農地の賃借権契約を終了させるため、土地の時価の2割、3割という離作料が支払われることも多いようです。しかし、農地法20条の規定を使えば、極めて安い離作料で、農地賃貸借契約を解約することも可能です。今回は、そんな事例について述べてみます。

1 はじめに

農地に賃借権を設定するには、農業委員会の許可を受けることが必要です。そして、農業委員会の許可を受けて農地賃借権が設定された後は、賃借人(小作人)の同意なく賃借権を終了させることが非常に困難になります。

そこで、農地が市街化区域に編入され、その農地を宅地転用してマンションなどを建て、相続税対策などを行おうという場合、やむを得ず、土地の時価の2割なり3割なりの離作料を支払って、農地賃貸借を合意解約することが多く行われているようです。

しかし、農地法20条には、都道府県知事の許可を得ることによって農地賃貸借を解除あるいは解約できる場合が定められており、この規定を使えば上記のような高額な離作料を支払うことなく、農地賃貸借を終了させることが可能です。

2 農地法の規定の概要

農地法20条は、賃貸人(土地所有者)は賃借人に対し、都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除あるいは解約の申入れをしてはならないと定めています。

そして、都道府県知事が解除あるいは解約を許可できる場合として、次の5つを定めています。

① 賃借人が信義に反した行為をした場合

② 農地を農地以外のものにすることを相当とする場合

③ 賃貸人が農地を耕作することを相当とする場

④ 農業生産法人がその要件を欠いた場合

⑤ その他、正当の事由がある場合

 よく問題になるのは、①と②です。

 ①によって賃貸借を終了させる場合を解除といい、離作料は問題になりません。「信義に反した行為」として、一番問題になるのは、賃借人が農地を耕作しないという場合です。

②によって賃貸借を終了させる場合を解約といい、離作料の支払いが原則として必要になります。農地が市街化区域に編入され、周囲の状況からして、その土地をマンション用地やテナントピル用地として使用するのが相当である場合などがこれにあたります。ただし、離作料と言っても、農業所得をもとに算定しますから、土地の時価に比べて非常に低い額になります。

3 設例

  次のような例をもとに、解除、解約の可否を考えてみます。

 ⑴ 賃貸人Aは賃借人Bに対し、昭和21年に農業委員会の許可を得て土地を農地として賃貸し、賃料として毎年米1斗を受け取っていた。貸した土地の面積は700㎡である。

ところが、昭和35年頃から賃借人Bが本件土地を不耕作のまま放置するようになり、雑草が茂り、害虫も発生するようになった。賃貸人が不耕作である旨のクレームをつけると、その時だけはある程度作付するが、その後草取りもしないし、借り入れもしないという状態だった。

 ⑵ その後、土地が市街化区域に編入され、周囲はアパート、マンションなどの集合住宅、一戸建住宅などが密集するようになり、しかも、前面道路も25メートルに拡張されることになって、すでに買収も始まっている。新しいJRの駅ができる予定もある。土地の価値は2億円程度。

近年の本件土地の賃料は年1万円なのに対し、土地(農地)にかかる固定資産税・都市計画税は年50万円で、賃科の50倍であり、土地を農地として使用することが不適当なことは明らかであった。

賃貸人Aは、すでに高齢であり、相続税対策、固定資産税対策のため、土地にマンションを建てる計画を持っていた。

⑶ そこで賃貸人Aは、弁護士を代理人として、埼玉県知事に対し、農地賃貸借契約の解除および解約の許可申請を行った。

4 解除および解約の許可申請

  許可申請は、農業委員会を経由して、都道府県知事に行うことになります。

⑴ 解除の許可申請(①の場合)

不耕作を理由として解除の許可申請をする場合は、これまで賃借人が耕作しなかった状況や、賃貸人と賃借人の交渉経過を詳しく述べることになります。

ただ、不耕作を理由として、知事が解除の許可をすることは少ないように思われます。

700㎡もの土地を耕作しないでいる場合でも、賃貸人が許可中請をすれは、賃借人はその時だけはある程度作付し、その様子を写真にとって農業委員会に提出したりするからです。

本来なら、このような申し訳程度の作付けで、解除の許可をしないというのは不当です。

耕作の有無について、近隣の人から詳しい聞き取りを行ったり、また、作付けは全体の土地のうちどの程度の面積にされたのか、作付後、草取り、施肥、害虫駆除、収穫などがきちんと行われているのかを、農業委員会の職員などが何度も現場に行って調査し、賃借人の主張する「耕作」が、通常の農業と明らかに違っている場合には、不耕作を理由とする解除の許可を積極的に行うべきだと思います。

⑵ 解約の許可申請(②の場合)

ア 解約を許可すべきであるとしてあげる事情

土地を農地以外の用途に使用するのが相当であるとして解約の許可申請をする場合は、たとえわずかでも離作料の支払いがあるためか、比較的、許可がされやすいように思います。

