農地の売却には購入者に関する制限や農地転用に関する制限があり、「農地だと売りにくい」というイメージがあります。本稿では、農地を「農地」の地目のまま売却する方法と農地を「宅地」等に転用したうえで売却する方法の2種類を、手順とともに紹介します。
農地を手放したい!農地を売却できる?
「代々農業を続けてきたが、体力的にそろそろ限界……」
「子供たちは皆会社員で、農業を継ぐ可能性もなさそうだ」
「家族だけでは広大な農地の手入れが追いつかず、耕作放棄地になりそう」
自身の高齢化や後継者不足を背景に、農業に見切りをつける農家さんは少なくありません。
農業を辞めた後で問題になってくるのが、農地をどうするかです。
そのまま保有し続けていれば、維持管理の費用や手間もかかりますし、固定資産税の負担も続きます。
そのような負担を免れるためには農地を手放してしまうのが一番なのですが、「『農地』だと売りにくい」というイメージがあります。
農地の売却が難しい理由
農地も土地ですから、売買できないわけではありません。
しかし、同じ土地でも、「『農地』だと売りにくい」と言われるのは、何と言っても農地法による制限があるからです。
購入者に関する制限
農地法による制限の最たるものは、農地を売る先(購入者)が農業委員会から許可を受けた農家(個人の農家、農地所有適格法人等)に限られる、という点です。
このため、これから農業を始めたいと考えている人が現れても、すぐに売却することが難しいのです。
それでは、もともと農業を営んでいる人に買ってもらおうと考えても、高齢化や後継者不足を背景に農業従事者は年々減っている状況ですから、そのような買い手を見つけるのも一苦労です。
近隣の農家さんに買ってもらおうとしても、農地の拡張を望んでいるとは限らず、「うちももう手一杯だから」と断られてしまうことも多いでしょう。
農地法が農地の売り先(購入者)に関してこのような制限を設けているのは、農地が国内の農業生産の基盤であり、国民や地域にとって貴重な資源であることから、農地が簡単に農地以外の使い方をされることのないようにしているのです。
農地がどんどん減り、農業が衰退してしまえば、国内の食糧自給率にも影響します。農地法の制限は、安定的な食糧確保のため、とも言えます。
農地の転用に関する制限
農地を「農地」のまま売却しようとすると、売り先(購入者)が制限されて売りにくいことが分かりました。
そこで、今度は、「農地」という地目を変更したうえで(具体的には、建物や住宅が建てられるような「宅地」に変更したうえで)売却することを考えてみます。
「農地」の地目を「宅地」に変更(転用)できれば、上記のような売り先(購入者)の制限がなくなりますので、格段に売りやすくなるはずです。
とはいえ、農地の所有者が自由に「農地」を「宅地」に転用できるわけではなく、農地を「宅地」に転用して売却するには、転用しようとする農地の所在する市町村の農業委員会を経由して、都道府県知事等の許可を受ける必要があります。
そして、この農地転用の許可を受けられるのは、特定の基準を満たしている農地だけです。
このように、農地の転用についても制限があるのは、購入者の制限と一緒で、国内における安定的な食糧確保のため、農地を無制約に減らすことのないようにという趣旨です。
それでも農地を売るには? 農地の売却方法
上記のように、農地の売却には、売り先(購入者)に関する制限や農地転用に関する制限があり、それゆえに「『農地』だと売りにくい」と言われています。
しかし、農家を廃業した(する)のに、農地をそのまま保有し続けていれば、維持管理の費用や手間もかかりますし、固定資産税の負担も続くことは先に述べたとおりです。
そこで、これらの制限はありつつも、農地を売却する際の手順を具体的に見ていきましょう。
農地を「農地」のままで売却する
先に見たように、農地を「農地」のままで売却しようとすると、その売り先(購入者)は農業委員会から許可を受けた農家(個人の農家、農地所有適格法人等)に限られます。
具体的な手順としては、
-
- STEP.01
- 購入者を探す(個人の農家、農地所有適格法人)
-
- STEP.02
- 農地を売る旨の売買契約書を取り交わす
-
- STEP.03
- 農業委員会に農地売買に関する許可申請を行う
-
- STEP.04
- 農業委員会から許可が出たら、農地を購入者に引き渡す
(権利の移転登記)
となります。
①購入者を探す
まずは、農地を購入してくれる売り先を探します。
