労働基準法には労働者を雇用するにあたり使用者が守るべきルールが多く定められています。

使用者の立場として基本的には労働基準法違反とならないように対応をしていきますが、定められたルールのすべてに万全に対応することは容易ではありません。

今回は、労働基準法と違反事例について解説をしていきます。

労働基準法

労働基準法は、従業員の労働条件の原則的な部分や最低の基準を定めた法律です。

正社員のみならず、パート・アルバイト、派遣労働者、外国人労働者などについても適用があります。

労働基準法における罰則

使用者が労働基準法に違反した場合、その違反の内容に応じて、労働基準法は以下の罰則を用意しています。

1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金

・暴行、脅迫、監禁など不当な手段を用いて、労働者の意思に反して強制的に労働させた場合(強制労働の禁止違反)

1年以下の懲役または50万円以下の罰金

・法律で許される場合でないのに他人の労働に介入して利益を得た場合(中間搾取の廃除違反)

・満15歳に達した日以降の最初の3月31日が終了していない児童を労働させた場合(最低年齢違反)

・満18歳未満の者を坑内で労働させた場合(年少者の坑内労働の禁止違反)

・満18歳以上の女性を坑内で労働させた場合(女性の坑内労働の禁止違反)

6月以下の懲役または30万円以下の罰金

・労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取り扱いをした場合(均等待遇違反)

・労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取り扱いをした場合(男女同一賃金原則違反)

・労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償を予定する契約をした場合(賠償予定の禁止違反)

・労働者が業務上負傷し、または疾病にかかったために療養休業する期間及びその後の30日間、また、産前産後の女性が休業する期間及びその後30日間に解雇した場合(解雇制限違反)

・労働者を解雇するにあたり、30日前の解雇予告、または、30日前に解雇予告をしない場合に30日分以上の平均賃金を支払わない場合(解雇予告手続違反)

・労働者について36協定を締結しない状態で、休憩時間を除き、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させた場合(労働時間規制違反)

・労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩時間を与えない場合(休憩時間付与違反)

・労働者に対して少なくとも週に1回の休日を与えない場合(休日付与違反)

・労働者の労働時間を延長し、または休日に労働させた場合に、所定の割増率で計算した割増賃金を支払わない場合(割増賃金規制違反)

・雇い入れの日から6か月継続勤務し、労働日の8割以上出勤した労働者について10日の有給休暇を与えない場合(有給付与違反)

・6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合に当該女性を働かせた、または、産後8週間を経過しない女性を働かせた場合(産前産後休業違反)

・労働者が労働基準法違反を労働基準監督署に申告した場合、申告したことを理由として解雇その他不利益な取り扱いをした場合(申告者に対する不利益取扱いの禁止違反)

など

30万円如何の罰金

・労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時時間その他の労働条件を明示しない場合(労働条件の明示義務違反)

・労働者に対して、賃金の全額を支払わない場合(賃金支払義務違反)

・使用者の責に帰すべき事由による休業となる際、労働者に平均賃金の60%以上の手当を支払わない場合(休業手当支払義務違反)

・常時10人以上の労働者を使用しているが、就業規則を作成していない、または、作成した就業規則を労働基準監督署に届け出ていない場合(就業規則の作成・届出義務違反)

・就業規則の作成または変更について、労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者の意見を聴取しない場合(就業規則作成時等の労働者代表の意見聴取義務違反)

・事業所ごとに賃金台帳を作成しない、また、賃金計算の基礎となる事項を記入しなかった場合(賃金台帳作成義務違反)

など

労働基準法違反について罰則が科されるまでの経過

罰則の定めがある労働基準法違反のうち、割増賃金の未払いや就業規則の作成がされていないといったトラブルはそれなりに件数が多いように思われますが、そのすべてについて罰則が科されているわけではありません。

労働基準法違反が罰則に至るまでには以下の経過を辿ります。

労働者からの告発・通報、労災事故の発生に伴う労働基準法違反事実の発覚

労働基準法違反が発覚するパターンとして最も多いのが内部の労働者からの告発・通報です。

また、事業場で労災事故が発生し、その災害調査の中で労働基準法違反が発覚するということもあります。

労働基準監督署による調査

労働基準法違反事実の調査のため、労働基準監督官が事業所に立ち入り調査を行います。

調査では労働基準法違反に関する証拠(雇用契約書、タイムカード、給与明細等)の確認や使用者や労働者に対する聞き取りが実施されます。

労働基準監督署からの是正勧告

労働基準監督官による調査の結果、労働基準法違反事実が認められる場合、労働基準監督署から使用者に対して違反状態を改めることを求める是正勧告が発せられます。

使用者が是正勧告に従い改善に向けた対応を取る場合、是正勧告により労働基準法違反状態が解消されることになります。

刑事事件として立件・検察官への事件送致(送検)

使用者が労働基準監督署の是正勧告に従わず労働基準法違反行為を放置もしくは継続する場合、労働基準監督官には労働基準法違反事件に関して警察官と同じ役割がありますので、労働基準法違反を刑事事件として立件する可能性があります。

立件された刑事事件は検察官のところへ送致され刑事裁判とするか否かの判断(起訴・不起訴の判断)を受け、刑事裁判となった場合には労働基準法が定める罰則の範囲内で刑罰が科されることになります。

なお、労働基準法違反が刑事事件として立件され検察官に送致されると、事案の性質によっては労働局から企業名が公表されることがあり得ます。

実際に公表がなされたケース

厚生労働省は各年、各都道府県労働局が公表した労働基準関係法令違反をとりまとめたデータをホームページに掲載しています。

令和5年6月~同6年5月の間に公表された違反事例のうち、純粋な労働基準法違反事件の一例を以下に示します(その他のケース及び具体的な社名等は厚生労働省のホームページ「労働基準関係法令違反に係る公表事案」において確認できます)。

・労働者1名に、労働条件締結の際、書面により労働条件を明示しなかった。

・労働者2名に、月100時間以上の違法な時間外労働を行わせた。

・労働者1名に、月平均80時間を超える違法な時間外・休日労働を行わせた。

・労働者3名に、36協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行わせた

・有効な36協定締結・届出を行うことなく、労働者8名に違法な時間外労働を行わせた。

・労働者2名に係る賃金台帳を調整していなかった。

・労働者3名の賃金台帳に真正な労働日数を記入しなかった。

・賃金台帳に労働日数の一部を記入していなかった。

・労働基準監督官の尋問に虚偽の陳述を行った。

・年に5日の年次有給休暇について、その時季を定めることにより与えなかった。

・労働者4名に、2か月間の定期賃金合計約224万円を支払わなかった。

・就業規則を常時作業場の見やすい場所へ掲示する等の方法により周知していなかった。

・解雇理由証明書の交付を請求されたにもかかわらず交付しなかった。

・労働者1名に、5か月分の休業手当合計約62万円を支払わなかった。

・労働者2名に、時間外労働に対する割増賃金を支払わなかった。

・労働することを条件に金銭を貸し付け、その前借金と賃金を相殺した。

など

まとめ

今回は、労働基準法と違反事例について解説をしてきました。

従業員を雇い、会社を経営する上で避けては通れないのが労働基準法への対応ですが、労働基準法違反は思うより身近に存在すると考えておいた方がよいかもしれません。

労働基準法違反=罰則ということではありませんが、対処を誤ると会社経営に大きなダメージを与えることにもなりかねませんので、労働基準法違反が発覚した場合にはその時点で意識を改め適切な対処を行うことが重要となります。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

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