皆さんは「SOGIハラスメント」という言葉をご存じでしょうか。「SOGI」とは性的指向・性自認を指し、このSOGIに関して差別や嫌がらせを受けることを「SOGIハラスメント」と呼んでいます。近年セクハラやマタハラ、パワハラと言った表現は定着していますが、新たに認知されるようになったSOGIハラについても、ニュースなどで取り上げられることが出ていますので、今回はSOGIハラについて争われた事例について取り上げていきます。
SOGIハラスメントが問題となった事例
SOGIとは
そもそも「性」と一言にいっても、その「性のあり方」には4つの要素があると言われています。具体的には、
・法律上の性(出生時の身体的特徴から判断された性別をもとに戸籍等に記載された性別)
・性自認 (自分の性別をどう認識しているか)
・性的指向 (恋愛感情や性的な関心の向く方向性)
・性表現 (服装や髪型、言葉遣い、しぐさ等、自分をどう表現するか)
に分類しています。
このような4要素のうち、
性的指向(Sexual Orientation)
性自認(Gender Identity)
の頭文字をとったものが、SOGI(ソジ)です。
SOGIハラスメントとは
近年、SOGIから派生した「SOGIハラスメント」あるいは「SOGIハラ」という言葉が目に付くようになってきました。これは「SOGI」にハラスメントをつけた造語です。あらゆる人が持つ性的指向・性自認、それに関連して差別や嫌がらせを受けることを「SOGIハラ」と読んでいます。
近時のSOGIハラが問題になった例
2022年(令和4年)にSOGIハラによる労災認定がされた事例
これは、神奈川県にある製造業を営む会社で勤務していたAさんが、勤務先で上司からSOGIハラを受けうつ病を発症したとして、労災認定がされたケースです。
2017年に、性自認が女性であることを会社に公表したAさん(戸籍上は男性)は、そのように会社に公表されてからも、上司から「彼」と執拗に呼ばれたり、そのことを抗議したところ「君は『彼』でしょ?僕はだから戸籍が女性に変われば『彼女』とか」「女性として見られたいんであれば、そういう細やかな心遣いっていうのも必要なんじゃないか」などと言われ、2018年にうつ病を発症しました。
Aさんは、このような上司の言動に悩み、会社に相談するも社内では本社ではないところに人事異動を受けたり、SOGIハラは改善されず、ついに2018年にうつ病を発症し、2年半以上の休職をすることとなりました。
その後Aさんは2021年に職場復帰を果たすものの、Aさんが受けた被害は2022年、労基署から労災と認定されました。
うつ病になったとして労災認定を受ける事例は存在するものの、本件のAさんのように「長時間労働を伴わない」という形でハラスメント被害が労災認定を受けることは極めて稀であるとされています。しかし、仮に長時間労働のような目に見えた精神的・肉体的負担がなくても、性自認を否定されること自体が、人格を否定する人権侵害であると認定されたものと言えます。
サイトの運営会社でSOGIハラが問題になった事例
東京にあるサイト運営会社で働くトランスジェンダー(「法律上の性」と「性自認」が一致しない人)の30代女性のBさんが、元上司らからハラスメントを受けたとして、勤務会社とハラスメント発言をした元上司に対し、2022年訴訟を提起し、損害賠償を求めました。
Bさんの主張によれば、元上司から勤務当時、
腰に手を回されて性自認や性交渉の回数などを聞かれる、宴席で陰部に元上司の顔を押し当てられる、「なんで女装してんねん。アホかい。おまえ男やろがい」と言われたということです。
Bさんは社内の相談窓口に被害を報告し、会社も元上司と女性と接触させず、社内の飲み会にも参加させない措置を約束されたのですが、その後も当該元上司はBさんの執務スペースに立ち入ったり、飲み会に参加したりしていたそうです。
Bさんは元上司のこのような言動を受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの診断を受け、元上司の言動を「SOGI(ソジ)ハラ」だとして勤務会社と元上司を訴えることにしたのです。
勤務会社は、原告であるBさんの請求を全面的に認める「認諾」をし、法的にBさんが受けた元上司からの言動を「SOGIハラ」として、自身の賠償責任を認めました。
SOGIハラをはじめとしたハラスメントの責任
今回取り上げた2つの事例のように、SOGIハラが争点となっている事例は既に複数件社会で問題となっています。
ハラスメントが問題となった場合、その責任が問題となるのはハラスメント行為をした加害者にとどまらず、その勤務会社も使用者責任として賠償の責任を負うことがあります。
また、仮に金銭の支払いを認める賠償責任まで認められないとしても、ハラスメントがある職場では、ハラスメント被害者以外の周囲の労働者も不安や不信から労働意欲を削がれ、職場環境が悪化するのが通常でしょう。更には、「ハラスメントがあった企業」として、レピュテーションリスクを負うことにもなります。
ハラスメントではないかとの指摘を受けた際、なるべく早く会社として対応すること、そのためにSOGIハラ等の新たなハラスメントの概念についても常に知識をアップデートしておくことが重要です。
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