「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」は、買主が売主に対し対応を求めることができるとされており、これを「契約不適合責任」と呼んでいます。特に、目的物が不動産のような高額な対価を伴うことが多いものの場合、売主は売却に際してこの契約不適合責任についてよく知っておく必要があると思われます。そこで今回は、不動産売買に関する不適合責任について解説します。

不動産売買契約における契約不適合責任とは

契約不適合責任の内容

契約不適合とは

 契約不適合とは「契約当事者の合意や契約の趣旨に照らして、通常または特別に予定されていた品質や性質を欠く場合」だとされています。2020年(令和2年)の民法改正前は、「瑕疵」と呼ばれ、瑕疵に基づく責任を「瑕疵担保責任」と呼んでいましたが、「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」の間に、内容の違いはありません。

 実際の契約により、何が「契約不適合か」ということは異なり、例えば「食器」を目的物にするとしても、その食器が「新品」で「お店で売ったり、使ったりする目的で売買したもの」は、キズや汚れがないものと期待して売買していると考えられるのに対し、「骨董品・中古品」などであることを前提に売買したものは、多少のキズや汚れがあることも当然の前提として合意をしているはずです。

このように同じ商品を対象とした売買契約でも、その契約の中身によって、何が契約不適合なのか、ということは変わってきます。

通常の品質よりも高い性質を求める合意をしていた場合

通常であればこの程度の品質で十分である、という評価を「中等の品質」などと呼ぶことがありますが、これは他の同種類の物と比べ遜色のない状態にあればよいということになります。ただ、実際の取引の中では「最新の安全機能を有する自動車」であるとか「最新の耐震構造を備えたマンション」といった、通常よりも高い水準の品質を要求する合意をすることもあります。

その場合は、仮に通常の品質(中等の品質)の目的物を用意しただけでは足りず、それでは「契約の内容に適合しない」ということになります。

また、特に契約の中に目的物の品質につき明確な定めをしなかった場合は、契約の目的や契約締結までの経緯などの一切の事情を考慮して「契約に適合するものは何か」ということを明らかにする必要があります。

基本的には、上記「中等の品質」があれば契約の目的などに合致しているといえることが多いと思いますが、このような疑義を生じさせないためにも、目的物に一定の水準を求めるときは、それを契約書に明記しておくべきでしょう。

どの時点で「契約の内容」を判断するか

基本的には、何が「契約不適合」といえるかという契約内容の判断は、「契約時における事情」に基づくものとされます。これは具体的な契約とそれをめぐる事情に着目するという考え方かすると、やはりその「契約をしたとき」の認識が重要であるということから導かれる基準時といえます。

契約不適合があった時の対応について

 民法上の規定では、契約不適合があった場合に買主側が要求できる内容、逆に言えば売主が対応すべき義務として以下の内容が列挙されています。

①追完請求(修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)

②代金減額請求

③損害賠償請求

④契約の解除

①追完請求について

買主が「目的物を直せ」と求めたり、代わりのものに替えて欲しいという代物請求、数量不足がある場合にはその不足分を引き渡せと求めることができます。

②代金減額請求について

 買主が相当の期間を定め、上記①の追完請求をしたにもかかわらずその期間内に追完がなされない場合は不適合の程度に応じて代金減額請求をすることができます。

 具体的にどの程度減額することができるかというのは、事案によることになります。

③損害賠償請求について

 買主が売主に対し、修補はしないで良いので修補のための費用と同額の金銭支払いを損害賠償として請求することが考えられます。

 また、そもそも修補ができないという場合には、修補のための費用ということではなく、実際に目的物の価値が減ってしまった部分を請求する、ということもあり得るでしょう。

④契約の解除について

 契約不適合がある場合には、買主は相当期間を定めて追完の催告をし、その期間内に契約不適合状態が解決されなければ解除をすることができます。

 ただし、催告をしても契約の目的が達成できないということが明らかであれば、催告には意味がないため、無催告での解除ができます。

不動産売買の場合

不動産売買の場合、代替物の引き渡し、ということが基本的には考えられず、また数量不足分を追加で引き渡してほしい、ということも考えられません。契約不適合について修補をするのに費用が莫大にかかる、ということも少なくありませんから、その特殊性を考慮した責任の取り方が問題になるといえます。

契約不適合責任を問える期間について

法律上の原則

法律上は「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定められているため、1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われることになります。

逆に言えば、1年以内にこの契約不適合がある旨の通知をしておけば、1年経過の後でも上記①~④の請求することができます。

例えば新築マンションを購入したが、配管に問題があり使用収益できないという契約不適合があった場合、その配管の問題を知ったときから1年以内に契約不適合の内容を通知しておけば、不適合を知ってから1年以上が経過した後でも修補請求や損害賠償請求などが可能だということになります。ただし、その後発生した請求権自体には別途消滅時効が成立しえるので、その点は注意を要します。

