「こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
近年、原材料費やエネルギーコストの上昇が続いており、賃上げの必要性が叫ばれている状況にありますが、原材料費やエネルギーコストと異なり、労務費については、価格への転嫁が十分に進んでいない現状のようです。
そこで、労務費の適切な価格転嫁を促進するため、公正取引委員会によって「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が策定されました。
適正な労務費の転嫁は、健全な取引関係を維持しつつ法令遵守を実現するために重要な課題といえるでしょう。
そこで、本記事では、労務費転嫁に関するガイドラインの基本と最新動向を詳しく解説していきます。
「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」とは?その重要性と目的
「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下、「労務費転嫁ガイドライン」といいます。)とは、簡単にいえば、事業者間の取引において、適正な労務費の負担を求めるために定められた指針です。
このガイドラインの目的は、下請事業者や取引先が不当なコスト負担を強いられることを防ぎ、公正な取引環境を整備することにあります。
この指針においては、特に中小企業が賃上げ原資を確保できる取引環境の整備を目的とし、発注者と受注者が労務費上昇分を取引価格に適切に反映させるための指針として、12の行動基準を示しています。
指針では、発注者が受注者の価格転嫁要請を適切に受け入れることや、発注者が受注者に対して、不利益な取扱いをしないことを求めています。
また、受注者には資料を活用して価格転嫁を要請することを推奨し、両者には定期的な協議の場を設けることを求めています。
この指針の詳細や具体的な取組事例は、下記の公正取引委員会のウェブサイトで公開されており、労務費転嫁のための価格交渉の参考資料が提供されていますので、ご参照ください。
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html
「労務費」とは?
まず、「労務費」とは、人件費のうち製品を生産するためにかかった費用を指します。
したがって、製品製造には欠かせないコストといえるでしょう。
労務費転嫁が求められる背景
近年、最低賃金の引き上げや労働環境の改善が進む中、取引先に対する労務費の適正な転嫁が問題視されています。
特に、中小企業や下請事業者においては、発注元の強い立場を背景にした不公正な取引条件が課されるケースが少なくありません。
ガイドラインが示す適正な転嫁とは
労務費転嫁ガイドラインでは、以下のポイントが強調されています。
・労務費の適正な計算方法の提示
・取引契約における透明性の確保
・合意形成のプロセスを重視
これらを遵守することで、取引の公正性が確保され、法令違反のリスクが軽減されます。
労務費転嫁を適切に行わない場合のリスク
発注者において、適切な労務費転嫁が行われない場合には、以下のリスクが生じると考えられます。
・取引先との信頼関係の崩壊
・法令違反による行政指導や罰則
・企業イメージの低下
以上より、法令を無視した取引は、短期的なコスト削減に繋がるかもしれませんが、長期的には企業の存続を危うくするものといえるでしょう。
ガイドライン違反が企業に与える影響
労務費転嫁ガイドラインに違反する場合、以下のような影響が予想されます。
・公正取引委員会からの指導や調査
・社会的信用の低下
・他の取引先からの契約解除リスク
労務費転嫁ガイドラインに従わない場合には、下記のとおり、独占禁止法や下請法に違反する可能性もありますので、迅速かつ適切な対応が求められます。
優越的地位の濫用として判断されるケースとは
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」とは、簡単にいうと、取引関係において立場の強い企業が劣後する立場にある取引相手に対して、不当な条件を一方的に押し付ける行為等をいいます。
具体的には、下記のような場合は「優越的地位の濫用」とされるおそれがあります。
・正当な理由なく労務費の引き上げを拒否する
・一方的な価格決定や変更
・契約外の業務を強要する
これらの行為は、労務費転嫁ガイドラインの内容に沿わないものでもあり、公正取引委員会により厳しく取り締まられる可能性があります。
ガイドライン遵守のための実践例
では、労務費転嫁ガイドラインを遵守するためには、どのような行動を取ればよいのでしょうか。
以下は、労務費転嫁ガイドラインを遵守するための具体例となります。
発注者側の行動例
1 価格交渉の場を設ける。
労務費が上昇した場合、受注者と価格交渉を行うための定期的な協議の場を設ける。
例: 半年ごとに契約内容の見直し会議を設定。
2 価格交渉記録を作成・保管する。
労務費転嫁に関する交渉内容を記録し、透明性を確保する。
例: 会議議事録を作成し、双方の合意内容を明文化。
3 価格上昇の説明を受け入れる。
受注者が労務費上昇の理由を示した資料(賃金統計など)を適切に受理し、判断に活用する。
例: 統計資料を基にした労務費の上昇分を反映する価格設定を検討。
4 不利益な扱いをしない。
価格交渉を理由に、取引停止や注文量の減少など、不利益を与えない。
例: 交渉後も契約条件を継続し、公平な対応を約束する。
受注者側の行動例
1 適切なタイミングで交渉を行う。
例: 新年度開始前に発注者に交渉の要請書を提出。
2 支援機関を活用する
公正取引委員会や商工会議所などの支援機関を活用し、交渉の助言や情報提供を受ける。
例: 公正取引委員会の窓口への相談。
共通の取組
1 長期的なパートナーシップの構築
両者が共に利益を上げられるよう、信頼関係を重視した取引を行う。
例: 継続的な取引の中で、双方が納得できる条件を維持する。
2 契約条件の明確化
労務費の上昇分を適切に反映する条件を契約書に明記する。
例: 「労務費が一定以上上昇した場合、取引価格を見直す」といった条項を設定。
取引先との交渉のポイント
なお、取引先との交渉を円滑に進めるためには、以下のポイントが重要といえるでしょう。
・相手の立場や状況を考慮すること
・長期的なパートナーシップを重視すること
弁護士が語る!ガイドライン対応の重要性
弁護士の視点から見ると、労務費転嫁ガイドラインへの対応は、単に法令遵守のためだけでなく、企業のリスク管理や信頼性向上にも寄与すると考えられます。
弁護士から法的なアドバイスを得ることで、より適切な対応が可能になるといえるでしょう。
法律専門家の視点からみたガイドライン遵守のメリット
・トラブル発生時の迅速な対応が可能
・取引先や社会からの信頼が向上
・長期的な企業成長への寄与
まとめ
労務費転嫁ガイドラインについて、説明していきました。
労務費転嫁における法令遵守は、企業の信頼性向上や取引先との良好な関係構築に直結します。
独占禁止法の問題には、専門的な知識が必要となります。
独禁法を専門とする弁護士からの助言を受けることで、より効果的な対応が可能になりますので、企業経営における安心のパートナーとして、弁護士の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
適正な労務費転嫁を通じて、健全な企業成長を目指しましょう。
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