こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
商品には、人気が出るものとあまり人気が出ないものがあるかと思います。
事業者としては、不人気商品の在庫処分ができると考えて、不人気なものを人気なものとセット販売しようと考えることがあるかと思いますが、このような販売方法は、独占禁止法(以下、単に「独禁法」といいます。)に違反するする可能性があるため、注意が必要です。
公正取引委員会は、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ…ること」(不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)を抱き合わせ販売として指定しています。
抱き合わせ販売にあたると判断された場合には、公正取引委員会から指導(排除措置命令)を受けてしまうおそれもあります。
そこで、この記事では、抱き合わせ販売について説明した後、独占禁止法違反とされた取引の例をわかりやすく解説していきます。
抱き合わせ販売とは
「抱き合わせ販売」とは、簡単に言うと、ある商品や役務(主たる商品)を供給する際に、他の商品や役務(従たる商品)も併せて購入することを条件として取引する行為をいいます。
例えば、消費者が欲しがる人気商品を販売する際、他の不人気商品と併せて購入させる場合などがあります。
「購入させる」とは?
どのような場合に、主たる商品に併せて、従たる商品を購入させていると判断されるのでしょうか。
これは、従たる商品を購入させる強制の度合いが考慮されますが、判例上では、①客観的に、従たる商品を購入しなければ、主たる商品を購入することができない関係性が認められるか、および、②少なからぬ顧客が従たる商品の購入を余儀なくされているかという基準で判断しているとされています。
注意が必要なのは、必ずしも取引が強制されていることまでは必要とされず、何らかの経済的利益により、従たる商品の購入が誘引されている場合も含まれると考えられている点です。
独占禁止法上、問題のある抱き合わせ販売とは?
抱き合わせ販売が問題となるのは、「不当」な方法によりこれが行われる場合です。
すなわち、主たる商品に併せて従たる商品を購入させることには、主に以下の2つの問題があるとされています。
① 競争手段としての不公正さ
抱き合わせ販売により、従たる商品の購入が強制されてしまうと、顧客にとっては他の商品・役務を選択しようとする自由が制限されてしまうことになりますので、強制的に従たる商品を抱き合わせて販売する行為自体に問題があるおそれがあります。
② 自由競争を阻害すること
主たる商品の市場において、有力な事業者が抱き合わせ販売を行うと、従たる商品の市場に対しても、影響を及ぼすおそれがあります。すなわち、従たる商品の市場において、競争が減少してしまい、他に代わり得る取引先を見いだすことができなくなるおそれがある場合には、問題があるとされます。
上記観点からの検討を行った結果、公正な競争を阻害するおそれがあると判断される場合には、独禁法上問題のある抱き合わせ販売に当たり得るということになってしまいます。
問題のある抱き合わせ販売とされた事例
①日本マイクロソフト抱き合わせ事件(勧告審決平成10年12月14日)
現在、ワープロソフトとしては、マイクロソフト社の「ワード」が圧倒的シェアを誇っていますが、以前には、「一太郎」というワープロソフトがシェア1位だった時代がありました。
当時、マイクロソフト社は、表計算ソフトでシェア1位だった「エクセル」と「ワード」を併せてライセンスするという条件で契約をすることとした結果、同社の「ワード」は、「一太郎」に代わってシェア1位となりました。
このようなマイクロソフト社の抱き合わせ販売について、公正取引委員会は、不当に、表計算ソフトの供給に併せて、ワープロソフトを自己から購入させたなどとして、独禁法上問題のある抱き合わせ販売に当たると判断しました。
この事例では、従たる商品であるワープロソフト市場において、競争者が排除されるおそれが生じたことが「不当」であるとされた根拠だと考えられます。
②藤田屋(ドラゴンクエスト)事件(審判審決平成4年2月28日)
家庭用電子玩具の二次卸業者である藤田屋は、平成2年頃に販売開始されたドラゴンクエストⅣを販売するにあたり、在庫として抱えていた他の不人気ソフトと併せて販売することとしました。具体的には、他のソフト3本を購入するという条件で、ドラゴンクエストⅣ1本を販売するという内容でした。
その結果、藤田屋は、購入を希望した小売業者25店に対し、合計でドラゴンクエストⅣ約1700本と、在庫となっていた他のソフト約3500本を抱き合わせて購入させました。
このような藤田屋の抱き合わせ販売について、公正取引委員会は、ドラゴンクエストⅣの人気の高さを利用して、価格・品質等によらず、他のゲームソフトを抱き合わせて販売したものであり、顧客の商品選択の自由を侵害し、卸売業者間の能率競争を害するとして、不公正な取引手段だと判断しました。
この事例では、不人気ゲームソフトを人気ソフトゲームと抱き合わせて購入させたことが「不当」であると判断されたポイントだと考えられます。
まとめ
独占禁止法上、問題となり得る「抱き合わせ販売」について、解説していきました。
事業者においては、セット販売を行うことで、販売数を伸ばせる可能性があることから、セット販売を行いたいものと思われます。
もっとも、この記事で述べた通り、不当な方法によるセット販売は、抱き合わせ販売として、独占禁止法上、問題となるおそれがあるため、注意が必要です。
独占禁止法は専門的な知識が必要な分野ですので、お困りの際は、独占禁止法に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。