株式譲渡制限のある非公開会社であり、一人会社(株主が一人の会社)である会社の株主が死亡した場合、株式譲渡承認ができないとどうなるのでしょうか。結論としては、譲渡承認は不要であり、遺贈により株式を取得した者(特定承継人)や相続により株式を取得した者(包括承継人)が株主権を行使することになります。このページでは、埼玉県で30年以上、中小企業を中心とする企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、ポイントを絞って分かりやすく解説します。

株式譲渡制限のある非公開会社であり、一人会社(株主が一人の会社)である会社の株主が死亡した場合、株式譲渡承認ができないとどうなるのでしょうか?

上場企業は、多数存在する会社のごく一部です。

社会には、株式譲渡制限のある非公開会社が多数存在します。株主が特定少数であり、中には一人会社(株主が一人の会社)も少なくありません。それは、一人の経営者が会社を経営しつつ株主を担っていることもあれば、同族会社のように閉鎖的な会社も多いからです。

では、株式譲渡制限のある非公開会社であり、一人会社(株主が一人の会社)である会社の株主が死亡した場合、株式譲渡承認ができないとどうなるのでしょうか?

結論としては、譲渡承認は不要であり、遺贈により株式を取得した者(特定承継人)や相続により株式を取得した者(包括承継人)が株主権を行使できることになります。

上記の質問とは異なりますが、一人会社の株主が譲渡承認を経ずに株式を譲渡した効力が争われた判例は、譲渡承認を経ていない株式譲渡を有効と判断しております。その理由についても見て参りましょう。

判例(最高裁判決平成5年3月30日)

事案の概要

・Aは、小規模株式会社であるY会社の代表取締役であり、その全株式二万株を保有していた。

・Aは、定款所定の取締役会の承認を得ることなく、このうち一万二〇〇〇株をX1に、三〇〇〇株をX2に譲渡した。

・X1、X2、X3は、A、X1、X2を株主とする二度の株主総会において取締役に選任されたと主張して、Y会社(代表者A)を相手取り、取締役の地位確認等を求めた。

・AはY会社の代表取締役として応訴し、X1らの主張を争ったが、一審、原審とも請求を認容し、本判決もY会社の上告を棄却した。

判旨

・商法二〇四条一項ただし書が、株式の譲渡につき、定款をもって取締役会の承認を要する旨定めることを妨げないと規定し、株式の譲渡性の制限を許しているのは、もっばら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止するためである(最二判昭和四八・六・一五民集二七巻六号七〇〇頁、本誌三七五号八頁)。

・この譲渡制限制度によって保護される「会社」の利益とは、譲渡株主以外の株主の利益を意味すると解されるから、一人会社の株主がその株式を他に譲渡する場合や株式譲渡につき譲渡株主以外の株主全員の同意がある場合には、他の株主の利益保護を問題にする余地はなく、取締役会の承認がなくても、その譲渡は有効と解される

・学説上も有効説が多数説であり、下級審裁判例も有効説を採る(東京地判平成元・六・二七本誌八三七号三五頁、東京高判平成二・一一・二九判時一三七四号一一二頁)。

株式譲渡制限のある会社であっても会社の承認がいらない場合はほかにありますか?

ご質問と関連して、株式譲渡制限のある会社であっても会社の承認がいらない場合は、会社自体に譲渡する場合、相続などによる一般承継の場合、全株主が承認している場合、定款の規定に反しない場合があります。

いずれも、譲渡制限の趣旨である会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止するということに反しない場合といえます。

会社自体に譲渡する場合は、会社法136条括弧書きに記載があります。

第百三十六条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

相続などによる一般承継の場合は、会社法134条4項をご参照ください。

第百三十四条 前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
四 当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること。

全株主が承認している場合は、他の株主の利益を害さないため、解釈上認められております。

定款の規定に反しない場合は、定款に一定の場合に承認を要しないと定めておくことです。会社法107条2項1号ロ、108条2項4項に記載があります。

第百七条
2 株式会社は、全部の株式の内容として次の各号に掲げる事項を定めるときは、当該各号に定める事項を定款で定めなければならない。
一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事項
ロ 一定の場合においては株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合

第百八条 
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
  ※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志

弁護士のプロフィールはこちら