マンション管理組合は、法律上、建物そのもののみならず、その敷地についても管理を行う存在として定められています。したがって、敷地の管理不足により第三者に損害を与えた場合、同第三者との間でマンション管理組合が法的紛争関係になってしまうこともあります。今回は、マンションの斜面地の擁壁が崩れて通行人が死亡してしまったという事故についてその管理会社が遺族から損害賠償請求を受けたという事案について、実際にどのような内容で、どのような判決が出されたのかを、「その3」として解説していきます。

マンションの管理に関する近時の裁判例 その3

マンションの管理組合が、マンションの斜面地の擁壁が崩れて通行人が死亡してしまったという事故についてマンション管理会社に対し損害賠償請求がなされた事案
(請求認容)
(横浜地方裁判所令和5年12月15日判決)

事案の概要

当事者

 原告らは、神奈川県逗子市内にある斜面地の崩落に巻き込まれ死亡した方の相続人でした。原告らは、その崩落が生じた斜面地はマンションの敷地の一部であったとして、当該マンションの管理会社に対し損害賠償請求しました。

具体的には、マンション管理会社の担当者は本件斜面地の直下を通行する通行人に注意喚起をするなどして本件事故の発生を防止する義務があったにも関わらず、これを怠ったので、その使用者責任として民法715条又は709条、710条、711条に基づき、当該担当者と連帯して、事故により死亡した方の損害を賠償するよう求められました。

本件の争点

本件の争点としては、本件斜面地を管理するマンション管理組合との間で管理委託契約を締結して管理業務を行っていたマンション管理会社の担当者に、他者から本件斜面地の上部にある平面部に亀裂があることを報告されていたことを受けていたことをもって崩落の発生を予見できたか、そして本件斜面地の直下にある道を通行する第三者の生命、身体等に損害を生じさせないように、本件道を管理する市に連絡したり、通行人に注意を喚起したりするなど、本件事故の発生を防止する義務を負っていたか、そして管理会社はその義務を怠っていたか、という不法行為責任の有無が挙げられました。

 これに対し、マンション管理会社は、そもそも本件管理委託契約に本件斜面地の管理は含まれないこと、担当者は管理会社の従業員に過ぎず、第三者との関係で何らの義務も負わず、本件亀裂の報告によっても事故発生は予見できなかったとしてその不法行為責任を否定する主張をしました。

判決要旨

 上記の争点に対し、裁判所は以下のとおりの判断をしました。

裁判所は、

「本件管理委託契約に係る契約書(以下「本件管理委託契約書」という。)には、管理対象部分として敷地が記載され、敷地には本件斜面地も含まれていたが、管理業務として本件斜面地の点検、検査等は明記されていなかった」

としつつ、

「管理会社は、本件マンションについて毀損、瑕疵等の事実を知った場合には速やかにその状況を本件組合に通知すべき義務を負って」おり、本件亀裂の認識は本件マンションについての毀損、瑕疵等の事実に当たると解される、としました。

 さらに、

「災害又は事故等の事由により、本件組合のために、緊急に行う必要がある業務で、本件組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、本件組合の承認を受けないで実施することができるものとされていた」ということも認定しています。

 その上で、

ある人物が本件亀裂を発見し、大雨でも降ったら大変なことになるのではないかと考え、本件管理会社の従業員に対し「対応を相談して指示を仰ぐべき」と判断して写真をメールで送信し、電話で相談したが、同従業員は、「県土木事務所や本件委託業者のいずれに対しても本件亀裂の存在を伝えたり、対応を相談したりすることはなく、当日は、調査及び対応の必要はないと判断して、その他の対応をとらなかった。」

としました。

 本件亀裂については、

「がけ崩れ(崩落)の前兆現象として、ひび割れ(亀裂)の存在があることは一般的な知見である」として、マンション管理組合の責任として

「本件組合らは、本件亀裂が土地の工作物の瑕疵に当たることから、本件事故について、民法717条1項の責任を免れない。」

と判断しています。

 マンション管理会社の責任としては、

「本件管理委託契約上、本件マンションの亀裂、瑕疵等の速やかな通知義務又は本件組合のため緊急性の高い業務を行う権限と義務を有して」おり、「本件斜面地の崩落の危険性を発見したときには、本件組合に生じる損害を防止する義務を負っている」し、その義務を履行しない場合には、「本件斜面地の崩落によって、・・・通行人に対してその生命、身体の安全を損なうこととなる重大な結果が発生する」ところ、「管理会社従業員には・・・道を管理する逗子市に連絡して、通行禁止の措置を求めたり、・・・コーンを置いて通行人に注意を呼びかけたりする措置をとるなど事故発生を回避する措置をとることは可能であった」とした上で、「亀裂に関する一般的な知見の存在及びそれに沿う管理会社従業員の認識を踏まえると、合理的な判断ができる通常人であれば、本件亀裂の存在、専門家に対する相談及び調査の不存在によって、亀裂発見から約22時間後の崩落の危険性が否定できないことを認識することができる。」としました。

 以上の事実認定を基に、マンション管理会社側は、

「上記義務を負っていながら、結果回避措置をとっていないので条理上の義務を怠ったものとして、過失責任を免れない。」

と結論付けました。

本裁判例のポイント

 以上、この裁判例の要点をまとめると、以下のようになるかと思います。

☑管理委託契約書には、管理対象部分として敷地が記載され、敷地には本件斜面地も含まれながら、管理業務として本件斜面地の点検、検査等は明記されていなかったとしても、管理会社がマンションについて敷地の亀裂などの毀損、瑕疵等の事実を知った場合には管理組合に通知すべき義務が生じる場合がある。

☑ひび割れ(亀裂)の存在が、がけ崩れ(崩落)の前兆現象であることは、一般的な知見であって、亀裂の存在から崩落の危険性を認識することができ、何らの根拠もなく何らの対応もしないことは、「不合理」とされてしまう。

☑以上の予見可能性があったにもかかわらず結果回避措置をとっていないのであれば、マンション管理会社は条理上の義務を怠ったものとして、過失責任を免れない。

 マンション管理会社に対しては、大変厳しい結果となっていますが、管理委託の対象となるのか、そしてどこまでの対応を求められるものなのかは、管理委託契約締結に当たり曖昧にせず、明確にすべきといえるでしょう。

 また、本件裁判例では「本件マンションを新規購入した区分所有者らは、本件斜面地が安全なものであり何らの点検、管理も不要なものであると認識するとともに、点検、管理が必要であれば、本件被告会社(管理会社)から、本件管理委託契約に基づき適切な助言があるものと考えていた。」と認定されていますが、管理組合自身も「本件亀裂が土地の工作物の瑕疵に当たることから、本件事故について、民法717条1項の責任を免れない。」とされています。

したがって、マンション管理組合にとしても、敷地の管理も含めて「マンション管理会社に任せきりにしない」ということも重要でしょう。


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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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