不正競争防止法2条1項4号~9号では、

・「営業秘密」を窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為
・不正取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

などを「不正競争」と位置づけ、規制しております。

今回解説する裁判例は、「営業秘密漏洩」に関する判例であり、今後、営業秘密を管理する際に気を付けるべき点について参考になるでしょう。

「営業秘密」とは? 基礎知識について解説

企業が持つ全ての情報が「営業秘密」に該当するものではなく、以下の3要件を満たす場合、不正競争防止法上保護される「営業秘密」に該当します。

・秘密管理性
・有用性
・非公知性

以下では、上記3要件について解説いたします。

(1)秘密管理性

当該情報に接する人が「秘密として管理されていることを客観的に認識」することができ、その情報に接することができる人物が限定されている場合、「秘密管理性」を満たすと考えられます。

秘密が情報などの無体物である場合、秘密保持誓約書の作成・取り交わし・就業規則に秘密保持に関する規程の整備・秘密管理規定の整備、といった管理方法によって当該情報が「秘密管理性」の要件を満たすと考えられます。

また、紙媒体で情報を管理する場合、別の文書に「マル秘」などの表示を入れる秘密として扱うべき紙媒体をファイルして、ファイルに「マル秘」などの表示を入れる顧客情報や顧客名簿を施錠可能なキャビネットや金庫に保管し、閲覧できる人を限定する、といった管理方法を採ることで、「秘密管理性」を満たすと考えられます。

(2)有用性

営業活動をする上で有用な情報であることを「有用性」といいます。

「有用性」に該当するか否かは、事業活動において価値を有するか否かという観点から判断されます。

また、事業活動に利用・使用されていることが絶対条件であるとは限りません。

例えば、顧客情報、製品の設計図・製造方法、プログラム、仕入れ先情報などの場合、有用性を満たすと考えられます。

(3)非公知性

「非公知性」が認められるためには、一般的に秘密が知られていないことに加えて、その秘密が容易に知ることができないものである必要があります。

既にネットや本に掲載されている情報は、誰でも閲覧することができるため、「非公知性」を満たさないと考えられます。

裁判例解説

次に、今回ご紹介する裁判例について解説いたします。

事案の概要

発電機器メーカーの元執行役員である被告が、会社の変圧器などに使う「方向性電磁鋼板」の製造技術に関する情報を韓国の同業者に対して開示した行為について「不正競争」に当たることを理由に、原告(会社側)が、①本件技術情報の使用及び開示の差止め、②本件技術情報を記録した電子ファイル及び同電子ファイルが保存された一切の媒体の廃棄、③損害賠償などを求めました。

本事案の争点は、主に、以下の3点でした。

①原告の主張する情報が「営業秘密」に該当するか?
②被告の行為が「不正競争」に該当するか?
③損害の発生の有無及び額

以下では、①・②について詳しく解説いたします。

裁判所の判断

争点①

(1)秘密管理性について

本件技術情報の管理状況は、原告は、機密保持規程に基づき、本件技術情報を含む電磁鋼板工場の全設備について機密性が著しく高い扱いとし、被告に対しても秘密保持の書面を提出させるなどの秘密管理の努力をしてきているのであるから、本件技術情報は、秘密として管理されている技術上の情報であると認められる。

(2)有用性について

本件技術情報の内容は、いずれも電磁鋼板の製造技術・ノウハウに関する原告の技術情報であるから、原告の電磁鋼板の品質の優位性を保持する目的等に有用なものとして、事業活動に有用な技術上の情報であると認められる。

(3)非公知性について

本件技術情報は、その内容からして、原告の管理下以外では一般的に入手できない状態にある情報であるから、公然と知られていない技術情報であると認められる。

結論:本件情報は「営業秘密」に該当する。

争点②

契約に基づいて、会議等が行われ、その会議等の際に、被告はPOSCOに対して本件技術情報を開示した。そして、●●から被告には合計約3000万円が支払われたものである。

原告とPOSCOは鉄鋼メーカーとして競合関係にあったところ、契約等は、電磁鋼板の生産高を左右する重要な要素である操業パラメータであり、被告からPOSCOに対して開示された本件技術情報は・・・。

他方、被告は、原告及び日鐵プラント設計において長年にわたって電磁鋼板の技術開発等に従事し、退職時には原告及び日鐵プラント設計との間で秘密保持の契約が締結されていたのであり、上記の背景事情や本件技術情報の重要性を知悉していたものと推認されることからすれば、被告において、原告との秘密保持の契約に反し、自ら利益を得る目的で、本件技術情報をPOSCOに開示したものと認められる。

したがって、被告は、原告から本件技術情報を示されていたところ、不正の利益を得る目的で、これをPOSCOに開示したものといえ、不競法2条1項7号の「不正競争」に該当すると認められる

これに対し、被告は、無方向性電磁鋼板の表面処理剤の開発や他の表面処理技術のアドバイス等の業務を行っており、従業員として給与を受け取っていたにすぎず、POSCOに対しては、表面処理に関する一般的な説明をしただけである旨を主張する。しかしながら、被告がPOSCOに開示した本件技術情報の内容は上記のような一般的な説明とは到底いえない内容である。また、・・・・であることから、被告の主張は採用することができない

まとめ

判決では、裁判所は、原告の請求をいずれも認め、損害賠償請求については、「被告は、原告に対し、10億2300万円を支払え」との判決を下しました。

損害額については、被告が侵害行為により利益を受けた額を、原告の損害額として判断しております(不正競争防止法第5条)。

本件では、「営業秘密漏洩」に関する判例を紹介いたしました。

営業秘密は企業にとって重要な財産であり、漏洩による損失を防ぐためにも管理方法を整えることは大事であります。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 安田 伸一朗

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