上記の3であげた設例をもとにすると、解約を許可すべきであるとしてあげる事情は次のとおりになります。

■ 土地の周辺には、アパート、マンションなどの集合住宅、一戸建住宅が密集しており、近くには小学校、高等学校があり、農地はほとんどない。

■ 本件土地は第二種住居地域に属しており、もっとも有効な活用法はマンション建築である。

■ 本件上地の前面は都市計画道路にかかっており、道幅も25メートルに拡張される予定である。

■ すでに買収も始まっている。

■ 土地から歩いて7 ~ 8分のところに新しい JRの駅ができる予定がある。

■ 本件土地の賃科は年1万円なのに、本件土地にかかる固定資産税・都市計画税は50万円であり、このことから見ても本件土地で農業を営むことが不適当なことは明らかである。

■ すでにマンションの設計図もできあがっており、資金計画もある程度具体化している。

■ 賃借人は本件土地から何ら収益をあげておらず、年金によって生活している。

イ 離作料の明示

解約の許可申請をする場合は、賃貸人が希望する離作料の額を明示した方が良いと思います。

離作料は、各市町村の市民税課などが、毎年、「農業所得標準のお知らせ」などと題して標準的な農業所得を公表していますから、これをもとに算定します。

離作料は、土地の時価の何割などとして算定するわけではなく、農業所得をもとに算定しますから、土地の時価に比べて非常に低い額になります。

【農業所得算定の例】

たとえば、1 a (アール)当たりの標準所得が 10, 140円、農地の面積が6.93 a (アール)、賃借人(あるいは主として耕作しているのがその息子としたら息子)の年齢が46歳としたら、 10,1400円/a × 6.93a × 21年=1,475,674円というように計算します。21年というのは、67歳まで稼動可能とし(交通事故の損害賠償額などを算定する場合は、67歳まで稼動可能として計算します)、46歳から67歳まで21年という意味です。

ウ 低額の離作料

離作料は、上記のような方法で算定しますが、解約の許可申請が認められれば、例えば、2億円の価値がある土地でも、上記の1,475,674円の離作料を支払うだけで土地が戻ってくることになります。

エ 添付資料

   解除の許可申請、解約の許可申請をするには、こちらの主張を根拠づける資料を提出しなければなりません。

資料として考えられるものをあげると、例えば次のようなものです。

賃借人が土地を耕作していないことを示す現在および過去の写真、固定資産税・都市計画税の納付書、土地の周囲が住宅などであることを示す住宅地図、建築予定マンションの図面、地目が農地から雑種地に変わったことを示す公課証明書、解除・解約に関する判例、地区の特徴を示す周辺図、農業所得標準が記載された書面、離作料の計算に関する文献、雑草除去通知書(土地が放置され雑草が生い茂っている場合などに、市町村長から土地所有者に対して発せられる)など。

5 許可、不許可の結論が出るまでに注意すべきこと

 ⑴ 許可申請をすると、賃貸人、賃借人双方から農業委員会が事情聴取を行うので、その機会に、賃貸人の主張のポイントなどを述べます。

 ⑵ 許可、不許可の結論が出るまで、1〜2年位かかります。何年間も棚ざらし状態になっている事例もあるようなので、許可申請後は、現在の進行状況などについて、農業委員会に頻繁に問い合わせをしたほうがよいと思います。

また、知事は相当期間内に許可不許可の判断をする義務を負っているとした判例もあるので(大阪地裁平成4年8月 26日判決)、この判例を引用して早く判断をするよう要望します。

6 許可後の手続

 ⑴ 許可が出た場合は、賃借人に対し、内容証明郵便で農地賃貸借契約の解約申し入れをします。賃貸借契約は、解約申し入れ後1年を経過することにより消滅します(民法の規定により1年の猶予期間があります)。

ここで注意しなければならないのは、農地の場合は、収穫季節後、次の耕作に着手する前に解約申し入れをしなければならないことです(民法617条2項)。この時期を逃がすと、解約申し入れの時期が1年延びてしまいます。知事の解約許可が出たら、賃借人が次の耕作に着手する季節が到来する前に、解約申し入れの内容証明郵便を速やかに出さなければなりません。

 ⑵ 内容証明郵便によって、賃借人が上地を明け渡せばそれで終了になります。

賃借人が任意に明け渡しをしない場合は、賃借人に対し、土地明け渡しを求める訴訟を地方裁判所に対して提起することになります。

ただ、この訴訟は、知事の解約許可がされたことを前提として、知事の許可があったこと、解約申し入れをしたこと、解約申し入れ後1年を経過したことを証明すればよいので、賃貸人が勝訴するのは容易です。

また、賃借人が任意に明け渡しをしない場合は、使用損害金を訴訟において請求できますが、この使用損害金はこれまでの賃料と違って、土地の現在の時価をもとにして、その何パーセントという形で請求できますから、これまでの賃料と比べて非常に大きな金額になります。

7 最後に

農地賃貸借契約を解約するのに、土地の時価の何割という離作料を支払うのはまったく根拠のないことです。金をかけても早急に賃貸借契約を解消しなければならないという事情がある場合はともかく、そうでない場合は、農地法20条の規定を活用して農地賃貸借契約の解消を図るべきです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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