廃棄物処理法上、産業廃棄物処理施設を設置するにあたって、同法に定める許可基準を満たす必要があります。もっとも、廃棄物処理法は改正が頻繁に行われるため、許可申請中に法律改正がなされた場合の適用法規判断の基準時が問題となります。

リーディングケース~東京高裁平成21年5月20日判決~

本件事件は、産業廃棄物処理業者である株式会社エコテックが千葉県知事に対して廃棄物処理施設の設置許可の申請をしたところ千葉県知事は許可を認めず、厚生大臣(当時)に行政不服審査請求を行ったところ許可が認められ、これに対して周辺住民が許可の取消を求めたものです。

許可の申請から、最終的に高等裁判所が判決を出すまでに時間がかかり、その間以下のような多数の法改正がなされていました。

↓ 平成9年法改正(施行日は平成10年6月17日)

① 平成10年6月8日 エコテックが廃棄物処理法15条1項に基づく管理型最終処分場設置の許可申請

↓ 平成10年6月17日に平成9年法が施行

② 平成11年4月27日 千葉県知事がエコテックの許可申請について不許可処分

③ エコテックが厚生大臣に対して行政不服審査法に基づく審査請求。

④ 平成12年3月30日 厚生大臣が千葉県知事の不許可処分の取消裁決

↓ 平成12年法改正(施行日は平成12年10月1日)

⑤ 平成13年3月1日 千葉県知事がエコテックの許可申請について「許可」処分

⑥ 周辺住民が、千葉県知事による許可処分を取り消す(エコテックによる管理型最終処分場設置を認めることを止めさせる)よう訴え提起

このように、平成9年法改正(以下「平成9年法」といいます。)、平成12年法改正(以下「平成12年法」といいます。)があり、さらには、改正法を適用するかどうかの附則や経過措置の規定が入り乱れ、いったい何をもって最終処分場設置の許可処分が適法かどうか判断するか争いになりました。

法律の定め:産業廃棄物処理業許可・産業廃棄物処理施設設置許可

廃棄物処理法上、産業廃棄物処理施設を設置するにあたっては、管轄する都道府県知事の許可を得なければなりません。

産業廃棄物処理施設を設置許可に関する根拠条文

廃棄物処理法15条1項本文

産業廃棄物処理施設(・・・)を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

許可の基準に関する根拠条文

廃棄物処理法15条の2第1項(産業廃棄物処理施設を設置する場合)

都道府県知事は、前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

① その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること

② その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がなされたものであること

③ 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること

④ 申請者が第14条第5項第2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと

廃棄物処理法15条の2第2項

都道府県知事は、前条第1項の許可の申請に係る産業廃棄物処理施設の設置によつて、ごみ処理施設又は産業廃棄物処理施設の過度の集中により大気環境基準の確保が困難となると認めるときは、同項の許可をしないことができる。

廃棄物処理法15条の2第3項

都道府県知事は、前条第1項の許可・・・をする場合においては、あらかじめ、第一項第二号に掲げる事項について、生活環境の保全に関し環境省令で定める事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならない

環境省令で定める基準

廃棄物処理法施行規則12条の2の3

法第15条の2第1項第3号(法第十五条の二の六第二項において準用する場合を含む。)の環境省令で定める基準は、次のとおりとする。

一 産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。

二 産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること

廃棄物処理法施行規則10条(廃棄物の処理(収集・運搬)を業として行う場合)

法第14条第5項第1号(・・・)の規定による環境省令で定める基準は、次のとおりとする。

① 施設に係る基準

イ 産業廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車、運搬船、運搬容器その他の運搬施設を有すること。

ロ 積替施設を有する場合には、産業廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた施設であること。

② 申請者の能力に係る基準

イ 産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。

ロ 産業廃棄物の収集又は運搬を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること

本件で改正された法内容

平成9年法

上記廃棄物処理法第15条の2の規定が新設されました。

変更内容

① 許可の基準として、産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされたものであることが追加される。

② 都道府県知事は、政令で定める産業廃棄物処理施設の設置許可をする場合には、あらかじめ、上記追加された事項について、生活環境の保全に関し専門的知識を有する者の意見を聴かなければならないこととされる。

経過措置

平成9年一部改正法附則5条1項の規定により、平成9年法改正規定の施行前にされた許可の申請であって、同改正規定の施行の際、許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については、なお従前の例によるものとされました。

そして、平成9年一部改正法附則5条の規定は、平成10年6月17日から施行されました。

平成9年一部改正法附則第5条

 附則第1条第1号に掲げる規定の施行前に旧法第15条第1項又は第15条の2第1項の規定によりされた許可の申請であって、同号に掲げる規定の施行の際、許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については、なお従前の例による

