当事務所では、法人破産の相談はまず、電話相談を受けます。その後、資料を用意していただくなどして、ご来所での相談予約を入れていただき、経営する会社法人の状況などを聴取し、その負債の状況や資金繰りの状況から、当該法人は破産やむなしとの見立てとなりましたら、次に、法人代表者についての債務整理の相談を受けます。
つまり、法人破産の相談がメインの相談であっても、代表者の債務整理をサブとして、お請けしています。
しかし、ときには、法人破産の内容、手続については、従業員関係や、債権者関係についても特に困難問題は想定されないのですが、代表者個人の債務整理において、自宅住居である住宅の維持の問題が出てくることがあります。
まず、当該住宅に、法人を主債務者とする抵当権が設定されている場合には、その債権者が抵当権の抹消に応じてくれない限り、法人の代表者には、住宅の維持をあきらめてもらうしかありません。
他方、自宅住居には、住宅ローンの抵当権しか設定されていない場合があります。
中小企業の代表者の方は、法人の債務の連帯保証人となっている場合がほとんどですので、代表者は、住宅ローンの抵当権付きの自宅を維持できないかという相談をよく受けます。
このような場合、まず、ご提案するのが、住宅ローン付き個人再生手続の利用です。
代表者の方の連帯保証債務が、住宅ローンを除いて、5000万円以内であれば、速やかな再就職を実現し、住宅ローン付き個人再生手続の申立てに至るよう、努力してもらうと案内するのが一般です。
しかし、自己破産やむなしの会社法人の代表者の連帯保証債務が、個人再生債務者の要件である債務額5000万円以下の要件をオーバーしてしまう場合があります。
このような場合に、個人再生手続きを利用することがかないません。
経営者保証ガイドラインによる債務整理で、自宅を残す方法を検討する場合があります。
その場合でも、保証人の住宅が、住宅ローン担保として抵当権が設定されている場合、それがオーバーローンか否かで検討する内容が異なりますし、オーバーローンでない場合には、当該住宅が「華美でないかどうか」という要件の検討も必要となります。
最近受けた相談で、自己破産予定の法人の代表者の配偶者の実父、つまり、義父の土地に法人代表者が家を新築し、住宅ローンを組んだ法人代表者の方からの相談がありました。
そして、代表者は、妻に、自分名義の家を、ローンを組んで買い取ってもらい、自宅を代表者家族から手放さないで済む方法を選択した場合の問題を検討することになりました。
次のような手順で、準備してもらいました。
1 不動産の評価額の調査
(1)住宅ローン債務を下回るのか(オーバーローンであるか)
相談者は、自宅住居を手放したくない、当該住宅に住み続けたいという希望があります。
そのためには、まず、不動産の評価額を知らなければなりません。
住宅ローン債務の残高を超える住宅の価値があるのか、それとも債務残高を下回る価値しかないのか(オーバーローンであるのか)を見極めることが必要となります。
(2)中古住宅、マンション価格の高騰に注意
埼玉県内の新築マンションの高騰を受け、中古マンション価格も高騰しているようです。
住宅ローン以外に、1000万円ほどの負債を抱えた方が、住宅ローン特則付き個人再生手続の相談に見えました。
この方には、およそ10年前に、総額2900万円のローンを組んで取得した中古マンション(4LDK、100㎡)がありました。
これについて、不動産業者の査定取得をお願いしましたところ、令和5年12月の時点で3900万円とされ、翌年(令和6年)春には4000万円を超えるという査定が出たことがありました。
これでは、個人再生手続による清算価値保障原則によると、1000万円の余剰が出ることから、一般債務1000万円の圧縮はほとんど期待できないと計算になったことがありましたので、その点が気がかりです。
(3)不動産価格の査定をとる
次の準備をしてもらいます。
① 不動産登記記録全部事項証明書(不動産登記簿謄本)の準備
一戸建であれば、土地・建物の不動産登記記録の全部事項証明書の取得してもらいます。
この場合には、共同担保目録付きであることが必須です。
住宅ローン融資を受ける際に、貸し付けた債権者が将来の担保物競売の目的となる土地建物を網羅しているはずです。
よって、公道への通路部分も担保の目的になっている場合にはそれも取得してもらいます。
② 固定資産評価証明書の取得
本件住宅の所在地の市町村役場で、最新の土地建物の固定資産評価証明書を取得してもらいます。
③ 最寄りの不動産業者に持ち込んでの査定依頼
本件住宅の所在地の、つまり、地元の不動産業者に持ち込み、査定書を作成してもらいます。
この場合には、土地と建物は別々の評価をしてもらうよう、お願いしてもらいます。
特に、建物所有者と、土地所有者が異なる場合には、必須です。
④ 複数査定書の用意
不動産業者の査定書は、複数あるのが望ましいです。
いわゆる、相見積もりを取り、査定価格の相場を知ります。
2 オーバーローンであるかどうか
(1)住宅ローン債務を超える不動産の査定額ではない場合
オーバーローンと評価されます。
住宅ローン債権者以外に、本件不動産からの配当原資を受けることがないと見込まれます。
なお、残ローンの債務残高が査定価格の1.5倍を超えるオーバーローンの場合には、消費者破産の場合には、自宅不動産しかない場合、同時廃止事件として処理される場合があります。
(2)住宅ローン債務を超えない不動産査定価格である場合
オーバーローンでない(オーバーローンか微妙な場合も)ため、清算価値を算出することになります。
つまり、住宅ローン債務を弁済したのちの、残高は、無担保であった保証債権者などの債務の引当として、配当原資となることを想定します。
