不正競争防止法2条1項3号では、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」(つまり、形態模倣行為)を「不正競争」の1つとして規制しております。

今回解説する裁判例は、「形態模倣行為」に関する判例であり、今後商品を製作・販売する際に気を付けるべき点について参考になるでしょう。

「形態模倣行為」とは? 基礎知識

「形態模倣行為」に該当するためは以下の要件を満たす必要があります。

1 「模倣の対象が商品の形態である」こと
2 「模倣」すること
3 譲渡、貸渡し、譲渡もしくは貸渡しのために展示し、輸出し又は輸入すること

以下では、各要件の内1・2について解説いたします。

1 模倣の対象が商品の形態であること

「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状、その形状に結合した模様、色彩、光沢、質感を指します(同法2条4項)。

商品全体としての形態が、他の同種類の商品と比較して特に特徴のない、「ありふれた形態」については、「商品の形態」には該当しないと考えられています。

「商品」は、「商品化」を完了した物品であれば足り、その物品が実際に販売されている必要はないと考えられます。

2 模倣であること

「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義されております(同法2条5項)。

すなわち、模倣といえるためには、①依拠性、②実質的同一性といった要件を満たす必要があります。

以下では、①・②について詳しく解説いたします。

1 依拠性

他人の商品の形態を知り、これと形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識している場合「依拠している」と考えられます。

2 実質的同一性

「模倣」とは、他人の商品の形態をまねて、その商品と同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいうことから、双方の商品を対比して観察した時に、形態が同一又は実質的に同一といえるほどに酷似している必要があると考えられます。

裁判例解説

次に、ご紹介する裁判例について解説いたします。

事案の概要

原告が、被告に対し、原告が製作・販売していた女性用ドレスについて、被告がそのドレスを模倣したドレスを製作させて輸入し、インターネット通信販売サイト等で販売したことが不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たるとして、同法4条、5条1項に基づき損害賠償請求をしました。

本事案の争点は、以下の3点でした。

①被告が製作販売した商品の形態は、原告商品の形態と実質的に同一であるといえるか?
②被告商品の形態が対応する原告商品の形態に依拠したものであるか?
③損害額

今回は、争点①・②について解説いたします。

裁判所の判断

争点①

本判決は、原告商品1~6と被告商品1~6が問題となっていますが、特に、原告商品1と被告商品1について解説いたします。

【2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするところ、同号によって保護される「商品の形態」とは、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」(同条4項)をいい、商品の個々の構成要素を離れた商品全体の形態をいう。また、特段の資力や労力をかけることなく作り出すことができるありふれた形態は、同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解される。

・原告商品1及び被告商品1は、いずれも女性用ドレスである。原告商品1の基本的形態は・・・、被告商品1も同一の基本的形態を有していると認められる。

・具体的形態についても原告商品1は、・・・スカート部分に3本のギャザーがあり、被告商品1も同様である。他方で、原告商品1と被告商品1の形態を比較すると、その具体的構成態様について一応、次の相違点がある。①首周りのビジューが原告商品1では2列なのに対して被告商品1では3列であり、これに伴い首周りの幅も異なる。その他、②谷間ホールのサイズ、③色、④バスト横のシームの有無、⑤ウエストのシームの位置、⑥背面のシームの有無、⑦背面ファスナー及びホックの数、⑧肩紐の太さが異なる。

以上を踏まえて原告商品1と被告商品1が実質的に同一といえるかどうかについて検討すると、原告商品1と被告商品1は、その基本的形態において一致しており、具体的形態についてもスカートのギャザーの数、位置について一致しており、原告商品1と被告商品1の形状はほぼ同一であるといえる。原告商品1と被告商品1では、ビジューが2列なのか3列なのかという違いはあるものの、需要者に対して、いずれのドレスについても首回りを複数列のビジューで飾られているとの印象を与えるものであり、大きな印象の違いは与えない。谷間ホールのサイズ、バスト横のシームの有無、ウエストのシームの位置もいずれも商品の一部分の大きくない違いであり、ドレス全体の印象に大きな影響を与えるとはいえない。背面のファスナー及びホックや肩紐の太さについては、指摘されてようやく気付く程度のささいな違いであるといえる。原告商品1と被告商品1は、被告商品1の方が明るい赤色をしているが、同一商品の色違いであるとの印象を与えるにすぎない。

・被告は、原告商品1について、従来から幾度となく商品開発に用いられてきた特徴を有しているにすぎないと主張するが、基本的形態の各要素全てを有するドレスや、これらの特徴の過半数について一致するドレスが原告商品1の発売より前に流通していたことを認めるに足りる証拠はない。

・以上によれば、原告商品1の形態はありふれたものではなく、原告商品1と被告商品1は、基本的な形態が一致し、相違する具体的な形態は、需要者が通常の用法に従った使用に際してこれらの違いを直ちに認識することができるとまではいえないものであって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であるといえる。】

争点②

【証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は各商品の発売に先立って、それぞれ、その約2か月前に、商品の広告のために、当該商品の正面や背面からなど別アングルで撮影されたデザイン上の特徴が見て取れる写真5枚が掲載された絵型を取引先に配布しており、当該配布先の中には被告が含まれていたこと、被告が、平成31年2月15日に原告商品1を仕入れ、令和元年6月10日に原告商品2を仕入れ、令和2年6月1日に原告商品5を仕入れ、平成30年10月2日に原告商品6を仕入れたことが認められる。

被告が、原告商品1から5についてその形態と実質的同一と認められる程度に酷似した商品を販売しており、原告商品6についても、実質的に同一とまではいえないものの多くの特徴が一致している商品を販売したこと、被告は原告の取引先であり、原告から原告各商品のデザイン上の特徴が見て取れる絵型を受領している上、原告商品1から5のうちの3点を実際に仕入れていたこと、被告商品1から5について、いずれも対応する原告各商品が発売されてしばらくして販売を開始することが繰り返されていること(被告商品1、2は約13か月後、被告商品3は約5か月後、被告商品4は約10か月後、被告商品5は約12か月後)に販売が開始されていることからすると、被告が、偶然、被告商品1から5という、原告商品1から5と実質的に同一の形態の商品を入手して販売したとは考え難く、被告において原告商品1から5のデザインを認識した上で、これと実質的に同一の形態のドレスの製作を指示する等してこれらを入手し、販売したことが推認できる

・・・・これらの事情を総合的に考慮すると、被告商品1から5は、被告が製作等を指示するなどして、原告商品1から5に依拠して製作されたものであり、被告はこれを輸入、販売したと認められる。原告商品1から5は、原告において、原告代表者やその従業員がデザインした上で開発、製作されて販売されていたものと認められ、被告の行為は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる。】

まとめ

裁判所は、「被告は原告に対し506万2797円を支払え」との判決を下しました。

本判決では、原告商品と被告商品の共通点・相違点を詳細に指摘した上で、両商品が実質的に同一か否か判断しております。

今後、商品製作をする際のリスク回避のためにも本事案は参考になるかと思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 安田 伸一朗

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