物流業界全体の競争激化や慢性的な人手不足を背景に、経営の苦しい倉庫業の会社が増えています。本稿では、倉庫業の会社が破産申立てする場合に注意が必要となる、倉庫内荷物の取り扱いや倉庫内設備の処理などについて、弁護士が解説します。

破産申立てを考えている倉庫業の方へ

ネットショッピング全盛期を迎え、近年、活況を呈している物流業界。

高速道路のインターチェンジの側に、次々と巨大な物流倉庫が建設されているのを多くの方がご存じだと思います。

その物流業界をおおもとで支えているのが倉庫業です。

しかしながら、倉庫業と一口に言ってもその規模は様々で、経営基盤のしっかりした大手企業ならともかく、中小規模の会社では、経営は年々厳しくなっていると言われています。

その主な要因は、

① 物流業界全体の競争激化の影響を受け、倉庫業にも低価格化が求められるようになったこと
② 大手企業は経営合理化を進める中で倉庫業との連携を強化しているが、そこから弾かれてしまう中小の倉庫業は単独で経営を続けることが困難になってきていること
③ 慢性的な人手不足
④ 物流業界では近年自動化やAI技術の導入が進んでいるものの、これらの技術を導入するには相応のコストがかかるため、中小の倉庫業ではなかなか対応が難しく、経営の合理化による利潤が得られにくいこと

が挙げられます。

倉庫業では設備投資に多額の資金が必要になることが多いため、事業資金として金融機関から借り入れをしている会社も多いでしょう。

しかしながら、

「返済予定をリスケジュールしてもらったが、それでも返済が追いつかない」

「追加融資の相談に行ったが、断られてしまった」

などなど、資金繰りに頭を悩ませている経営者の方も少なくありません。

債務超過に陥り、これ以上業績の回復も見込めないという場合は、苦渋の決断として、会社を倒産させる、すなわち、会社の破産申立てを行うことも考えなければなりません。

その際、倉庫業だからといって、他の業種に比べて破産申立てが難しくなるということはありませんが、倉庫業ならではの特殊性に注意して進めることが必要です。

倉庫業破産の特殊性

倉庫業の会社が破産する場面では、一般的に、

① 倉庫内の荷物の処理に注意が必要である
② 倉庫内設備に関する対応が必要である

という特徴があります。

以下、簡単ではありますが、上記の特殊性に関する注意点を見ていきましょう。

① 倉庫内の荷物の処理に注意が必要である

倉庫業は、寄託主から預かった荷物を保管することで対価を得る業態ですから、倉庫内に保管されている荷物は、そのほとんどが他社(寄託主)の所有する物です。

営業停止日までのスケジュールを前もって検討していた場合は、受け入れの量をある程度調節することで、預かり中の荷物を沢山抱えた状態のまま弁護士のところに駆け込むという事態は防げると思います。

まず自社に処分する権限があるのか確認する

会社に残っているもので売れそうなものは、裁判所に破産を申し立てる前に処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

しかし、いずれを選択するにせよ、そもそもの前提として、それらのものが自社の所有するものである(=自社に処分する権限がある)と言えなければ、勝手に売却したり、会社資産として保有し続けることはできません

先ほども述べたとおり、倉庫業は、寄託主から預かった荷物を保管することで対価を得る業態ですから、倉庫内に保管されている荷物は、そのほとんどが他社(寄託主)の所有する物のはずです。

そのため、これら預かっている荷物は、原則として寄託主に返還することになります。

時間の経過によって品質が劣化するような、生鮮食品、農産物、生花などは、特に早急な対応が必要です。

ぐずぐずしているとあっという間に売り物にならなくなって、寄託主から損害賠償請求される(その分、負債総額が増える)事態にもなりかねません。

また、美術品や精密機械のような高価品の場合も、その返還には細心の注意を払いましょう。

時には、倒産を察知した他の債権者が現場に押し掛けてきて、「支払いができないなら、代わりに倉庫内の荷物を持っていく!」と言って強硬手段に出ようとすることがあります。

自社の財産であってもそうですが、とりわけ他社の所有物を持って行かせるわけにはいきませんので、冷静に、毅然と対処する必要があります。

申立前に処分するか、そのまま管財人に引き継ぐかを決める

自社所有の物で、売却すればそれなりの金額になるというものは、裁判所に破産を申し立てる前にそれらを処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

この選択は、破産を依頼した弁護士(申立代理人)の判断に従うことになります。

基本的には、複数業者の見積もりを取り、最も高値で買い取ってくれるところに売却するようにします。

売却代金は会社の貴重な資産(財団)となりますから、後から、裁判所・管財人から見て「不当な廉価売買では?」と疑われることのないよう、適正価格で処分することが肝要なのです。

② 倉庫内設備に関する対応が必要である

倉庫業では、保管する商品に合わせた倉庫内設備が必要となりますから、倉庫内に冷蔵室や冷凍室を備えている場合も多いと思います。

また、荷物の包装やラッピング、ラベル貼りなどを行うための機械(作業ライン)を設置していることもあるでしょう。

倉庫業の会社が破産する際には、これらの設備をどうするかの対応も必要となりますが、基本的な進め方は上記の①と同じです。

まず自社に処分する権限があるのか確認する

倉庫自体を賃借している場合、後から備え付けた冷蔵室や冷凍室は、かなりの費用と労力をかけないと分離できなくなっていると思いますので、倉庫に附合している(=自社に処分する権限はない)と考えられます。

この場合は、冷蔵室や冷凍室が付いたままの状態で、賃貸人に倉庫を返還することになります(冷蔵庫や冷凍庫などの設備が附合したことによって物件の価値が上がっている場合は、増加した分を清算します)。

また、包装やラッピング、ラベル貼りなどを行うための機械は、倉庫内で長年使用してきたからといって、当然に自社に所有権(処分権限)があるとは限りません。

実はリースだった、ということもあるのです。

権限のないものを誤って処分しないよう、疑わしいものについては、必ず、契約書や決算書類を確認し、リース品についてはリース業者に返還します。

申立前に処分するか、そのまま管財人に引き継ぐかを決める

倉庫内で使用してきた機械などで、処分する権利が自社にあることが分かったら、続いて、裁判所に破産を申し立てる前にそれらを処分するか、処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継ぐか、どちらかを選択することになります。

機械・設備の場合は、生鮮食品などの荷物の返還のように対応を急ぐということは少ないと思いますが、それでも、

処分しないと物件の明渡しが完了せず、余計な賃料が発生してしまう
会社の流動資産が少なく、申立費用が十分に用意できない

といった場合には、早期に換価・処分するという判断になると思います。

この場合も、複数業者の見積もりを取り、最も高値で買い取ってくれる業者に売却します。

処分しないまま破産を申し立てて管財人に引き継いだ場合は、管財人がそれらの機械・設備をなるべく高く売却・換価して、財団に組み入れます。

倉庫業業の破産申立ては是非弁護士に相談を

長年継続してきた事業をいよいよ閉じるとなった場合は、以上の他にも、債権者対応(借入をしている金融機関、付き合いのあった取引先、業務の委託先など)従業員の解雇、本社や支店・駐車場の明渡しなど、やらなければならないことが沢山あります。

倉庫業を営む会社で、破産申立てをお考えの経営者の方は、一度、経験豊富な弁護士に相談して下さい。

相談にお越しになるのに、早過ぎるということはありません

資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てのための費用すら工面できず、かえって債権者や取引先に迷惑をかけてしまいます

当事務所では、これまで多くの会社破産をお手伝いしてきました。

経験豊富な弁護士がサポート致しますので、一人で悩まずに、是非お声掛け下さい。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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