建設工事の途中で突然元請け業者が倒産してしまった場合、下請け業者はどうすればよいのでしょうか。報酬金は誰から支払ってもらえるのか、また、仕掛途中の工事がある場合、その工事は続行されることになるのか等、本稿では弁護士が分かりやすく解説します。
元請け業者が倒産した時、どうすればよいか?
住宅やビル等の建設工事(法律上は「請負契約」に分類されます)では、注文者から工事を請け負った元請け業者が、さらに下請け業者に工事を発注するケースが多くあります。
このように、注文者→元請け業者→下請け業者と工事が発注された契約関係の中で、元請け業者が工事の途中で突然倒産(ここでは、裁判所に破産を申し立てることを指すものとします)してしまったら、どうなるのでしょうか。
以下では、下請け業者の立場から、考えてみたいと思います。
報酬金は回収できるのか?
元請け業者が破産した場合、下請け業者として最も切実な関心事は、
「報酬金は支払ってもらえるのか?」
ということではないでしょうか。
元請け業者が破産を申し立てたということは、元請け業者は支払不能の状態に陥っている、つまり、報酬金を支払うだけの資金が残っていないことを意味します。
従って、残念ながら、元請け業者からの回収は望みが薄いと言わざるを得ないです。
では、どのように回収を図るかというと、この場合、下請け業者は、債権者代位権を行使して、破産した元請け業者に代わって、注文者に対し、報酬金を支払うよう請求することができます。
つまり、元請け業者を飛び越えて、直接、注文者に「報酬金を支払って下さい」と言える、ということです。
また、注文者から完成した物件を引き渡すよう請求された場合、下請け業者は、留置権を行使して、「報酬金を支払ってもらえていないので、その支払いを受けられるまでは、物件を渡しません」と主張して、物件の引渡しを拒むこともできます。
こうした留置権の行使も、間接的に支払いを注文者に促すことになりますから、報酬金の回収に役立ちます。
なお、元請け業者からの回収は望みが薄いと言いましたが、裁判所で行われる破産手続きの中で、配当に回せるだけの財団(破産会社の財産)が形成された場合には、下請け業者は、債権者として配当を受ける形で報酬金を(一部だけでも)回収できることもあります。
未施工の工事はどうなるのか?
元請け業者が工事の途中で突然破産してしまった場合、次に下請け業者が懸念するのは、
「現に今やっている、未施工の工事はどうなるのか?」
ということでしょう。
未施工部分の工事がどうなるのかについては、元請け業者の破産手続きにおいて裁判所から選任される破産管財人(弁護士です)の判断によるところも大きいです。
以下、具体的に見ていきます。
破産管財人の側からのアクション
破産管財人は、元請け業者と下請け業者の間の請負契約を解除することができますし、双方未履行の債務がある場合には(未施工部分があり、その部分に相当する報酬金が支払われていない)、元請け業者の債務を履行したうえで下請け業者に債務を履行するよう請求することもできます。
ここで、「元請け業者の債務を履行したうえで下請け業者に債務を履行するよう請求する」というのは、つまり、元請け業者から下請け業者に報酬金を支払ったうえで、下請け業者に工事を続行してもらうということです。
しかし、破産した元請け業者に報酬金を支払えるだけの資金は残っていないことが多いと思われますので、破産管財人としては請負契約を解除する選択をすることが多いでしょう。
なお、破産管財人から請負契約を解除された場合で、契約の解除によって損害が生じた場合には、下請け業者はその損害の賠償を請求することができます(その損害賠償について、破産手続きにおける配当に参加することになります)。
下請け業者の側からのアクション
下請け業者は、工事が完成する前であれば、元請け業者との請負契約を解除することができます。
また、双方未履行の債務がある場合には(未施工部分があり、その部分に相当する報酬金が支払われていない)、下請け業者は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、契約の解除をするか、債務の履行を請求するかを選択するよう催告することができます。破産管財人がその期間内に、どちらを選択するか確答しない場合は、請負契約を解除したものとみなされます。
請負契約が解除された場合のその後
このように、破産管財人の側からも、請負人の側からも、請負契約は解除されることが多いです。
請負契約が解除されれば、下請け業者はそれ以上、工事を続行する必要はない(工事は仕掛途中で終了)ということになります。
そうすると、次に問題になるのは、仕掛途中の工事の目的物がどうなるか、です。
通常の請負契約であれば、契約書に「工事の完成前にこの契約を解除したときは、発注者が工事の出来形部分を引き受けるものとする」等の規定があると思いますので、仕掛途中の工事の目的物は発注者、つまり、破産した元請け業者のものということになり、破産財団に組み込まれます。
ここで、元請け業者からすでに報酬金が前払いされている場合には、清算作業が必要です。
すなわち、「前払いされた報酬金の額」と「仕掛途中の工事の目的物(出来高)の査定金額」を比較し、
■「前払いされた報酬金の額」の方が高い場合
下請け業者は、破産管財人に対し、差額を返還しなければなりません。
■「仕掛途中の工事の目的物(出来高)の査定金額」の方が高い場合
下請け業者は、その差額部分についてのみ、破産債権者として破産手続に参加することになります。
請負契約が継続した場合のその後
これに対し、数は少ないものの、(下請け業者が請負契約の解除をせず)破産管財人が債務の履行を選択した結果、請負契約が継続する場合があります。
この場合、工事は続行ということになりますので、下請け業者は工事を最後まで完成させなければなりませんし(完成した目的物は破産財団に組み入れられます)、元請け業者はそれに対して報酬金を支払わなければなりません。
ちなみに、この場合の下請け業者の報酬金請求権は財団債権となりますので、一般的な破産債権よりも優先順位が高く、破産手続によらずに、元請け業者の財産から随時弁済を受けることができます。