売り先は個人の農家や農地所有適格法人等に限られるため、自分の知り合いや近隣の農家さんから候補を探したり、それが難しいようであれば、付き合いのある農協や農業委員会に相談してみたりするとよいでしょう。
普通の土地の売買のように、不動産業者に仲介を依頼する方法もありますが、全ての業者が農地の取り扱いに精通しているとは限りませんので、農地売買の経験のある業者を選ぶことが肝要です。
②農地を売る旨の売買契約書を取り交わす
購入者が見つかったら、その購入者との間で、農地を売買する旨の売買契約書を取り交わします。
この時、気を付けていただきたいのが、契約書の中に必ず、「農業委員会の許可が得られることを条件に売り渡す」(農業委員会の許可が得られない事態となった場合は、契約を白紙撤回できる)旨の条項を入れることです。
こうした条項を入れておかないと、万一農業委員会の許可が得られなかった場合にも契約に拘束されることになり、購入者から、売主としての債務不履行責任を問われることになってしまいますから、注意して下さい。
③農業委員会に農地売買に関する許可申請を行う
売買契約書を締結したら、続いて、農業委員会に農地売買に関する許可申請を行います。
農地法3条の許可申請書の他に、土地の登記簿謄本、公図や位置図、営農計画書や住民票(法人の場合は商業登記簿謄本)などの必要書類を揃えて提出する必要があります。
④農業委員会から許可が出たら、農地を購入者に引き渡す(権利の移転登記)
農業委員会から許可が出ると、許可証が交付されます。
申請から許可までにかかる時間は、自治体ごとに異なるようですが、概ね28日間~30日程度のようです。
許可証が交付されたら、購入者に農地を引き渡し、適宜司法書士に依頼するなどして所有権の移転登記手続きを行います。
ここまですれば、農地の売却は完了です。
農地転用をしたうえで売却する
次に、農地を「宅地」に地目変更(転用)したうえで売却する方法を見てみます。
農地を「宅地」に転用して売却するには、転用しようとする農地の所在する市町村の農業委員会を経由して、都道府県知事等の許可を受ける必要があり、許可を受けられるのは特定の基準を満たしている農地だけです。
具体的な手順としては、
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- STEP.01
- 売ろうとする農地の区分を確認する
-
- STEP.02
- 購入者を探す
-
- STEP.03
- 農地を売る旨の売買契約書を取り交わす
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- STEP.04
- 農業委員会を通じて農地転用の許可申請を行う
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- STEP.05
- 都道府県知事から許可通知が出たら、購入者に農地を引き渡す
(権利の移転登記)
となります。
①売ろうとする農地の区分を確認する
全ての農地を「宅地」に転用できるわけではなく、転用が認められるかどうかは、その農地の区分によって大きく異なってきます。
このため、まずは、売ろうとしている農地の区分を確認し、転用が認められるかどうか、許可の見通しを立てる必要があります。
農地の区分は、農業委員会事務局や市町村役場(農林課など)に問い合わせることで確認できます。
農地の区分と許可の方針は次のとおりです。
農用地区域内農地
市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地です。
立地基準としての許可方針は、原則として「転用不許可」です。
例外的に、農用地区域の指定用途に供する場合(農業用施設、農産物加工・販売施設等)などに許可されることがあります。
甲種農地
市街化調整区域内の、農業公共投資後8年以内の農地、または、集団農地で高性能農業機械での営農可能農地のことです。
立地基準としての許可方針は、原則として「転用不許可」です。
例外的に、
■農業用施設、農産物加工・販売施設
■土地収用事業の認定を受けた施設
■集落接続の住宅等(500㎡以内で、甲種農地以外の土地に立地困難な場合)
■地域の農業の振興に関する地方公共団体の計画に基づく施設
■農村産業法、地域未来投資促進法等による調整が整った施設
を建設する場合などに許可されることがあります。
第1種農地
