不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を確保し、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として制定された法律であります。
令和5年6月に一部改正され、令和6年4月等に施行されたことから、企業側にとっては重要な改正情報かと思われます。
本ページは、新たに改正された条文について弁護士が詳細に説明したページとなっております。
主な改正項目
今回の法改正は、
・デジタル空間における商品形態の模倣行為に対する規制
・営業秘密の保護強化・限定提供データの保護範囲の拡大
・外国公務員贈賄の罰則等の強化
・損害賠償算定規定の拡充
4つがメインの改正であります。
以下では、各項目について詳細に説明します。
デジタル空間における商品形態の模倣行為に対する規制
不正競争防止法第2条第1項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を「不正競争」と位置づけ規制しております。
近年、デジタル空間(メタバースなどの仮想空間)における取引が活発化していることを受け、旧法では上記空間での模倣事例に対応できないのではないかといった課題がありました。
その結果、改正法では、「商品の形態」について有体物の形態のみならず、デジタル空間(たとえばメタバースなどの仮想空間)においても、他人の商品の形態を模倣することもありうることから、このような空間の商品の形態を保護対象とし、デジタルの商品の形態模倣行為が規制の対象と定められました。
不正競争防止法第2条第1項3号
「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可三他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」
営業秘密の保護強化(具体的には限定提供データの保護範囲の拡大)
限定提供データとは、特定の者に反復継続して提供することが想定されている電子化されたデータ(同法第2条第7項)のことをいいます。
同法第2条第7項
「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)」
この「秘密として管理されているものを除く」との要件は、営業秘密との保護の重複を避けるために規定されたものですが、この要件があるために、「秘密として管理されている」ものの、「公然と知られている」情報は、営業秘密と限定提供データいずれの制度でも保護されないという事態が生じているとの指摘がありました。
そこで、改正法では、同法第2条第7項の「秘密として管理されているものを除く」との要件を「営業秘密を除く」と改正することにより、この問題を解消しました。
外国公務員贈賄の罰則等の強化
不正競争防止法第18条では、知的財産に関する保護規定だけでなく、OECD外国公務員贈賄防止条約に基づく外国公務員贈賄に関する規定が定められています。
改正前は、海外における外国公務員に対する贈賄行為について、日本国民に対してのみ日本の同法の外国公務員贈賄罪の対象としていましたが、改正により国籍を問わず外国公務員贈賄罪の対象となりました。
したがって、外国人従業員が外国で外国公務員に対して贈賄行為を行った場合でも、日本の同法の外国公務員贈賄罪の対象となります。
また、外国公務員贈賄罪は法人両罰規定が定められていることから、贈賄を行った外国人従業員個人だけでなく、使用者である法人も両罰として10億円以下の罰金刑が科される可能性があります。
損害賠償算定規定の拡充
不正競争防止法違反に基づき損害賠償請求をする場合、違反行為によって生じた損害額の立証責任は、請求者(つまり被害者側)にあります。
不正競争による営業上の利益の侵害による損害の額を立証することは困難であることから、被害者の立証負担を軽減するため、同法第5条では、他の知的財産法と同様に損害額を推定する規定が設けられています。
同条第1項では、侵害者が譲渡した物の数量に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じた額を、被侵害者の損害の額と算定すると定められていましたが、「特許法改正により導入された、権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害の認定規定が整備されていない」、「 侵害者が「物を譲渡」した場合には適用できるものの、侵害者が「役務を提供」する場合に適用できないなどの課題が指摘されていました。
そこで、改正によって、
・特許法改正に合わせた、権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害の認定規定の整備
・ 侵害者が「役務を提供」している場合にも適用できることの明確化
・「技術上の秘密」に限らない営業秘密全般が侵害されたときに適用できることに関する整備
が行われました。
その他、本改正により国際裁判管轄規定の創設・日本法の適用範囲の明確化など規定について改正が行われました。
まとめ
不正競争防止法の改正について説明いたしましたが、今後技術発展に伴いさらに改正が行われることが予想されます。
企業にとっては、法律改正によって業務形態・リスク管理等に影響することが予想されるため、常に関係法令の改正に目を配る必要があると思われます。