3 住宅ローンの抵当権付きの一戸建ての住宅において、建物と土地の所有者が別である場合の問題について
これは、所有者が異なる不動産に共同担保が設定されている場合の清算価値に算出の問題です。
これについては、競売実務と密接に関連するといわれています。
(1)最高裁の考え方
共同担保が設定された所有者が異なる不動産の競売について、民法392条1項が適用されることを認めていると解されています。
即ち、この場合「売却された各不動産の価格に応じて被担保債権を案分して割り付け、不動産ごとの被担保債権の負担額を定め、この負担額を上限として配分するのであり、各物件の所有者が異なる場合、民事執行法86条2項、188条が適用されることになるとします。
(2)相談の事例
相談事例では、代表者は、次の査定を取得しました。
義父所有の土地 金1080万円
相談者所有建物 金925万円
住宅ローン残債務 金1903万円
なお、相談者の建物が建つ土地は、宅地化を抑制された調整区域内にあることなどから。不動産業者の査定では、本件一戸建て建物売り出し価格としては、総額1880万円から2080万円あたりとのことでした。
住宅ローンの残額は、正に、この売り出し価格内に収まっているようですので、土地建物を売却すれば、住宅ローンを完済できる見込みがあります。
また、不動産登記の抵当権の欄を確認しましたところ、債務者の欄には、代表者と義父の方との連帯債務であるとの表示がなされていました。
(3)使用借権付建物の評価
相談者は、義父に対して、地代を一度も支払っていません。
建物敷地の土地の固定資産税は支払っているかもしれないとのことでした。
執行実務において、使用貸借契約に基づく土地利用権の評価額は、事案にもよりますが、一般には、土地の価格の1割程度とされています。
(4)相談者の配偶者による買取
相談者の配偶者は、正社員として10年以上勤続しています。
そこで、自宅不動産を残ローン額以上の価格で購入することで、自宅の維持をはかろうとしています。
(5)建物だけの買取の場合、土地及び建物の買取の場合
法人の自己破産とともに、代表者個人も自己破産やむなしと覚悟している代表者は、住宅ローン付き個人再生手続きの利用が不可能であるために、自宅を手放さないために、配偶者の購入してもらうこととし、その購入代金のローン融資を受けて、代表者の住宅ローン返済をするものです。
① 代表者(夫)の建物をローン残額で購入するとした場合の問題
代表者の建物の評価額は、925万円相当と査定されています。
これを残ローン額1900万円以上で購入したいとの金融機関のローン審査が通るかという問題があります。
他方、上記のローン負担は代表者と義父の方の連帯債務であることから、代表者の不動産処分により、義父の方のローン負担が消滅する帰結となることから、偏波弁済として、将来の代表者の管財事件において、管財人により、否認権が行使され、義父の方には相当額の返還、つまり、財団組入を求められることが懸念されました。
② 代表者(夫)の建物と実父の土地をローン残額で購入する場合
1900万円の連帯債務の担保となっている、建物と土地を併せて、残ローン以上で、代表者の配偶者が購入することが相当であることがわかります。
おそらく、代表者の義父の方は、娘婿に、敷地土地を提供して、住宅を建てさせ、底地土地については、将来の相続が発生した際には、実娘に相続させることを企図していたものと推測されます。
(6)代金の割り付け
購入代金を1900万円とします。
これを、代表者の建物と義父の土地に割り付けることになります。
なお、使用借権価格(底地の10%相当)は、無視して計算してみます。
建物査定額925万円:土地査定額1080万円
購入代金(残ローン)1900万円
建物分826万相当、土地1023万円相当となります。
(7)親族の買取によらない場合
本件で、親族が住宅ローンの負担付の住宅(土地建物)を買取とならない場合に、法人の自己破産と、代表者の自己破産になった場合、次のとおりとなります。
① 代表者の所有は建物のみであること。
建物敷地の土地は、義父の方の所有です。
建物の、土地利用関係は、使用貸借関係です。
② 破産管財人の管理処分権が及ぶ範囲
破産管財人は、破産者となった代表者名義の建物の管理処分権を有しますので、本件建物の任意売却を考えます。
建物査定額を参考とすると、建物の売却処分だけで、残ローンを賄うことは不可能と考えられます。
また、土地利用の関係が義父と娘婿という親族の情誼関係に基づく使用貸借関係ですので、第三者が取得する場合、賃借権を設定するならともかく、使用貸借関係の終了を望むはずです。
③ 土地建物一括での任意売却への協力打診
管財人としては、敷地土地の所有者である義父の方の同意を得て、土地建物の一括での任意売却を検討しますが、義父の方が同意するかどうかは自由ですので、強制できません。
管財人としては、できるだけ早期に換価処分を済ませ、配当の可否を見込むことになります。
見込がない場合には、破産手続については、異時廃止として終了させざるを得ません。
破産した代表者名義の建物については、換価による財団増殖が見込めないなどを理由として、破産財団から放棄することの許可を求め、破産裁判所は許可することになります。
④ 住宅ローン債権者の対応
住宅ローン債権者は、債権回収のために、担保物競売の申立ても視野に入れた上で、連帯債務者である義父の方にも、本件土地建物の任意売却を打診すると予想されます。
義父の方は、物上保証人ではなく連帯債務者という特殊性があります。娘婿は破産手続に引き続く、免責手続で支払い義務については免除の許可を受けるでしょうが、破産できない義務の方は連帯債務の支払義務を負います。
一般に、競売手続より高額売却が期待できる任意売却によって、連帯債務の完済を望む(目指す)ことになります。