自らの会社が破産する場合の従業員への説明・対応について

当事務所では、法人破産の相談に来所され、法人代表者の方から、事業の内容、負債の状況、資金繰りの事情をお聞きするとともに、雇用されている従業員の内訳、正社員、パート・アルバイト従業員、派遣社員などの有無、人数と、賃金の支払い状況を確認します。

そして、代表者からうかがった事情では、やはり、会社法人においては自己破産によるほかないとの判断に至った場合、会社法人の事業の廃止時期、そして、従業員への対応などの内容、手順を説明します。法人代表者の方に従業員に説明してもらう場合の内容や、代理人弁護士から説明する場合などを想定し、ご説明しています。

そのためには、ご相談・ご依頼いただく法人破産の申立てにおいて、裁判所に対して申立をするまでに、何をどのように行うかを精査します。

事案によっては、破産申立予定日を設定し、従業員、債権者にも破産申立準備予定であることを内密にして、申立準備を整え、破産裁判所と事前協議して、破産申立をする場合もあります(これを一般に「密行型」による破産申立といいます)。

しかし、ほとんど多くの場合には、会社法人の事業の廃止予定日を策定し、事業廃止により解雇を通告する従業員に対する説明をいつするかを決めることになります。

破産申立を決意した会社法人の代表者の方に、従業員説明をしてもらうこともあります。

代理人弁護士が従業員説明会に参加して、代表者の代わりに説明する場合には、主に、次の内容をご説明し、その他、従業員からの質問に対応しています。

まず、従業員の皆様が勤務する当該企業が破産に至った経緯、その時点で把握している財産状況、特に負債総額、そして、従業員の皆様が最も関心のある、今後の給与・退職金、解雇予告手当の有無、未払い賃金などの、従業員の生活の糧である賃金全般の話や、雇用保険(失業保険)、社会保険などを丁寧に説明します。

勤務先の倒産による不安を抱えている従業員の皆様、その不安をできるだけ払しょくできるように、また、倒産する企業から解放され、転職活動に円滑に望めるようにご説明することを心掛けています。

1 従業員をいつ解雇するか

(1)どの段階で解雇するかの判断

(1)どの段階で解雇するかの判断

会社法人の自己破産やむなしと判断した場合、どの段階で従業員を解雇するかについては、下記の事情を考慮して、「会社に残ってもらう必要があるか否か」によって決めます。

① 事業停止の時期をいつとするか。

② 残務の処理はどれくらいあるか。

従業員なくして、代表者(経営陣)のみで可能か。

③ 売掛金の精査などの経理関係の処理

従業員なくして、代表者(経営陣)のみで可能か。

④ 破産手続の開始後の破産管財業務への協力・関与の要否

破産管財人の業務に、元従業員の関与が必要な業務があるか。

(2)破産申立前の全員解雇の選択

(2)破産申立前の全員解雇の選択

破産する会社法人の残務などに従業員に残ってもらう必要がない場合には、破産申立前に全員解雇します。

これにより、早期に失業保険給付を受けられるようにし、転職活動に励んでもらいます。

また、全員解雇するも、残務処理のために、特定の従業員を、期間を限定して再雇用し、賃金を支払い、円滑な破産申立準備に協力してもらうこともあります。

2 従業員に対する説明会の開催

(1)従業員説明会の日時の設定

解雇に当たり、従業員の人数が多い場合には、日時を定め、従業員説明会を設けます。

法人破産の相談、ご依頼を受ける中で、事業の廃止日、従業員の解雇日を定め、それに合わせて、従業員説明会の日時を調整することが多いです。

(2)従業員説明会において説明する事項

(2)従業員説明会において説明する事項

従業員説明会では、次の事項を説明します。

① 従業員の皆様が勤務する勤務先会社が破産手続申立をなし、破産すること。よって、従業員は解雇となることを説明します。

② 従業員の給料、退職金、解雇予告手当について説明します。

③ 雇用保険(失業保険)について説明します。

④ 社会保険について説明します。

⑤ 住民税についての徴収方法の変更について説明します。

従業員の住民税が勤務先から支給される給与から徴収され、市町村役場に納付されていた特別徴収から、各従業員自らが住民税を支払う普通徴収への変更となることを説明します。

(3)従業員に対する解雇の通告(通知)

(3)従業員に対する解雇の通告(通知)

この従業員説明会では、各従業員に対し、解雇の通告をします。

口頭(言葉)による通告でも有効です。

しかし、従業員が雇用保険の支給を受ける際には、解雇通知書があると、「解雇による失業」であることがその通知書で証明できるため、会社が「解雇通知書」をできれば事前に用意して、従業員に交付します。

従業員には、解雇通知書を交付します。

ただ、実務上は、同じ内容の記載した書面の下部に、従業員の受領証付きのものを作成し、破産申立の際に用いるものとして、従業員が解雇通知を受領したことを明らかにし、従業員の退職日を確定させることをすると便宜です。

