管理費等の額に差異を設ける規約改正の可否

マンションを所有するにあたりかかってくる費用である管理費・修繕積立金などは、区分所有法19条に規定があり「規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」としています。「別段の定め」があれば共有持分の割合とは関係なく管理費等の設定ができるといえそうですが、そのような規約の設定に限界はあるのか、裁判例から解説していきます。

管理規約による管理費・修繕積立金に差異を設けることの有効性

管理費・修繕積立金の設定について

マンションに関する費用の負担割合についての原則

管理規約による管理費・修繕積立金に差異を設けることの有効性

区分所有法19条は、共用部分の負担や共用部分から生じる利益については、各区分所有者の持分に応じて負担したり、得ることが出来る、という原則を定めています。つまり、持分が大きい区分所有者は管理費や修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)を負担する割合が大きく、逆に持分が小さい区分所有者は管理費等の負担も小さい、ということになります。

ただし、それはあくまでも原則であり、例外的に、「規約に別段の定め」があれば、この管理費等の負担割合は変更することが出来るとも規定されています。

東京地方裁判所の裁判例が示した例外の限界

管理費等を持分以外の割合で定めることはできるか(東京地方裁判所平成2年7月24日判決)

東京地方裁判所の裁判例が示した例外の限界

平成元年に、東京地方裁判所で、マンションの区分所有を個人がしているか、法人でしているかで管理費等に差異を設けた管理規約についてその有効性が争われるという裁判が提起されました。

具体的には、東京都内のマンション管理組合で、管理費等が法人の場合、個人の1.6倍に設定されている、という管理規約になっていました。このような差異について、当該マンションを所有していた法人が、「合理的な根拠がなく、区分所有法の趣旨や公序良俗に反する差異の規定である」として、その管理規約の内容を無効であると主張して争いました。

裁判所の判断

裁判所の判断

この訴訟の中で、裁判所は「これらの決議の内容は法人組合員と個人組合員の間に合理的な限度を超えた差異を設ける不平等なものであり、これらの決議はいずれも区分所有法の趣旨及び公序良俗に反し、無効である」として、法人側の主張を認めました。

無効な差異であるとの結論に至った判断過程

無効な差異であるとの結論に至った判断過程

上記結論に至った判断過程として、裁判所は以下のとおり検討しています。

(1)管理規約により管理費等に差異を設けることの有効性について

裁判所は、

「区分所有法一九条は、持分に応じて管理費を徴収することの例外を規約で定めることを認めており、管理費等の徴収額につき所有名義により法人組合員と個人組合員とで差異を設けること自体が直ちに同法に反するとまではいえない。」

とした上で、

「管理組合は全員加入である上、規約あるいは決議も、各区分所有者の専有部分の床面積の割合による多数決によって決定されるのであるから、管理費等につき少数者に不利な定めが設けられる虞がある。区分所有法も、直接管理費等について定めたものではないが、少数者の保護を図るために、規約の設定、変更等につき一定の制限を設けている(同法三条一項後段)。その趣旨は、区分所有者による建物等の自主的な管理を認めつつ、それが一部の者に特に不利益な結果になることを防止しようとした点にある」

として、区分所有法が少数者の保護も考えているとしました。

さらに、

「元来建物の利用は持分に応じてなされていること等も考えると、同法は、管理費等の額につき法人組合員と個人組合員とで差異を設けることについては、その該当者の承諾を得ているなど特段の事情のない限り、その差異が合理的限度を超え、一部の区分所有者に対して特に不利益な結果をもたらすことまでは是認していない」

として、差異を設けるに当たっては、差異により不利益を受ける側の承諾があるなどの特段の事情がない限り、限界がある旨を明らかにしています。

そして、一般論としても、

「区分所有法を離れて考えてみても、かかる全員加入の非営利的な団体において、多数決で定められた負担金に差異を設ける規約、決議等は、目的又はその差別の方法が不合理であって、一部の者に特に不利益な結果をもたらすときは、私的な団体自治の範囲を超え、原則として民法九〇条の規定する公の秩序に反する」

として、一般理論からも無効に公序良俗に反し、差異が無効になる場合があり得ることを示しました。

(2)法人と個人で差を設けることについて

さらに、「差異の合理的な限度」に関して、

「所有名義が法人か個人かという区別によって管理費等の徴収額に、…(約1.6倍の)の差異が設けられており、このような差異が設けられた理由について、…
法人の方が管理費等を経費として計理処理することができるので、税負担が軽いといえなくもないが、この点は、各税法は別途の理屈や、目的に従って課税の仕方を定めているのであるから、単に経費化できるという一事から税負担が小さいとはいいきれない…負担力に応じるというのであれば、私的団体における差別目的としての合理性もさほど高くはない上、よりきめ細かな区分が必要なはずであり、名義上の個人と法人といった区分方法程度では、手段として不適切といわざるを得ない。したがって、このような区分方法では、前記のような大きな差異を課することは、不合理」

としました。

また、

「法人であるが故に必ずしも常に個人よりも共有部分等を多く使用しているとまでいうことはできない。使用程度あるいはこれによる収益の程度は、その業種、業態によって大きく異なる上、〈証拠略〉によれば、組合員の中には個人の所有名義であるが、営業用に当該建物を利用している者もいることが認められる。実質的な利用状態を無視して、単に所有名義のみによって管理費等の徴収額に差異を設けることは、その手段において著しく不合理といわざるを得ない。したがって、前記の格差は、このような合理性の乏しい手段によるものとしては、不当に大き過ぎ、法人組合員に特には不利益な結果をもたらすものとして、是認できない」

として、

「現在程度の差異があり、かつ、被告が法人組合員であるが、当該建物を居住用に利用しているにすぎない者であり、この差異を承認しておらず、・・・より合理的な管理費等の定め方等につき、十分な協議、検討が尽くされていない本件では、本件組合規約及び金額の決議は、管理費等の徴収について、法人組合員につき差別的取扱いを定めた限度で、区分所有法の趣旨及び民法九〇条の規定に違反し、無効」

としました。

裁判例から検討すべき持分割合に比例しない管理費等の改訂

裁判例から検討すべき持分割合に比例しない管理費等の改訂

以上の裁判例からも読み取れるように、区分所有法19条では、原則的には管理費等の区分所有者の負担はその持分割合に応じることになっています。

例外的に、管理規約に定めれば、そうでない管理費等の負担も設定することは可能ですが、もしそのような改訂をするのであれば、「その差異について差異の影響を受ける者の承諾を得ているのか」、そのような承諾がなくても「差異が合理的な限度内であるといえるか」という点が問題になるということになります。

したがって、このような改訂の際には、改訂内容が差別の方法と不利益な結果の影響を考慮しなければならない、ということがいえると思います。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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