期間制限を受けない例外的な場合

 売主が、この目的物に契約不適合があると知っていたとすると、上記のような「買主が知ってから1年間」という期間制限を設けるのは不公平です。そこで、期間の規定については「ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない」としています。

売主が契約不適合について認識していた場合や、そのことを認識していなくてもその認識していなかったことに重過失がある場合は、買主が1年以内に通知をしていなかったとしても修補や損害賠償が可能です。

特約による責任の制限(契約不適合責任免除特約)

契約不適合責任については、絶対に負うべきものとは限らず、仮に当事者が「免除する」と合意していたのであれば、その合意は有効とされています。

ただし、どのような場合であっても責任を問えないとすることは買主にあまりにも不利になってしまいますので、民法や特別法によってこの特約の効果にも制限を設けています。

(1)民法上の契約不適合責任免除特約の無効

売主が契約不適合のあることを知っていながら、買主にこれを秘し、契約不適合責任を免除するという特約を締結したとしても、それは信義に反するということで無効となります。

(2)宅地建物取引業法上の契約不適合責任免除特約の無効

不動産の売買契約において、宅地建物取引業者が自ら売主となる場合には、担保責任の期間を2年以上とする場合を除き、売主の瑕疵担保責任の規定を民法の規定よりも買主に不利な特約とすることは無効と定められています。

(3)消費者契約法上の契約不適合責任免除特約の無効

事業者と消費者間の契約で、売主が事業者となって契約不適合責任を全部免除する特約は、消費者にとってあまりにも不利であることから無効と考えられます。

(4)住宅の品質確保の促進等に関する法律上の責任期間

「新築住宅」については、特別な責任の期間の定めがあります。

売買契約や請負契約により「新築」の住宅を取得する場合、柱・はりなどの基本構造部分や雨水の侵入を防止する部分の重大な欠陥に関する契約不適合責任期間については、引渡しの日から10年間と義務付けられており、買主に不利となる特約をしても無効とされています。

不動産売買は、対価が高いことが多いのと同時に、長い間使用収益してその中で初めて契約不適合が分かるということも多いという特質があります。そのため、契約時に、「売主が契約不適合責任を負わない」とする特約がなされることも多いでしょうが、このような特約には買主保護の観点からも無効となることもあります。

法律上定めのある無効事由に該当していないかを事前に確認する必要があることには十分留意してください。

不動産売買において契約不適合が問題となる場面の例

 実際に契約不適合責任が問われた事例として、具体的に契約の目的を考慮して判断した裁判例を示したいと思います。

地中埋設物があった場合の契約不適合(東京地方裁判所令和 2年 7月22日判決)

(1)事案の概要

 原告(買主)が被告(売主)から土地と建物を購入したところ、土地の庭部分の地中から多量のコンクリート片等が発見されたことから、本件土地には「隠れた瑕疵(契約不適合)」があるとして、被告に対し、損害賠償請求したもの

(2)裁判所の判断

「本件売買において,本件土地は宅地としての利用を目的として売買されたものであるが,本件建物が現に建築されており,また,本件建物の敷地として使用することに支障があるとの主張もないことからすると,建物敷地としての利用に支障があるとは認められない。」として、契約不適合責任を否定しました。

(3)本件裁判例のポイント

   本件では、既に土地上に建物があり、仮に地中埋設物があったとしても、その建物の敷地として土地を使用することに支障はなかったという事情がありました。そうすると、この地中埋設物の存在があったとしても、売買契約の目的を達することができないとはいえないので、契約不適合責任は生じない、としたものです。

   逆に、他の裁判例では、

①土地の売買契約につき、買主が引き渡しを受けてから土地掘削をしたところ地中から埋設物が発見されたという事案で、契約時に交わした契約不適合の合意に基づき埋設物の撤去費用などを損害賠償請求して認められたケースや、

②特約にて契約不適合責任の期間を限定していた事案で、解除や損害賠償請求が認められなかったケース、

③契約不適合責任は問えないが説明義務違反には当たるとされたケース

もあります。

売主、買主、それぞれの立場で契約を見る重要性

 以上のとおり、契約不適合責任は契約の趣旨を重視するものですが、その責任の及ぶ範囲や、責任の内容、特約によって制限をする場合など、様々な要素を含んでいるものです。

買主の立場からは、契約の趣旨に目的物が合致するか判断しやすいようにするとか、特約による制限について合理的なものになっているかを注視する必要があります。

逆に、売主の立場からは、契約不適合責任を負わねばいけない範囲や期間が、契約の対価に合っているものかもよく検討せねばなりません。

それぞれの立場の特性を踏まえて、契約の内容を判断するようにしましょう。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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