これに代えて、受領の一覧表への従業員に署名押印してもらうこともあります。

3 解雇に当たって留意すべきこと

3 解雇に当たって留意すべきこと

当然ながら、従業員に対する解雇を通告する場合には、会社側での事前の準備が不可欠です。

(1)解雇前に必要とされる準備

(1)解雇前に必要とされる準備

従業員を解雇するにあたっては、下記の準備が必要です。

① 解雇予告手当の計算

② 未払い賃金の計算

③ 解雇通知書の作成

(2)源泉徴収票の作成、交付

(2)源泉徴収票の作成、交付

解雇された元従業員は、源泉徴収票が必要となることがあります。

元従業員が、確定申告を行う場合や、再就職先での年末調整を行う場合には、元の勤務先(破産した会社)での源泉徴収が必要となるからです。

ただ、破産申立を準備する会社法人にとっては、事業の廃止、従業員への解雇の通告などを一時に行うことになりますことから、実際に給与支払し、源泉徴収したところまでを作成しておきます。

これを解雇と同時に交付できるように準備します。

解雇と同時に交付できない場合には、解雇後なるべく早く作成し、速やかに交付できるようにしなければなりません。

(3)離職証明書等の提出

(3)離職証明書等の提出

① 離職票の役割

解雇された元従業員が、失業保険を受給するためには、公共職業安定所(ハローワーク)に離職票を提出する必要があります。

② 離職票の入手方法

離職票を元従業員に交付するためには、離職票を入手しなければなりません。

会社がハローワークに雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届を提出すると、ハローワークから、会社に対して、離職票が交付されます。

こうして交付された離職票を会社が元従業人に交付することになります。

③ 解雇理由

解雇理由については、会社事業の廃止、破産申立のためですから、「会社都合」とします。

これにより、元従業員は失業手当を有利に受給することができます。

(4)住民税の異動届

(4)住民税の異動届

従業員の住民税は、会社が給与から天引きして、元従業員の住所地の市町村に納税しています(特別徴収)。

会社の破産に伴い、この特別徴収から、元従業員が市町村役場に直接納付する、普通徴収の方法に切り替える必要があります。

(5)資格喪失届の提出

(5)資格喪失届の提出

従業員は、解雇されたことに伴い、社会保険・厚生年金から、国民健康保険・国民年金に切り替える必要があります。

なお、従業員が、任意継続を希望する場合には、従業員が、任意継続被保険者資格取得申請をすることになります。

上記の切り替えのために、会社は、被保険者資格喪失届、事業者自体の資格喪失届(適用事業所全喪届)を年金事務所に提出します。

(6)健康保険被保険者証の回収

(6)健康保険被保険者証の回収

会社が社会保険に加入している場合、破産すると健康保険証が使えなくなります。

解雇後に、健康保険証を使用すると、年金事務所から保険適用部分の請求が来ます。

年金事務所から加入一覧表を入手して、従業員から回収していきます。

健康保険証は使えませんので、全額自己負担となる自費診療を避けるためには、直ちに別の健康保険に加入する必要があります。

この問題については、従業員からよく質問される事項です。

4 給与などについての丁寧な説明、迅速な破産申立て

4 給与などについての丁寧な説明、迅速な破産申立て

会社法人の経営者が、法人の自己破産を決断し、従業員に、会社の廃業・自己破産と、全従業員の解雇を告げます。

(1)従業員に対する給与などの説明

従業員は、勤務する会社が破産する以上、事業廃止もやむを得ない、解雇されるのもやむを得ないと理解を示してくれる場合がほとんどです。

しかし、やはり、従業員が労働を提供した対価としての、給与の支払や、給与の後払い的性格を有する退職金の支払いの可否、そして、解雇予告手当については、どのような対応となるかを丁寧に説明することになります。

(2)未払い給与の有無

未払い給与の有無は、会社代表者などの経営陣などからの事情の聴取や、タイムカードの計算などから判断することになります。

未払い給与が生じる場合、破産手続の開始前3カ月間の給与分は、財団債権となります。

これは、破産手続においては、最優先で支払われる債権であること、さらに、未払賃金立替払制度があることを丁寧に説明します。

(3)未払賃金立替制度

この未払賃金立替払制度の対象となる人は、破産申立の日の、6か月前から2年の間に退職した人となります。

破産申立てが遅れて、退職後6カ月以上経過した後の申立てがなされた場合、この制度の利用ができません。

この制度の利用が不可欠な事案である場合には、依頼者の協力をえて、できるだけ迅速な申立を行うことになります。

5 まとめ

5 まとめ

従業員の皆様に対する対応など、法人破産は、しっかりとした計画を立て、決断をしなければなりません。

相談し、依頼した弁護士としっかり協議し、他の制度の利用も比較検討した結果、やはり、法人破産やむなしと決断した場合には、まず、従業員対応としての従業員説明会、破産申立て時期ないし予定日を設定し、それに向かって、準備をすることになります。

6 ご相談 ご質問

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉

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