こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる独占禁止法、以下、単に「独禁法」といいます。)には、事業者による「優越的地位の濫用」を禁止する条項があります。
「優越的地位の濫用」とは、簡単にいうと、強い立場にある事業者がより弱い立場にいる取引先に対して、強い立場を利用して、不利な取引条件を提示したり、それに従わせたりする行為をいいます。
もっとも、経済状況の変化などにより、事業者としても、取引先との取引条件を変更しなければならない状況になってしまうこともあると思います。
そのような取引条件の変更の申し出について、全て「優越的地位の濫用」と言われてしまうと、事業が硬直的になってしまうことになるでしょう。
そこで、この記事では、「優越的地位の濫用」が認められる要件について解説した後、「優越的地位の濫用」が認められた事件をわかりやすく紹介していきます。
「優越的地位の濫用」とは
「優越的地位の濫用」とは、取引上優越的な地位にいることを利用して、取引の相手方に対して、正常な商慣習に照らして不当な要求等をする行為をいいます(独禁法2条9項5号)。
この「優越的地位の濫用」は、大きく以下の3つの要件を充足する場合に成立します。
⑴取引上の優越的な地位があること
⑵優越的地位の濫用行為があること
⑶正常な商慣習に照らして不当といえること(=公正な競争を阻害するおそれがあること)
⑴ 取引上の優越的な地位とは
例えば、ある事業者(優位な側)が取引相手(劣後する側)に対し、著しく不利益な要請を行ったとします。
正常な商慣習に照らせば、取引相手は、そのような要請を当然拒否できるものと考えられます。
しかし、取引相手(劣後する側)にとって、事業者(優越な側)との取引継続が困難となってしまうと、事業経営上大きな支障が生じてしまう場合には、取引相手がこれに従わざるを得ない場合があるといえます。
そのような場合に、取引上の優越的な地位が認められることになります。
具体的には、以下のような点などを総合考慮して優越的な地位にあるかを検討することになります。
①ある事業者(優越な側)と取引相手(劣後する側)の取引依存度
②ある事業者(優越な側)の市場における地位
③取引相手(劣後する側)が取引先を変更できる現実的可能性
など
優越的地位の判断事例
いわゆる「三井住友銀行事件」(勧告審平成17年12月26日)では、銀行業界において第1位の地位にあった三井住友銀行と融資取引を行っていた事業者(特に中小企業者)の中には、同行以外の金融機関から資金手当てをすることが困難な事業者が存在するところ、そのような事業者は、三井住友銀行から融資を受けられなくなると事業活動に支障をきたすため、融資取引を継続する上で、融資の取引条件とは別に同行からの種々の要請に従わざるを得ない立場にあり、三井住友銀行に対して劣っている立場にあると判断されました。
⑵ 濫用行為とは
濫用行為には、大きく分けて、以下の3つがあります。
①購入強制の事例
継続して取引する相手方に対して、取引対象以外の商品などを購入させる行為をいいます。
いわゆる「三越事件」(同意審決昭和57年6月17日)においては、百貨店業界でも有力な事業者である三越が、取引関係を利用して、三越との継続取引を強く望む納入業者に対して、映画の前売り券や花火大会の入場券等を購入させた行為が、これにあたると判断されました。
②経済上の利益を提供させる行為の事例
典型的には、優越する事業者が、棚卸しや棚替えなど、自社の利益にしかならないような業務を、取引相手の負担で行わせる(取引相手の負担で従業員を派遣させる)行為がこれにあたります。
いわゆる「ドン・キホーテ事件」(同審審決平成19年6月22日)においては、棚卸しや棚替えの作業を行わせるため、納入業者に連絡し、事前の合意がないのに、納入業者の負担でその従業員を派遣するように要請した行為が、これにあたると判断されました。
③相手方に不利益となるような取引条件の設定、変更または取引の実施
これには、受領拒否、不当返品、支払遅延、代金減額、対価の一方的決定などが含まれます。
商品やサービスの取引条件(価格など)の設定がこれにあたるかどうかは、難しい判断が必要となります。
もっとも、最終的には、事業者(優越な側)と取引相手(劣後する側)のこれまでの協議の有無、通常の価格との乖離の程度、他の取引相手との取引価格などを考慮して総合的に判断されることになります。
⑶ 公正な競争を阻害するおそれとは
優越的な地位の濫用が「正常な商慣習に照らして不当」といえるかどうかは、そのような行為が取引相手の自主決定(取引するかどうか、また、どのような条件で取引をするかを交渉し決定すること)を侵害するかどうかにより、判断されることとされています。
なお、独禁法上の優越的な地位の濫用が問題となる場面では、下請法の適用が問題となる場合も多いです。
下請法規制については、弊所の下請法に関する記事をご参照ください。
まとめ
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」について、解説していきました。
「優越的な地位の濫用」は、下請けなどの事業においても問題となることが多いです。
また、これにあたる行為で継続して行われるものには課徴金が課されることになりましたので、注意が必要です。
優越的地位の濫用にあたるかどうかは、判断が難しい場面も多くありますので、優越的な地位の濫用について困った際には、独禁法に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。