従業員の不祥事が発覚!そのとき会社はどのような対応、対策をとるべきか? 弁護士が解説します

使用者の方から多く受けるご相談のひとつに「従業員による不祥事」関連のものがあります。

従業員が、会社の内外で何らかの不祥事を起こしてしまった場合、その影響は当該従業員にとどまらず、会社の社会的評価やイメージにも大きな影響を及ぼす場合があります。その内容によっては、従業員の不祥事は、会社にとっても大きな打撃となります。

では万が一従業員の不祥事が発覚した場合には、会社としてどのような対応、対策を講じるべきでしょうか。以下解説していきます。

不祥事とは

不祥事とは

不祥事は、少し広い概念ではありますが、一般的には、横領・窃盗・傷害などの刑事事件、セクハラ・パワハラ、不倫などの民事上のトラブルなどが考えられます。

刑事事件の具体例

刑事事件の具体例

刑事事件で相談として多いのは、以下のようなケースです。

  • 社内のロッカーやデスクなどから他の従業員の貴重品が盗まれた
  • 社員が保管していた金銭を横領した
  • 同僚と喧嘩をして相手に怪我を負わせた

民事事件の具体例

民事事件の具体例

民事事件で相談が多いのは以下のようなケースです。

  • 上司が部下の女性にセクハラをした
  • 上司が部下の男性に過度な叱責をしたり嫌がらせなどのパワハラを行った
  • 社内で不倫をしていた

従業員の不祥事が発覚した場合の初動

従業員の不祥事が発覚した場合の初動

従業員の不祥事が発覚した場合、会社としてどのような対処、対応ができるのでしょうか。

まず初動としてお願いしたいのが、「事実関係の調査(特に、証拠の確保)」です。

① 事実関係の調査

① 事実関係の調査

ア 証拠の確保

事実関係が不確かなままでは、当該不祥事の解決や当該従業員への処分を検討できませんし、万が一証拠や事実関係が不確かなまま当該従業員を処分してしまっては、不当な処分として争われたり、場合によっては名誉毀損による損害賠償も請求されたりしかねません。

そこで、まずは従業員の不祥事とされた事実の有無を確認し、その証拠があるのであれば、その証拠確保を迅速に行うべきです。

特に重要な証拠は、客観的な証拠です。

例えば、防犯カメラの映像などです。

もちろん、どのような客観的な証拠があるか、必要かは、個々の事案ごとによって変わってきますので、その事案に応じた証拠を確保するようにしましょう。

イ 当該従業員との面談

以上のような証拠を確保した場合は、つぎに当該従業員へ事実の確認を行うことになります。

不祥事の具体的内容について、しっかりと確認しましょう。

また面談の際は、後々、言った/言わないの水掛け論になる危険性を排除するために、やりとりをボイスレコーダーで録音する、当該従業員が事実関係を認めた場合にはその旨を書面に記載してもらうなど、こちらも客観的な証拠として残すという対応も検討いただいた方が良いかもしれません。

書面に残す際は、いつ、どこで、何をしたかなどを聴取し、その内容を記載してもらいましょう。

また、あらかじめ書類を作っておいて名前だけ従業員自身に書かせるという方法よりは、従業員自身にすべて作成させた方がよいと思います。従業員の直筆で書かれた書面が残るという点で、あとから否定される可能性が相対的には低くなります。

なお、面談の仕方は要注意です。

「やったと認めて書面にサインしないと警察に言うぞ」等、脅迫してしまっては、会社の当該行為が問題となってしまいます。

また、そのような直接的な言葉がなくとも、多数人で囲んで詰問したり、長時間にわたって拘束したりするなどした場合ですと、仮に事実関係を認める書面が作成されても、後々無効とされる危険性もあります。

以上の事実関係の調査の結果、従業員による不祥事が明らかになり、証拠が揃ったら、いよいよ以下の4つ対応策を検討していくことになります。

  • 損害賠償請求
  • 解雇などの処分
  • 刑事告訴
  • 再発防止策を講じる

② 対応策1:損害賠償請求

② 対応策1:損害賠償請求

ア 本人への請求

民事上の請求として、不祥事を起こしてしまった従業員に対しては、その内容によっては損害賠償請求をすることができます。

例えば、会社の財産を盗んだ、横領したという場合には、その価額の賠償を求めることになります。

実際の請求方法としては、まずは直接従業員本人へ請求し、それでも解決に至らない場合は裁判ということになると思います。

なお、この場合給料からの天引きはしてもよいか?という質問を受けることが多いのですが、残念ながら避けた方が良いように思います。

なぜかと言いますと、労働基準法に規定された「賃金全額払いの原則」により、法令で認められた源泉徴収や社会保険料の控除など以外には、賃金の一部を差し引いて支払うことが禁止されているからです。