10ヘクタール以上の集団農地や、農業公共投資対象農地、生産力の高い農地のことです。
立地基準としての許可方針は、原則として「転用不許可」です。
例外的に、
・農業用施設、農産物加工・販売施設
・土地収用の対象となる施設
・集落接続の住宅等(第1種農地以外の土地に立地困難な場合)
・地域の農業の振興に関する地方公共団体の計画に基づく施設
・農村産業法、地域未来投資促進法等による調整が整った施設
を建設する場合などに許可されることがあります。
第2種農地
農業公共投資の対象となっていない小集団の生産力の低い農地、または、市街地として発展する可能性のある区域内の農地です。
立地基準としての許可方針は、「第3種農地に立地困難な場合等に許可」です。
第3種農地
都市的整備がされた区域内の農地、または、市街地にある区域内の農地です。
立地基準としての許可方針は、「原則許可」です。
以上のほか、全ての区分の農地に適用される一般基準として、
■転用の確実性が認められない場合(他法令の許認可の見込みがない場合、関係権利者の同意がない場合など)
■周辺農地への被害防除措置が適切でない場合
■農地の利用の集積に支障を及ぼす場合
■一時転用の場合に農地への原状回復が確実と認められない場合
のいずれかに該当する場合には、転用は不許可となります。
②購入者を探す
売ろうとしている農地が転用可能であるとの確認が取れたら、転用後の農地を購入してくれる売り先を探します。
この時、農地を「農地」のまま売却する場合とは異なり、売り先が個人の農家や農地所有適格法人等に限られるという制限はありません。
ここでも、普通の土地の売買のように、不動産業者に仲介を依頼する方法もありますが、農地転用の手続きが控えているため、やはり農地売買の経験豊富な業者を選ぶとよいでしょう。
③農地を売る旨の売買契約書を取り交わす
購入者が見つかったら、その購入者との間で、農地を売買する旨の売買契約書を取り交わします。
この時も、契約書の中に必ず、「農地転用の許可が得られることを条件に売り渡す」(農地転用の許可が得られない事態となった場合は、契約を白紙撤回できる)旨の条項を入れることを忘れないで下さい。
④農業委員会を通じて農地転用の許可申請を行う
売買契約書を締結したら、続いて、農業委員会を通じて農地転用に関する許可申請を行います。
農地法5条の許可申請書の他に、土地の登記簿謄本、公図や位置図、建築しようとする建物または施設の図面、事業を実施するために必要な資力及び信用があることを証する書面(残高証明や融資証明)などの必要書類を揃えて提出する必要があります。
なお、面積が30アールを超える農地を転用しようとする場合には、申請を受けた農業委員会は都道府県農業委員会ネットワーク機構から意見を聴取することになっているほか、4ヘクタールを超える農地を転用しようとする場合には、都道府県知事は農林水産大臣と協議する必要があります。
⑤都道府県知事から許可通知が出たら、購入者に農地を引き渡す(権利の移転登記)
都道府県知事から許可通知が届いたら、購入者に農地を引き渡し、適宜司法書士に依頼するなどして所有権の移転登記手続きを行います。
ここまですれば、農地の売却は完了です。
申請から許可までにかかる時間は自治体ごとに異なるようですが、概ね6週間程度、ケースによっては2~3か月、さらにそれ以上かかる場合もあるようですので、余裕を持ったスケジュールを組んでおいた方がよいでしょう。
手間と時間がかかるのが農地の売却
以上、農地を「農地」のままで売却する方法と、農地を「宅地」など他の地目に転用してから売却する方法の、2種類を紹介しました。
農地ももちろん売却可能なのですが、前者では購入者が農業委員会から許可を受けた農家(個人の農家、農地所有適格法人等)に限られ、また、後者では転用に関する都道府県知事等の許可を得る必要があるなど、制約も多く、手間も時間もかかることから、通常の宅地等の売却と一緒というわけにはいきません。
それでも、廃業等により使用しなくなった農地をいつまでも保有し続ければ、固定資産税の支払いも続きますし、維持管理の負担も大変なものです。
管理の手が回らなくなり、農地の荒廃が進んでしまうと、より売りにくくもなってしまいます。
いくら手間と時間がかかるといっても、それらを理由に動き出さなければ、手元に農地が残っているという現状はいつまで経っても変わりません。
農地を手放したいと考えている方は、農業委員会の事務局や、農地売買の経験豊富な不動産業者に当たるなどして、早めの売却を試みましょう。