平成12年法

上記廃棄物処理法第15条の2の規定が新設されました。

その結果、以下の産業廃棄物処理施設の設置許可の基準が加わりました。

変更内容

① 産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する計画が厚生省令で定める周辺の施設について適正な配慮がされたものであること(現在の廃棄物処理法15条の2第1項2号)

② 申請者の能力が当該計画に従って当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること(現在の廃棄物処理法15条の2第1項3号)

③ 産業廃棄物処理施設の設置によって、ごみ処理施設又は産業廃棄物処理施設の過度の集中により大気環境基準の確保が困難となる場合に許可をしないことがあること(当時・現在の廃棄物処理法15条の2第2項)

経過措置

平成12年一部改正法附則4条の規定により、改正法施行時に許可/不許可処分がなされていない場合には、大気環境基準に関連した規定である新法第15条の2第2項適用しないとされました。

そして、平成12年一部改正法附則5条の規定は、平成12年10月1日から施行されました。

平成12年一部改正法附則第4条

この法律の施行前に旧法第15条第1項又は第15条の2第1項の規定によりされた許可の申請であって、この法律の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については、新法第15条の2第2項の規定、適用しない

裁判所の判断~東京高裁平成21年5月20日判決

原審の判断(千葉地判平成19年8月21日)

エコテックの「経理的基礎は,本件許可処分時において,本件処分場の周辺住民である原告らが,生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠く状態である」として、エコテックの経理的基礎を否定し、産業廃棄物処理施設の設置許可処分許可を取り消すに至りました。

控訴審の判断

本件に適用される法令の規定について

平成9年法

法律に「なお従前の例による」とする経過措置が規定されている場合には,当該事項についての法律制度は,新法令又は改正後の法令の規定の施行直前の状態で凍結されたものとして適用されることになると解されるものである。」

平成9年一部改正法2条の規定による平成3年法15条等の改正規定の施行期日(平成10年6月17日)以後であっても,都道府県知事は,同施行期日前に平成3年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,同改正規定の施行の際,許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,平成3年法及び同施行期日直前に施行されていた命令の規定に基づいて行うこととされたのである。」

平成12年法

行政処分は,特段の経過措置が定められない限り,処分時の法律を適用するのが原則である

「平成12年一部改正法附則4条は,「旧法15条1項」の規定によりされた許可の申請であって,平成12年一部改正法の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は不許可の処分については,平成12年法15条の2第2項の規定は適用しないとのみ定めているのであるから,これを裏から見ると,「旧法15条1項」の規定によりされた許可の申請についての処分については,平成12年法15条の2第2項以外の平成12年法の規定はすべて適用すること(いわゆる新法主義)を明らかにしているものということができる。」「平成12年一部改正法附則4条の「旧法」も当然同様に解釈されることになる。」

平成12年一部改正法附則4条は,平成3年法及び平成9年法の15条1項の規定によりされた許可の申請についての処分については,平成12年法15条の2第2項以外の平成12年法の規定をすべて適用すること(新法主義)を明らかにするものと解釈される。」

もう一度、平成9年法

そして,平成9年一部改正法附則5条1項の規定は,特に改正がされていないが,平成12年一部改正法附則4条に抵触する限度でその効力を失うことになると解される。」

コメント

非常にややこしいのですが、

① 平成9年法改正の施行日前の処分については、それ以前の法令(平成3年法)を適用して判断する。

② 平成12年法改正の施行日前の処分については、

ⅰ 大気環境基準に関連した規定である新法第15条の2第2項だけは適用しない。

ⅱ その他の改正内容は適用する。

③ 平成12年法改正施行日後は、①は死文化して効力を失う。

ということになります。

平成13年3月1日に、千葉県知事がエコテックの許可申請について「許可」処分を行いました。そして、判示のとおり、行政処分は特段の経過措置が定められない限りは処分時の法律が適用されます。そのため、結局は、エコテックの管理型最終処分場設置を許可したことが適法かどうかの判断する基準は、平成12年改正後の法律によることとなります(大気環境基準に関連した規定である新法第15条の2第2項だけは除く)。

その結果、改正法に基づき、エコテックの経理的基礎が否定されることを前提として、原審のとおりエコテックの管理型最終処分場設置許可は取り消されることになりました。

さいごに

法改正が頻発する廃棄物処理法の検討にあたっては、改正時の附則が非常に重要なります。その読み解き方は難しいですが、慎重に附則を確認しながら、いったい何を基準にして許可・不許可の判断がされることになるのか検討していくことが必要になります。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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