もちろん、この原則にも例外はあり、従業員の同意を得ていれば、給料と損害賠償請求権とを相殺してよいことにはなっています。

しかし、ここで言う「同意」が問題です。

判例によれば、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合であれば労基法に違反しないが、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならない」として、かなり厳格な審査が行われることになっています。

つまり、従業員がその自由意思に基づいて(会社に脅されたり、強制されたりすることなく、自ら望んで)相殺に応じたことが第三者から見ても明らかであると言えるような事情があり、そのような事情の存在を裏付ける証拠がなければいけないことになります。

これは会社としてかなりハードルが高いものにはなります。

イ 身元保証人への請求

従業員の親族などとの間で身元保証契約を締結し、身元保証人が従業員と連帯して責任を負うことの合意があれば、身元保証人に対して損害賠償請求を行える可能性があります。

ただし、注意しなければならないのは、身元保証期間や身元保証人が責任を負う範囲が限定されるということです。

身元保証期間については、契約書で期間を設定していない場合には3年、期間を定めた場合でも最長5年に制限されており、自動更新条項は、無効とされています。

そのため、更新を怠っていると、いざ身元保証人に請求しようとしたら期限切れだったという場合もあります。

また、身元保証人の責任の範囲については、会社の監督状況についての過失、身元保証契約を結ぶに至った経緯、身元保証契約を締結する際の注意喚起、その他の事情を考慮して、できるだけ限定する方向で判断される傾向にあります。

裁判例では、全額の連帯責任を認めたものもありますが、賠償額全体の2割から6割程度に減額されたものもあります。

③ 対応策2 会社としての処分

③ 対応策2 会社としての処分

考えれる処分

処分内容には、減給や降格、戒告などがあります。最も重い処分としては解雇があります。

不祥事の内容やこれまでの同種事案への会社の処分などに照らして、適切な処分を選択していくことになります。

解雇については、合理的な理由があり、社会通念上相当といえなければいけません。

すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由②社会的相当性が必要なのです。

そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。

④ 対応策3:刑事告訴

④ 対応策3:刑事告訴

不祥事の内容によっては、それが刑法自体に触れる事柄もあります。

窃盗や横領、傷害などです。

そのような不祥事を起こした従業員に対して、刑事上の責任を問いたい場合は、警察または検察に対して会社が告訴する必要があります。

刑事告訴の方法

法律上は口頭での告訴も可能とされていますが、当該刑事事件の内容や被害額などを具体的に説明するために、告訴状などの書面を出す方法が一般的です。

また、当該事件を証明できる客観的な証拠と合わせて提出することで、捜査機関が告訴を受理して捜査に取り掛かってくれる可能性が高くなります。

刑事告訴のメリット

刑事告訴のメリット

告訴の結果、不祥事を起こした従業員が逮捕されたりすれば、適正な刑事責任を問える可能性がありますが、それ以外にも、会社にとって以下2つのメリットがあります。

メリット1 賠償を受けられる可能性が高まる

まず、会社に生じた損害の賠償を受ける可能性が高くなります。

例えば、会社の財産を盗まれた、横領されたということであれば、それらの返却、返済を受けることができるかもしれません。

被害者である会社との間で示談が成立するかどうかにより、不祥事を起こした従業員に対して科される刑事罰の重さが変わってくることから、従業員側(弁護人側)から賠償の申出がなされる可能性があるためです。

メリット2 社内秩序の維持につながる

他の従業員に対して、会社が厳正な対処をしたと示して社内秩序を維持する効果もあります。

例えば、会社内で喧嘩をして傷害事件に発展したということであれば、会社はそのような不祥事を起こし社内風紀を乱す従業員に対しては、毅然とした対応をとるのだという姿勢を社内全体に示すことができ、同種の非違行為の再発防止やコンプライアンスの向上に資することができます。

⑤ 対応策4:再発防止策を講じる

⑤ 対応策4:再発防止策を講じる

従業員の不祥事は、会社にも大きな損害を与えます。

そのため、今後二度と不祥事が起きないよう、再発防止策を実施することが大切です。

当該不祥事の原因を特定し、その原因除去に努めましょう。

また、就業規則の見直しや管理体制の強化も検討いただくと良いと思います。

従業員にも、不祥事を起こした場合、どのような事態になってしまうのか、真剣に考えてもらうきっかけになります。

不祥事を起こす恐れのない、信頼できる従業員を雇うためにも、就業規則の見直しや管理体制の強化も検討したいところです。

まとめ

まとめ

以上に説明した①損害賠償請求、②解雇、③刑事告訴、④再発防止策という4つの対応は、全てを行っても構いませんし、④だけ行うということでももちろん大丈夫です。

事案によって対応は様々あり得るということです。

そのため、当該不祥事に対して、会社として具体的にどのように対応していけばよいかについては、弁護士とよく相談し決めていくべきです。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
監修 代表弁護士 森田 茂夫

弁護士のプロフィールはこちら