務所および地区町村役場が管轄しているからです。

正確には、休業させる際に各提出するのは「異動届出書」です。休業させる旨を記載して提出します。

(2)休業させる際の届出について

会社を休業させる際に提出する届出は、一般的に休業届(休眠届)と呼ばれていますが、実際に提出が求められる書類の名称は「異動届出書」です。つまり、この異動届出書に会社を休業させる旨を記載し提出することが求められます。

(3)休業の具体的なメリット

(3)休業の具体的なメリット

① 廃業する場合の専門家費用の負担がない

会社を廃業する場合には、解散登記や清算手続きを求められます。

このため、税理士や司法書士などの専門家や商業登記の変更の関係で法務局に対して支払う費用負担が生じます。

他方、休業させる場合には、税務署と市町村に休業届を提出するだけで済みます。

費用が掛かりません。

② 法人住民税が免除・減免される場合がある

たとえ所得が発生していない場合でも、会社に法人住民税の均等割りが課せられます。

しかし、休業届を提出することによって、自治体によっては、法人住民税の均等割りが免除・減免される場合があります。

③ 事業の再開が容易

都道府県と市町村に対して、異動届出書を提出することにより、事業を再開できます。

一定期間事業を休止したいとか、将来、事業を再開する見込みのあるケースではメリットが大きいといえます。

(4)休業のデメリット

(4)休業のデメリット

① 納税義務が消滅するわけでないこと

会社を休業させたとしても納税義務は消滅しません。

税務申告が求められます。

住民税の均等割りが求められる場合があるのは、上記メリットで説明したとおりです。

② 役員変更登記が求められること(そして、「みなし解散」)

休眠中の会社であっても、役員の任期満了時には、役員変更の登記が必要です。

仮に登記を怠ると、代表者には、100万円以下の科料に処せられる恐れがあります。

最終登記から、12年経過すると解散とみなされます。注意が必要です。

(5)休業の手続の流れ

(6)休業から事業の再開をする手続

休業する場合の手続の流れは次のようになります。

① 事業の停止

会社の手掛けるすべての事業を停止します。

収入や支出の発生しない状態にさせることです。

電話応対や郵便が到達する状態は「休業」と評価できません。

よって、会社を休業させるときには、会社の事業活動を行う体制そのものを停止(ストップ)させる必要があります。

② 休業届(異動届出書)の作成・提出

会社の全事業を停止させたら、税務署宛の休業届(異動届出書)のを作成します。

この届出書の用紙は、税務署で取得したり、国税庁のホームページからダウンロードします。さらに、給与支払事務所等の廃止届、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書も提出する必要があります。

そして、都道府県税事務所・市区町村役場に対しても、異動届出書の提出が必要です。

各様式が異なるため、問い合わせ、取得することになります。

その他、事業の特殊性に応じた休業届の提出も必要となります。

③ 休業届の受理・休眠状態

休業届が受理されます。

休眠状態となり、商業登記簿上でのみ存在する会社と扱われます。

但し、最後に登記を行った日から12年以上経過すると、会社の実態がないとして、解散したものとみなされる恐れがあります。

(6)休業から事業の再開をする手続

(6)休業から事業の再開をする手続

休業を選択された方は、事業を再開することを見込んでいます。

その場合の手続は次のとおりとなります。

① 異動届出書の提出

事業を再開する場合には、休業届を提出した税務署・都道府県税事務所・市区町村役場に、それぞれ事業を再開する旨の「異動届」を提出します。

② 休業中の会計処理・確定申告

休業中における預貯金の動き、売掛金の回収、買掛金の支払いなどを中心に会計処理を行います。未実施であれば、過去の確定申告をまとめて実施します。

これにより、事業再開後の、期首簿価を確定することができます。

③ 青色申告の再申請

青色申告の取消を受けた場合、繰越欠損金を利用できなくなります。

一度取り消されると、二期にわたり、青色申告承認請求が行えません。

取消日を確実に把握し、不明朗な場合には所轄の税務署に問い合わせます。

取り消され、申請できない期間が経過している場合には、事業の再開に伴い、即座に青色申告承認申請書を提出することになります。

税務署や税理士に適宜のアドバイスを受けるのが賢明です。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉

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